2|高齢者の就業支援に向けた「地域」の今後の展望~3つの機関の相乗効果づくりを
この生涯現役促進地域連携事業が展開されていくと、高齢者の就業支援を行う公的な機関が3つ存在することになる。ハローワーク、シルバー人材センター、協議会(生涯現役促進地域連携事業)の3つである。個人にとっては高齢期のセカンドキャリアづくりに向けて可能性が拡がる話であり、基本的には歓迎すべき展開であるが、なぜ同じ地域の中で同じような機能をもった事業が展開されるのか、屋上屋を重ねるようなことではないかと首をかしげる人も少なくないであろう。その理由を「生涯現役促進地域連携事業」が創設された理由からひも解いてみたい。
これまで高齢者の就業機会を提供してきたハローワーク及びシルバー人材センターは、それぞれが求められる役割を果たしてきたことは事実である。しかしながら、生活者(高齢者)の立場から見ると課題が少なくない。まずハローワーク
10は率直に高齢者が求める魅力的な仕事がそもそも少ないのが実態である。ただハローワークはもともと民間の職業紹介事業では就職に結びつけることが難しい就職困難者を中心に支援する最後のセーフティーネットとしての役割を担っていること、また企業から寄せられる求人情報にもとづくため、高齢者に紹介できる仕事が少ないのである。つまり積極的に高齢者を雇おうとする事業者が少ない労働市場の実態が反映しているに過ぎない。また、シルバー人材センター
11は、基本的にシルバー人材センターに登録された「会員」に対して仕事を斡旋しており、個人は一定の会費を支払わなければサービスを享受できない。2014年現在の全国の会員数は約72万人で、65-74歳の人口を分母にした場合、シルバー人材センターへの参加率は僅か5%にすぎない。国の税金(国庫補助金)が投入されているにも関わらず、基本的に一部の会員にしかサービスを提供できないところが悩ましい。この点、就業支援を行う公的な福祉事業なのか、会員サービス事業なのか、組織そのもの性格が曖昧なところは制度的な問題と考える。このような現状のなか、個人としては民間の派遣会社に登録して新たな仕事を探そうとしたりするわけだが、新たな職に就けるのは相応のスキルや経験がある人が優先され、多くの高齢者はなかなか希望どおりの新たな就業先を見つけることが難しいのが実態と言える。この状況は、個人(高齢者)にとっても社会にとっても非常に不健康なことである。
そこで考案されたのが、「協議会」という新たな組織であり、「生涯現役促進地域連携事業」なのである。ここから重要なことは、こうした地域における新たな展開をどのように地域全体でプラスの方向に向わせていけるかということである。理想としては、協議会という一つのプラットフォームを拠点にハローワーク及びシルバー人材センター他の機関が、前述の「入口」「出口」「マッチング(中間支援)」のノウハウを共有しながら、互いに切磋琢磨し、相乗効果を享受できるようになることと考える。その結果は地域住民(高齢者)の活き活きとした高齢期の暮らしをもたらすことにつながる。これが今回の新たな高齢者雇用政策の狙いと言える。
生涯現役促進地域連携事業は手を挙げて採択された地域において、本年10月からスタートすることになるが、当面はいずれの地域も試行錯誤を重ねていくことになると思われる。自治体関係者においては労力のかかることと敬遠せず、まずは積極的に事業を行う方向で手を挙げていただきたい。多くの地域で展開されたノウハウが結実されていくことで、個人も社会も必要とする「生涯現役社会」、「高齢者が地域の支え手になる社会」が創造されていくことになる。また高齢者の就業支援が強化されることは、決して今の高齢者のためだけの話ではない。むしろ、次代の高齢者(中年、若者)の未来を支援することである。日本の希望を持てる未来を創造していくためにも、生涯現役促進地域連携事業が発展し、それぞれの地域全体が活性化していくことを大いに期待したい。
10 ハローワークは厚生労働省設置法第23条に基づき設置される公共職業安定所の略称であり、全国に544カ所(本所:437、出張所:94所、分室:13室)設置されている。組織的には、各都道府県労働局の職業安定部の元に位置づけられる。
11 2014年度現在、全国団体数(全国シルバー人材センター事業協会参加企業)は、1,304社であり、加入会員数は72万1712人(男性:48万5,182人、女性:23万6,530人)。加入団体数、会員数の推移について見ると、団体数は2003年に1,866社を数えたのがピークとなり、以降は次第に減少傾向にある。会員数は2004年に77万2197人となった後一旦減少したが、その後2009(平成21)年にそれを越す79万1,859人でピークとなり、その後は現在まで同じく減少傾向にある。