2024年度トリプル改定を読み解く(下)-医師の働き方改革、感染症対策など、その他の論点を考える

2024年09月11日

(三原 岳) 医療

7――提供体制改革に関する改定(5)~ヤングケアラー、重層的支援体制整備など~

1|居宅介護支援事業所に関する改定
このほかの提供体制改革に関わる改定として、ケアマネジャーが勤める居宅介護支援事業所に対する見直しが注目される。具体的には、質の高いケアマネジメントを提供する事業所を評価する「特定事業所加算」の要件に、「家族に対する介護等を日常的に行っている児童、障害者、生活困窮者、難病患者等の高齢者以外の対象者への支援に関する知識等に関する事例検討会、研修等に参加していること」が追加された点である。

この要件のうち、「家族に対する介護等を日常的に行っている児童」という部分については、両親や兄弟姉妹の面倒を過度に見ている子ども、いわゆる「ヤングケアラー」を意味する。ここで言うヤングケアラーとは明確な定義や線引きが存在するわけではないが、こども家庭庁のウエブサイト18では、「本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っているこども」と説明されている。

その上で、同庁ウエブサイトでは、ケアラー支援連盟が作成したイラストを使いつつ、「障害や病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている」「家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている」などが例示されている。

こうした子どもたちの存在に対する関心19が数年で急速に高まっており、近年の動きとしては、今年の通常国会で子ども・若者育成支援推進法が改正され、「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」が支援対象として明記された。さらに、同法に基づいて関係機関が参画している「子ども・若者支援地域協議会」と、虐待を受けている児童などを保護するためのネットワーク組織である「要保護児童対策地域協議会」が連携しつつ、ヤングケアラーを各地域で支援する方針も決まった。2022年度診療報酬改定でも、入退院支援加算の要件を変更することで、ヤングケアラーに対する配慮が講じられた20

しかし、ヤングケアラーの支援は手探りの状態が続いている。そもそもの問題として、ヤングケアラーの支援に際しては、医療、介護・福祉、教育、司法など幅広い専門職や支援機関が連携する必要があり、しかも児童生徒や若者の成長に合わせる形で、支援の内容も変更する必要がある。その意味では医療的ケア児と共通した難しさがある。

実際、こども家庭庁が作成したヤングケアラーのコーディネーターに関わる予算説明資料では、図表4の通り、様々な専門職や専門機関が支援に関わる必要が示されており、幅広い専門職や支援機関が関わる可能性を理解できる。こうしたネットワークにケアマネジャーも参画することが期待されたと言える。
さらに、特定事業所加算に加えられた要件のうち、「障害者、生活困窮者、難病患者等」も重要な内容を含んでいる。これは分野・属性を問わず、相談支援や地域の支え合いづくりなど取り組む「重層的支援体制整備事業」という事業が絡んでいる。

ここで言う重層的支援体制整備事業では、図表5の通り、「属性や世代を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つを通じて、継続的支援や多機関連携・多機関協働を強化することが意識されている21

例えば、80歳代の元気な高齢者と50歳代の引きこもりなど、これまでは「制度の狭間」で見落とされていた人達への支援を強化するため、相談体制の強化や地域のネットワークづくり、ネットワークへの参加支援などが重視されている。この事業は2021年度から市町村で段階的に実施されており、今回の改正では、生活困窮者支援などの場にケアマネジャーの出席を促すことで、重層的支援体制支援整備事業への関与が期待されたと言える。

言い換えると、ケアマネジャーの役割は一般的にケアプラン(介護サービス計画)作成とか、介護保険のサービス調整と理解されているが、これらの役割にとどまらない幅広い領域との連携を意識するように求められた形だ。より具体的に言えば、「個を地域で支える援助と、個を支える地域を作る援助を一体的に推進する手法」22と理解されているソーシャルワークの担い手として、ケアマネジャーが関与する必要性が意識されたと言える。
 
18 こども家庭庁ウエブサイト「ヤングケアラー」を参照。
https://www.cfa.go.jp/policies/young-carer
19 ここではヤングケアラーに関わる経緯を詳しく述べないが、毎日新聞の調査報道が契機となり、国や自治体で議論が加速した。詳細については、毎日新聞取材班編(2021)『ヤングケアラー』毎日新聞出版を参照。さらに、内尾彰宏ほか編著(2023)『自治体のヤングケアラー支援』第一法規、村上靖彦(2022)『「ヤングケアラー」とは誰か』朝日選書に加えて、先駆的な書籍として、渋谷智子(2018)『ヤングケアラー』中公新書も参照。
20 ヤングケアラーに関する2022年度診療報酬改定については、2022年5月16日拙稿「2022年度診療報酬改定を読み解く(上)」を参照。
21 重層的支援体制整備事業については、宮本太郎ほか編著(2023)『生活困窮者自立支援から地域共生社会へ』全国社会福祉協議会、永田祐(2021)『包括的な支援体制のガバナンス』有斐閣、鏑木奈津子(2020)『詳説 生活困窮者自立支援制度と地域共生』中央法規出版のほか、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2023)「重層的支援体制整備事業を検討することになった人に向けたガイドブック 重層的支援体制整備事業を始めてみたけどなんだかうまくいかない人に向けたガイドブック」、同(2021)「重層的支援体制整備事業に関わることになった人に向けたガイドブック」(全て社会福祉推進事業)を参照。
22 ソーシャルワークの考え方や事例に関しては、岩間伸之ほか(2019)『地域を基盤としたソーシャルワーク』中央法規出版を参照。
2|地域包括支援センターの負担軽減策
ヤングケアラーや重層的支援体制整備事業の関係では、地域包括支援センターの負担軽減策にも言及する必要がある。地域包括支援センターは主に中学校区単位で設立されている介護の相談窓口として、相談対応や軽度者向けケアマネジメント(介護予防支援)などに当たっている。

さらに、近年は既述した重層的支援体制整備事業への対応とか、仕事と介護の両立支援、ケアラーに対する支援、地域の支え合いづくりなどでも主体的な役割が期待されている。例えば、2022年12月の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会の意見書では、「地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応するため、重層的支援体制整備事業において、介護分野に限らず、障害分野、児童分野、困窮分野も含めた、属性や世代を問わない包括的な相談支援等を行うことなども期待されている」といった期待感が示された23

一方、地域包括支援センターの業務負担が増大している24ため、負担を軽減する観点に立ち、介護保険部会意見書では居宅介護支援事業所に対し、軽度な要支援者のケアマネジメント(介護予防支援)の業務委託を可能とする制度改正の必要性が言及された。その後、2024年度介護報酬改定では、居宅介護支援事業所に委託した場合の報酬単価やルールが定められた。

しかし、現場のケアマネジャーの話を総合すると、委託した場合の報酬単価(472単位)が高くないと受け止めており、今回の制度改正がどこまで有効か疑問である。支援を要するケースが困難化・複雑化する中、最前線を担う地域包括支援センターの負担軽減は決して容易ではないが、3年後の制度改正・報酬改定でも同様の論点が浮上しそうだ。

併せて、困難化・複雑化するケースに対応する上では、重層的支援体制整備を含む多機関・多職種連携についても重要な論点になる可能性が高い。その一つの証左として、2023年12月に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」では、困難化・複雑化するケースに対応するため、「一人の人材が複数の分野にわたる専門的知識を習得できるような工夫の検討」という文言が盛り込まれた25。分かりやすく言うと、1人の専門職が多職種・多機関連携に似た機能を担うことに対する期待感が示されているわけだ。

筆者自身、日常業務に追われる専門職がどこまで複数の資格を持てるのか、疑問に感じる面もあるが、困難化・複雑化するケースに対応する上では、複数の専門資格による多角的な支援が必要になることは間違いない。このため、現場レベルで多職種・多機関連携を積み上げることが求められるほか、国や自治体によるバックアップが重要になる。さらに、連携に関わる加算など報酬面での手当も引き続き論点の一つになる可能性が高い。

一方、トリプル改定では給付適正化に関わる見直しが幾つか講じられた。以下、(1)薬剤費に関する新たな患者負担の導入、(2)介護施設の居住費見直し、(3)サービス付き高齢者向け住宅の介護報酬見直し、(4)障害福祉報酬の見直し――の4つを取り上げる。
 
23 介護保険部会意見書の内容については、2023年1月12日拙稿「次期介護保険制度改正に向けた審議会意見を読み解く」を参照。
24 地域包括支援センターの業務過多に関しては、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2023)「地域包括支援センターの事業評価を通じた取組改善と評価指標のあり方に関する調査研究報告書」、NTT データ経営研究所(2022)「地域包括支援センターにおける業務負担軽減に向けた取組に関する調査報告書」(いずれも老人保健健康増進等事業)などを参照。
25 改革工程の意味合いや内容などについては、2024年2月14日拙稿「2024年度の社会保障予算の内容と過程を問う(下)」を参照。

8――給付適正化に関わる改定

8――給付適正化に関わる改定

1|薬剤費に関する新たな患者負担の導入
まず、2024年10月から始まる薬剤費に関する新たな患者負担である。この見直しでは、後発医薬品(いわゆるジェネリック)が普及している先発医薬品(いわゆる長期収載品)を対象に、保険給付の範囲が圧縮される一方、その代わりに患者負担が増えることになった。

具体的には、医学的な必要性が低いのに、医薬品の上市後5年経過または後発医薬品の置き換えが50%以上となった長期収載品を使った場合、保険給付の範囲が縮小され、後発医薬品の最高価格帯との差の4分の3に限定される代わりに、患者から「特別の料金」を追加的に徴収することになった。これは保険給付の範囲縮小であり、結果的に国・自治体の公費(税金)と保険料が軽減されることになる。

さらに、この見直しは製薬業界におけるイノベーションを促す狙いも込められており、2023年6月に公表された「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書では、製薬企業が長期収載品に収益を頼っている現状を脱却する必要性が示されていた。

新しい制度の対象となるのは1,095品目。例えば、長期収載品が200円、後発医薬品100円の場合、差額100円の4分の3までが保険給付の対象となり、残りが「特別の料金」として通常の患者負担に上乗せされる形となった。

この関係では調剤報酬のうち、「特定薬剤管理指導加算3」(5点)という類型も見直された。これは薬剤師による服薬指導に際して、「特に患者に対して重点的に丁寧な説明が必要となる場合」を評価する仕組み。今回の改定では、リスクの高い薬の安全性に関する情報提供に加えて、選定療養の対象となる長期収載品を選択しようとする患者への説明も加算の対象に位置付けられた。

ただ、非常に複雑な仕組みであり、今後は現場での混乱を回避するため、処方箋を出す医師が患者に対して丁寧に説明することが求められる。さらに、薬局でも調剤に際して、薬剤師が患者に同意と納得を得るための説明が重要になる。

制度面での注目点としては、「選定療養」の仕組みが用いられた点を指摘できる。選定療養とは、患者が追加費用を負担すれば、保険適用外の治療やサービスを保険適用分と一緒に受けることができる仕組み。本来であれば、保険適用分と保険適用外を組み合わせる「混合診療」は禁止されているのに対し、選定療養は例外的な存在と言える。これまでも差額ベッドなどが位置付けられており、近年は紹介状なし大病院受診の追加負担26も選定療養として整理されている。

今回、導入された仕組みのうち、長期収載品と後発医薬品の価格差のうち、4分の1に相当する部分は選定療養に位置付けられており、後発医薬品の拡大に向けて、選定療養の対象が広げられたことになる。今後は「4分の1」とされている比率が引き上げられる可能性が想定される。

しかも、2024年6月に決まった「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)」では、「イノベーションの進展を踏まえた医療や医薬品を早期に活用できるよう民間保険の活用も含めた保険外併用療養費制度の在り方の検討を進める」といった文言も盛り込まれており、今後も医療イノベーションの促進や保険財政の効率化などを企図するため、同様の仕組みが拡大することも想定される。
 
26 紹介状なし大病院受診に関する追加負担に関しては、「診療所や中小病院=日常的な病気やケガ」「大病院=高度な手術や検査を要する病気」といった医療機関の役割分担を明確にするため、2016年度診療報酬改定で導入された。その後、追加負担の金額が2022年10月以降、5,000円から7,000円に引き上げられたほか、追加負担を徴収される「大病院」の定義も少しずつ拡大され、現在は200床以上病院が対象となっている。さらに、都道府県を中心とする地域の合意形成を経ると、200床未満の地域医療支援病院(かかりつけ医などを支援する医療機関)も対象に加えられた。さらに、地域の判断では追加負担を取る医療機関を増やすことが可能となり、この場合は「紹介受診重点医療機関」に位置付けられることになった。一連の制度改正の経緯や論点については、2022年10月25日拙稿「紹介状なし大病院受診追加負担の狙いと今後の論点を考える」を参照。
2|介護施設の居住費見直し
介護保険関係の給付適正化では、施設系サービスの多床室(いわゆる相部屋)に関する室料に関して、利用者負担が増えた。元々、介護老人保健施設(以下は老健)、介護医療院の多床室に関して、室料負担が徴収されていなかった。このため、多床室の室料を徴収している特養に比べて、利用者負担が低くなっているとして、財務省が室料相当額の徴収を求めていた。

しかし、老健や介護医療院では医学的なニーズの高い入居者に対して医療も提供されているため、2022年12月の介護保険部会意見では賛否両論を挙げつつ、「介護給付費分科会において介護報酬の設定等も含めた検討を行い、次期計画に向けて、結論を得る必要がある」と規定された。つまり、2024年度介護報酬改定での設定も視野に入れつつ、結論が先送りされた形だった。

結局、2024年4月から始まった介護報酬改定では、特養と同様に「生活の場」に近い施設類型について、月額8,000円の室料負担を取ることが決まった。具体的には、老健の「その他型」「療養型」と、介護医療院のうち、状態が安定した高齢者を受け入れる「Ⅱ型」で負担増の対象となった。

しかし、財務省は2024年4月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関、以下は財政審)で、室料負担を徴収する対象は老健で約6%、介護医療院で約32%にとどまるとして、さらなる負担増を求めており、2027年度にも実施される次期制度改正に向けた見直し論議でも引き続き焦点になりそうだ。

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

関連レポート

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)