さて、以上のような高齢者の就業実態に至るまで、どのような雇用政策が講じられてきたのか、そして今回どのような新たな展開が見られるのか概説する。
1|65歳までの雇用確保の道程
政府による高齢者雇用対策が進められたのは1960年代からである。当時は50歳あるいは55歳くらいで定年を迎える時代であった。当時の引退した高齢者は子供と同居して扶養(私的扶養)されて余生をすごすのが通例であった。1961年に公的年金制度(国民皆年金)が制定されたが、当時の受給対象者は極僅かで、ほとんどの高齢者は自らの貯蓄を取り崩すか子供に世話になる形で引退後の生活をおくっていた。徐々に寿命が延伸し引退後の生活が長期化していくなかで、高齢期の生活(所得)保障のあり方が社会的に問題視され、当初に講じられた高齢者雇用対策は、引退後の「失業対策としての再就職(新規雇用)」に関する施策が中心であった。
1970年代に入ると労働市場内部における雇用維持施策、つまり「定年延長」の取り組みが始まる。1973年には改正雇用対策法で定年延長促進のための施策の充実が明示される等、「定年延長」が高齢者雇用対策の最重要課題として位置づけられるようになる。1960年代が定年後の事後的対応であったのに対し、70年代からは定年延長という予防的対応に高齢者雇用対策は切り替わっていったのである。
その後も「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法(1971年制定)」(略称:中高法)を中心に定年延長に向けた取り組みが進められ、1986年には前述の中高法が改称された「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(略称:高年齢者雇用安定法)のもとで企業に対する60歳定年の努力義務化が立法化される。しかし、時を同じくして60歳定年では事足りない事態を迎える。それは1985年に実施された年金制度の抜本的大改革である。老齢年金支給開始年齢を現行の60歳から65歳へ段階的な引き上げを行うことが決定される。高齢者雇用対策としてもこの年金制度改正を受ける形で1990年から「65歳までの継続雇用確保」の取り組みをスタートさせ、その前提として1994年には「60歳定年」の義務化がはかられることとなる。
60歳定年がほぼ定着すると、2004年には65歳までの雇用確保を確実なものとするべく措置の法的義務化(段階的対応)がはかられる。この結果、企業は、(1)定年の廃止、(2)定年の引き上げ、(3)継続雇用制度の導入、のいずれかの措置を講じなければならなくなった。(2)(3)については2013年4月1日までに雇用確保義務年齢を65歳以上に引き上げる必要があり、これで我々国民としては少なくとも65歳までの雇用確保の道筋がついたことになった。また2013年には継続雇用制度の対象者を限定する仕組みを廃止し、希望者全員が継続雇用されることになった。さらにこの間、厚生労働省主導のもと、70歳まで働ける企業推進プロジェクトが継続され、70歳までの雇用確保の延長に向けた取り組みも進められている。
2|生涯現役社会づくりに向けた検討
このように少なくとも65歳までの雇用の道筋をつけることで、高齢者雇用政策は一定の役割を終えたかと思われたが、平均寿命は延び続け、やがては人生90-100年時代となろうとしていること、また高齢者の身体機能の若返りも確認され、高齢者の就労意識も高いことなどを背景に、高齢者雇用政策もさらなる検討が求められるようになる。その方向は、年齢に関わらず活躍できる「生涯現役社会」を創造することである。ただ、それは言うほど簡単なことではない。65歳以降の雇用をさらに企業(事業者)に求めることは現実的でもない。そこで厚生労働省では2013年から有識者会議を重ね
5、2015年6月の段階で次のように「生涯現役社会の実現に向けた課題及び施策の方向性」が整理された。