2|生産性向上の論点
むしろ、多くの紙幅が割かれているのは生産性向上である。これは少ない人材でも現場が回る仕組みづくりや、事務作業に関する負担を軽減して介護職員がケアに集中できる環境の整備などが意識されており、先に触れた政策パッケージのほか、業界団体を交えた介護現場経営革新会議が2019年3月に取りまとめた「基本方針」などで、ICT化の推進などの論点や方向性が示されている。さらにロボットの導入やICT化に向けた補助制度の整備・充実なども図られており、部会意見では、こうした経緯を踏まえつつ、いくつかの論点が列挙された。
具体的には、生産性向上に関する事業所の相談に対応するワンストップ窓口を都道府県に設置する方針に加えて、▽生産性向上に向けた自治体の役割を法令上、明確化、▽現場の生産性向上に関する好事例の発信、▽ロボットなどのテクノロジー導入に向けた伴走支援、▽経営規模の大規模化に向けた好事例の発信、▽文書作成の負担を軽減するため、標準形式の統一化に向けた法令上の措置――などが掲げられた。
このうち、ワンストップ窓口の設置については、2023年度当初予算案に「介護生産性向上総合相談センター(仮称)」を都道府県に置く経費が計上された。厚生労働省の担当室長は「地域の関係者によるコンセンサスに基づいて、相談窓口を含めた推進体制をつくってほしい」と期待感を示しつつ、体制や機能については、都道府県ごとに構築すると説明している
18。
焦点になったのは人員基準の見直しだった。政府の規制改革推進会議はICTの活用などを通じて、現在の3:1基準(利用者3人に対して職員1人を配置する基準)よりも少ない人員で、現場を回せるかどうか可能性を模索したが、介護の質が下がるとして、関係団体や介護現場から反発の声が続出した。
その後、2022年6月に決まった規制改革実施計画では、先進的な特定施設(介護付き有料老人ホーム)に関して、ICTやロボットの活用で、「現行の人員配置基準より少ない人員配置であっても、介護の質が確保され、かつ、介護職員の負担が軽減されるかに関する検証」を2022年度に実施するとされていた。
これに対し、部会意見では「現在実施している実証事業などで得られたエビデンス等を踏まえ、テクノロジーを活用した先進的な取組を行う介護付き有料老人ホーム等の人員配置基準を柔軟に取り扱うことの可否を含め、検討することとしている」という文言にとどまった。
一方、政策パッケージでは「現在実施している実証事業などで得られたエビデンス等を踏まえ、先進的な取組を実施している事業所の人員配置基準を柔軟に取り扱うことを含め、次期報酬改定の議論の中で検討する」と定められており、2024年度介護報酬改定に向けた論点になりそうだ。
さらに、介護施設で食事の配膳など関連業務を担う「介護助手」に関しては、介護助手に切り分け可能な業務の体系化、制度上の位置付け、評価・教育の在り方、専門職との連携などの留意点を挙げた上で、「導入促進のための方策を引き続き検討」という方向性が示された。
このほか、部会意見では、介護事業所の経営を可視化するため、経営状況に関する情報を都道府県に定期的に届け出る仕組みを整備する方針も盛り込まれた。今後、グルーピングした分析結果を厚生労働省が公表するとされている。
以上の内容を踏まえると、論争を呼んだ人員配置基準の見直しを含めて、ほとんどの案件が先送りされるか、既存施策の充実の方向性が確認されるにとどまった。新たな制度改正案件を敢えて挙げると、生産性向上に関する相談窓口を都道府県に設置する点や、生産性向上に関する自治体の法令上の役割を明確にする方向性、事業所の経営情報を報告・開示させる仕組みの創設などが盛り込まれた程度に終わった。
18 厚生労働省老健局介護業務効率化・生産性向上推進室の占部亮室長による発言。2023年1月1日『シルバー新報』を参照。
5――科学的介護などの施策充実