「
ネイピア数(Napier’s constant)」は、通常「e」という記号で表される、次の定数である。
e = 2.71828182845904523536……
これは、無理数であり、「超越数
2」と呼ばれているものである。
「ネイピア数」と呼ばれる理由については、現在ネイピア数と呼ばれているものについて、最も古くに研究を行ったジョン・ネイピア(John Napier:1550~1617)
3に由来している。ただし、ジョン・ネイピア自体は、現在良く知られているようなネイピア数を示していたわけではなく、欧米ではむしろ、レオンハルト・オイラー(Leonhard Euler:1707~1783)に因んで、「
オイラー数(Euler Number)」と呼ばれることもある
4。
米国の数学者であり、数学史家のフロリアン・カジョリ(Florian Cajori)によれば、この定数に初めて定数記号を割り当てたのはドイツの数学者ゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Leibniz)で、1690年と1691年にオランダの数学者クリスティアーン・ホイヘンス(Christiaan Huygens )に宛てた手紙の中で、「b」という文字を使用した。その後、オイラーが1727年から1728年に書いた写本で、「e」という文字を使用した。
オイラーが「e」を使用した理由についての一般的なコンセンサスはないようで、Euler自身は非常に控えめな人間だったので、
「(1)自らの名前{Euler}の頭文字の「e」を採用したという説」
はあまり受け入れられていないようである。むしろ、以前の研究員の眼で説明したような定義から
「(2)「指数(exponential)」に由来しているとの説」や
「(3)文字のa、b、c、dが既に数学の他の場所で頻繁に使用されていたため、アルファベットの最初の「未使用」文字として選択されたという説」
「(4)eがaに続く母音であったことが関係していたという説」
があるようである。さらには、
「(5)「ein(ドイツ語の「1つ」の意味)」や「Einheit(ドイツ語の「単位」の意味)」の頭文字に由来しているとの説」
もあるようである。
いずれにしても、その後多くの数学者がこの「e」を使用することで、オイラーによって使用された他の多くの記号と同様に、普遍的に受け入れられて広く定着していったようである。
2 「超越数(transcendental number)」とは、有理数を係数にもついかなる代数方程式の解とはなりえない数(すなわち、どんな有理数 a0,a1,…,an を係数とする n 次の代数方程式 a0xn+a1xn-1+…+an-1x+an=0 の解にもならないような数)のことである。有理数は一次方程式の解であるから、超越的な実数はすべて無理数になるが、無理数 √2 は x2 − 2 = 0 の解であるから、逆は成り立たない。複素数(実数を含む)の中で,超越数でないものを「代数的数(algebraic number)」というが、代理的数は可算個しかなく,この意味で,複素数の大部分は超越数である。
3 ジョン・ネイピアは、スコットランドのバロンで、数学者、物理学者、天文学者、占星術師としても知られていた。「対数」の発見者とも言われている。
4 「オイラーの定数(Euler's constant)」あるいは「オイラー・マスケローニ定数(Euler–Mascheroni constant)」と一般的に呼ばれるものは、「γ(ガンマ)」で表される約0.5772156649 となる数である。