2|地域医療連携推進法人は都市部で通用するのか?
かかりつけ医機能報告制度で明らかになった過不足を穴埋めする方策として期待されている地域医療連携推進法人制度についても、その有効性には一定の留保が必要であろう。
そもそも、かかりつけ医の定義を日医など診療団体が定めた際、当時の日医会長は「高い目標を掲げています。(筆者注:診療団体内部では)『こんなに高い目標はできません』と言われましたが、理想は高く掲げて、少しでもそこに近づこうという考え方です」と説明していた
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このため、多岐に渡るかかりつけ医の機能を1人の医師、1つの医療機関で担保することは現時点では非現実的であり、筆者も連携の必要性を感じているし、「地域医療連携推進法人を活用する方向性は重要」という部会意見の方向性も支持する。
特に新型コロナウイルスへの対応では、回復した重症患者を一般病床に転院させられずに「目詰まり」が起きるなど、医療機関の連携が課題とされた。これは平時モードの医療でも、急性期病床で改善した患者の円滑な在宅復帰を促す上では、リハビリテーションなどを提供する回復期病床に転院させる連携も論点となっている
25。さらに既述した通り、在宅ケアの部分でも医療機関と介護事業所の連携が重視されている。こうした連携を後押しするための報酬改定や制度改正も実施されている。
しかし、これらの対応だけで連携が図れるのか、再考の余地がある。そもそも日本の医療制度では、患者が医療機関を自由に選べるフリーアクセスの下、それぞれの医療機関が患者獲得を巡って争っており、連携しにくい環境である。つまり、競争は連携を妨げる方向で働く。特に人口も、医療機関も多い都市部では、医療機関同士の連携が進みにくい。
さらに、患者は「A病院で心臓」「B病院で膝」といった形で、複数の医療機関を同時に選択できるため、医療機関とのファーストタッチである「医療の入口」を複数持てることになる。この状況では「医療の入口」に関する責任主体が明確になりにくく、「全ての訴えや問題に対応する」というケアの包括性が担保されにくい。
例えば、プライマリ・ケアでは、▽予防、治療,リハビリテーションなどの機能、▽よくある日常的な病気を中心とした全科的医療、▽小児から老人まで幅広い年齢層に対応――などを意味する「包括性」(Comprehensiveness)が重視されており、プライマリ・ケアを担う医師が患者の「代理人」のような形で、幅広い健康問題に責任を持つことに力点が置かれる。
一方、プライマリ・ケアでは協調性(Coordination)も強く意識されており、▽専門医との密接な関係、▽チーム・メンバーとの協調、▽住民との協調――などが掲げられている
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しかし、「医療の入口」に関する選択肢が多いと、ケアの包括性が高まりにくく、その結果として、他の専門職はどこに相談したらいいか分からなくなり、連携も阻害する方向に働く。つまり、「医療の入口」が複数にまたがることを認めるフリーアクセスでは、ケアの包括性を低くする方向に働く可能性がある。
こうした状況を踏まえると、地域医療連携推進法人も「万能」とは言えない。もちろん、在宅医療での連携など都市部に応じた使い方も想定されるが、フリーアクセスの軌道修正を通じて「医療の入口」を絞ることで、ケアの包括性を高める方向性も意識する必要がある。
その半面、ケアの包括性を高めるため、「医療の入口」を絞ろうとすると、医療機関の選択に関する患者の自由を奪うことになる。その意味で、「ケアの包括性強化」「患者の受療権確保」は二律背反を含んでおり、今回の論争の大きな焦点となった。この点については、後半で詳述することにしたい。
24 2019年9月1日『社会保険旬報』No.2758における日医の横倉義武会長の発言。
25 コロナ対応と地域医療構想との共通点に関しては、2021年10月26日拙稿「なぜ世界一の病床大国で医療が逼迫するのか」を参照
26 プライマリ・ケアの「包括性」「協調性」に関しては、日本プライマリ・ケア連合学会ウエブサイトを参照。本稿では上記の定義に沿って、「ケアの包括性」という言葉を使う。http://www.primary-care.or.jp/paramedic/
12――今回の決着の課題(4)