1|薬剤費に関する新たな患者負担の導入
まず、2024年10月から始まる薬剤費に関する新たな患者負担である。この見直しでは、後発医薬品(いわゆるジェネリック)が普及している先発医薬品(いわゆる長期収載品)を対象に、保険給付の範囲が圧縮される一方、その代わりに患者負担が増えることになった。
具体的には、医学的な必要性が低いのに、医薬品の上市後5年経過または後発医薬品の置き換えが50%以上となった長期収載品を使った場合、保険給付の範囲が縮小され、後発医薬品の最高価格帯との差の4分の3に限定される代わりに、患者から「特別の料金」を追加的に徴収することになった。これは保険給付の範囲縮小であり、結果的に国・自治体の公費(税金)と保険料が軽減されることになる。
さらに、この見直しは製薬業界におけるイノベーションを促す狙いも込められており、2023年6月に公表された「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書では、製薬企業が長期収載品に収益を頼っている現状を脱却する必要性が示されていた。
新しい制度の対象となるのは1,095品目。例えば、長期収載品が200円、後発医薬品100円の場合、差額100円の4分の3までが保険給付の対象となり、残りが「特別の料金」として通常の患者負担に上乗せされる形となった。
この関係では調剤報酬のうち、「特定薬剤管理指導加算3」(5点)という類型も見直された。これは薬剤師による服薬指導に際して、「特に患者に対して重点的に丁寧な説明が必要となる場合」を評価する仕組み。今回の改定では、リスクの高い薬の安全性に関する情報提供に加えて、選定療養の対象となる長期収載品を選択しようとする患者への説明も加算の対象に位置付けられた。
ただ、非常に複雑な仕組みであり、今後は現場での混乱を回避するため、処方箋を出す医師が患者に対して丁寧に説明することが求められる。さらに、薬局でも調剤に際して、薬剤師が患者に同意と納得を得るための説明が重要になる。
制度面での注目点としては、「選定療養」の仕組みが用いられた点を指摘できる。選定療養とは、患者が追加費用を負担すれば、保険適用外の治療やサービスを保険適用分と一緒に受けることができる仕組み。本来であれば、保険適用分と保険適用外を組み合わせる「混合診療」は禁止されているのに対し、選定療養は例外的な存在と言える。これまでも差額ベッドなどが位置付けられており、近年は紹介状なし大病院受診の追加負担
26も選定療養として整理されている。
今回、導入された仕組みのうち、長期収載品と後発医薬品の価格差のうち、4分の1に相当する部分は選定療養に位置付けられており、後発医薬品の拡大に向けて、選定療養の対象が広げられたことになる。今後は「4分の1」とされている比率が引き上げられる可能性が想定される。
しかも、2024年6月に決まった「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)」では、「イノベーションの進展を踏まえた医療や医薬品を早期に活用できるよう民間保険の活用も含めた保険外併用療養費制度の在り方の検討を進める」といった文言も盛り込まれており、今後も医療イノベーションの促進や保険財政の効率化などを企図するため、同様の仕組みが拡大することも想定される。
26 紹介状なし大病院受診に関する追加負担に関しては、「診療所や中小病院=日常的な病気やケガ」「大病院=高度な手術や検査を要する病気」といった医療機関の役割分担を明確にするため、2016年度診療報酬改定で導入された。その後、追加負担の金額が2022年10月以降、5,000円から7,000円に引き上げられたほか、追加負担を徴収される「大病院」の定義も少しずつ拡大され、現在は200床以上病院が対象となっている。さらに、都道府県を中心とする地域の合意形成を経ると、200床未満の地域医療支援病院(かかりつけ医などを支援する医療機関)も対象に加えられた。さらに、地域の判断では追加負担を取る医療機関を増やすことが可能となり、この場合は「紹介受診重点医療機関」に位置付けられることになった。一連の制度改正の経緯や論点については、2022年10月25日拙稿「紹介状なし大病院受診追加負担の狙いと今後の論点を考える」を参照。