2024年度トリプル改定を読み解く(中)-重視された医療・介護連携と急性期見直し、政策誘導の傾向鮮明に

2024年07月29日

(三原 岳) 医療

5|ICUの要件厳格化も
このほか、急性期医療の見直しでは、ICUを持つ病院を対象とした「特定集中治療室管理料」の要件厳格化も見逃せない。この管理料はICUを有する医療機関について、配置される医師や看護師、治療室の面積、先に触れた「重症度、医療・看護必要度」に応じて細かく分かれており、医療機関サイドが重症な患者を受け入れるほど、高い点数を取れる仕組みになっている。

今回の見直しでは、特定集中治療室管理料の区分が1~4の4種類から1~6の6種類に細分化されるとともに、診療報酬の点数が高い4つの区分(1~4)については、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)という数値基準が導入された。

ここで言うSOFAとは重症患者を対象としたスコアであり、呼吸や肝臓、循環、中枢など6種類の機能不全を0~4点で点数化し、最大24点で評価する。2024年度診療報酬改定では、管理料1~2で「入室日のSOFAスコア5以上」、3~4で「入室日のSOFAスコア3以上」という数値基準が設定された。言い換えると、ICUを備えた医療機関が高い診療報酬点数を取ろうとすると、重症度が高い患者を受け入れる必要に迫られた形であり、急性期医療の適正化に繋げる意図を読み取れる。

このほか、ICUの関係では医師の配置基準も見直された結果、1~4の管理料では専任の医師について、一定の場所で夜勤や拘束される「宿日直」の医師ではないことが要件化された。これは医師の働き方改革を意識した医師の負担軽減という側面を持つとともに、医療機関は医師を多く確保することが求められることになり、ICUを含めた急性期医療の適正化に繋がる要素を持っている。

なお、医師の働き方改革の関係では、労働時間の短縮に取り組む救急病院を主な対象とした「地域医療体制確保加算」も見直されており、(下)で取り上げる。
6|DPCの要件厳格化など
さらに、入院医療を包括的に評価するDPC(診断群分類)も厳格化された。DPCは一定規模以上の病院における診療や検査などを包括的に評価する仕組みであり、医療機関の状況を細かく評価する「係数」が設定されている。2024年度改定では平均在院日数の短縮など、医療提供体制の効率化に寄与する取り組みを評価する「機能評価係数Ⅱ」の6項目のうち、データの透明化などを図る「保険診療係数」が削除された。

この意図について、厚生労働省幹部は「(筆者注:保険診療係数は)ほぼ全てで『100点』を取れるので、医療機関間で差が付かない」とした上で、「その分を他の係数に振っているので、他の係数が平均よりも高いところは良くなる一方、低いところは下がります」と説明している23。要はDPCの絞り込みを図るため、多くの医療機関が満たしている係数を撤廃したというわけだ。

さらに、DPCの対象となる病院の基準に「調査期間1月当たりのデータ数が90以上」という要件も加えられた。この結果、要件を満たせない医療機関はDPCの対象病院から外れる可能性があり、中医協の診療側委員からは「『中小病院はDPCから退出して結構です』というメッセージになっている」「DPC算定が1病棟のみの病院では、『データ数90以上』を満たすのは結構厳しい」との声が出ている24。これも急性期医療の適正化策の一つと受け止めていいだろう。

このほか、▽急性期医療を評価する「総合入院体制加算」の要件厳格化、▽3次医療機関に搬送された患者について、連携する医療機関でも対応が可能と判断した場合、転院搬送を評価する「救急患者連携搬送料」(最大1,800点)の創設、▽高度かつ専門的な医療の実績や高度急性期医療の実施体制を評価する「急性期充実体制加算」の要件厳格化――などの改正が盛り込まれた。

地域包括ケア病棟に関しても、救急搬送患者の緊急入院や介護施設からの搬送患者を受け入れる場合の点数が引き上げられたほか、入院日数に応じて点数を減らす仕組みも設けられた。
 
23 2024年3月13日『m3.com』配信記事における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
24 2024年3月25日『m3.com』配信記事における日本医療法人協会副会長の太田氏に対するインタビューを参照。
7|急性期医療の見直しという共通点
以上のような細かい改定項目を照らし合わせると、高齢者救急を見直す動きとか、地域包括医療病棟の創設の意図が単なる医療・介護連携にとどまらない様子を読み取れる。むしろ、地域医療構想の制度化などで一貫して意識されている急性期病床の適正化、さらに言うと、中小規模病院の再編を促す意図が見え隠れする。

実際、厚生労働省幹部は「今回の改定を踏まえ、高度急性期、急性期では、集約化が進むのではないか、と見込んでいます」と述べている25。費用抑制に期待する健保連も、地域包括医療病棟の新設や地域包括ケア病棟の見直しを意識しつつ、「医療資源の投入量等に応じてメリハリを効かせる内容」「病床機能の分化・強化連携が進むことを期待しています」と話している26

しかし、これらの期待とは裏腹に、現場の医療機関は地域包括医療病棟について、模様眺めを続けている。例えば、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が2024年6月に公表した調査27では、「地域包括医療病棟への転換を予定している」と答えた病院はわずか3.9%にとどまり、「検討中」も14.1%に過ぎなかった。さらに、在支病などで構成する日本在宅療養支援病院連絡協議会の調査28でも、「検討中」が41.7%に及んだものの、「移行する」という答えは4.2%だった。

このように消極的な理由として、リハビリテーション職の配置基準など施設基準を満たせない点などが挙がっており、診療団体では「(筆者注:リハビリテーション専門職確保に苦労している)傾向に拍車がかかることは十分に考えられる」29、「(筆者注:移行しない理由が)多項目で厳しい。どのようにしたら選びやすくなるのか分からなくなってしまったという結果だ」との声が出ている30

このため、厚生労働省や健保連の期待通りに急性期医療の見直しに繋がるかどうか、現時点では微妙な状況だ。そこで、「要件が厳し過ぎる」といった声に配慮する形で、2024年5月に示された疑義解釈では、一部の要件について、2026年5月まで経過期間を設ける方針が示された。

一方、要件を緩和し過ぎると、7対1基準からの移行も含めて、制度改正の趣旨が骨抜きになりかねないため、地域包括医療病棟の要件は2026年度診療報酬改定でも引き続き論点となりそうだ。
 
25 2024年7月1日『週刊社会保障』No.3274における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
26 2024年6月10日『週刊社会保障』No.3271における健保連理事の松本氏のインタビューを参照。
27 2024年6月10日公表の日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会による「地域包括医療病棟入院料への移行調査≪集計速報値≫報告書」を参照。有効回答は1,002病院。
28 2024年6月30日公表の日本在宅療養支援病院連絡協議会による調査。有効回答数は96病院。なお、同協議会ウエブサイトに掲載されている調査結果では、公表された日付が分からないため、同調査結果を報じた2024年7月1日『GemMed』配信記事を参照。
29 2024年5月号『日経ヘルスケア』における日本医療法人協会副会長の太田氏に対するインタビュー記事を参照。
30 2024年6月26日の記者会見における全日本病院協会長の猪口氏による発言。同日配信『m3.com』配信記事を参照。

8――過去の改革や改定との対比を通じた考察(2)

8――過去の改革や改定との対比を通じた考察(2)~入退院支援や看取り、外来、在宅など~

1|地域医療構想、かかりつけ医の機能強化、過去の改定
同じく入退院支援や看取り、外来、在宅などでも、他の制度改革や過去の報酬改定との対比が必要と考えており、この部分でも既述した地域医療構想との関係性が欠かせない。

具体的には、既に記述した通り、地域医療構想は急性期病床の見直しに加えて、リハビリテーションなどを提供する回復期の充実や医療機関同士の連携、在宅復帰支援、在宅医療の充実、医療・介護連携も意識されている。実際、現在の制度改革の流れを作った2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書では、「川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべき」という文言を用いることで、「川上」に相当する病床から「川下」の地域に患者を流す意図が示されていた。

過去の改定でも、上記の観点に沿った見直しが講じられており、2021年度介護報酬改定では、ケアマネジャーが退院支援業務に当たってもらえるようにする「通院時情報連携加算」(1カ月当たり50単位)が創設された31。具体的には、ケアマネジャーが利用者の通院に付き添うとともに、利用者の心身状況や生活環境などを医師などに情報提供したり、医師から情報を提供してもらったりした後、これらの情報をケアプラン(介護サービス計画)に記録した場合、加算を受け取れるようにした。現行制度では、どんなにケアマネジャーが退院支援に協力しても、高齢者が回復したり、亡くなったりして、介護保険サービスを使わない場合、居宅介護支援費の報酬は発生しない限界があるため、通院時情報連携加算を通じた連携が企図された。

実際、厚生労働省の委託調査32では、約4分の3の事業所が算定しておらず、2024年度改定でも大きく変更されたわけではないが、退院支援に際して、在宅介護を受ける際の「入口」となるケアマネジャーの「タダ働き」を防ぐことで、切れ目のない提供体制を構築しようとしていると考えれば、医療提供体制改革における一つの手立てと理解できるし、医療・介護連携の進化に向けた国の意図を読み取れる。

一方、病床を「川上」と捉える発想では、住民や患者が暮らす地域を「病床削減の受け皿」と見なすことになり、筆者は「病院を『川上』、地域を『川下』と発想し、医療提供体制改革を論じるのは本末転倒」と大きな違和感を抱いていた33

その後、新型コロナ禍を契機に、かかりつけ医の機能強化論議が浮上34。2022年12月の社会保障審議会医療部会意見書では、2025年の目標年次が近付く地域医療構想について、「病院のみならずかかりつけ医機能や在宅医療等を対象に取り込み、議論を進めた上で、慢性疾患を有する高齢者の増加や生産年齢人口の減少が加速していく 2040年頃までを視野に入れてバージョンアップを行う必要がある」という文言が入った。

さらに、2023年通常国会における法改正を経て、かかりつけ医機能の強化に向けた検討が現在、厚生労働省の審議会で進んでおり、2024年6月に閣議決定された骨太方針でも「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大する」という文言が盛り込まれている。
 
31 2021年度介護報酬改定の内容については、2021年5月14日拙稿「2021年度介護報酬改定を読み解く」を参照。
32 三菱総合研究所(2023)「居宅介護支援および介護予防支援における令和3年度介護報酬改定の影響に関する調査研究事業報告書」(老人保健事業推進費等補助金)を参照。調査対象は2022年9月提供分、回答数は753件。
33 詳細については、2017年12月8日拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(4)」を参照。
34 ここでは詳しく触れないが、かかりつけ医の位置付けや定義が曖昧だったことが新型コロナウイルス禍で浮き彫りになり、その機能強化を巡って財務省、日医、健保連などが激しい攻防を繰り広げた。結局、2023年通常国会で創設が決まった新制度では、入退院支援や介護との連携など、かかりつけ医が地域で果たしている機能を可視化し、自治体や地域の医師会が協議しつつ、機能を充足することが想定されている。現在、厚生労働省の審議会で詳細な議論が進んでおり、2025年度からスタートする見通しだ。法改正の内容や検討経過に関しては、2023年8月28日拙稿「かかりつけ医強化に向けた新たな制度は有効に機能するのか」、同年7月24日拙稿「かかりつけ医を巡る議論とは何だったのか」、2021年8月16日拙稿「医療制度論議における『かかりつけ医』の意味を問い直す」を参照。
2|介護予防の強化
今回の改定のうち、リハビリテーション・口腔・栄養の一体的な運用に関しては、介護予防の強化という文脈も意識する必要がある。政府は近年、介護保険の給付抑制を目指す手段として、要支援・要介護状態の維持や改善を図る「自立支援・重度化防止」を重視しており、その一環として、2018年度改定ではADLの維持・改善に取り組む通所介護(デイサービス)に対するインセンティブとして、「ADL維持等加算」が創設された。

さらに、リハビリテーション・口腔・栄養の連携に関しては、2021年度介護報酬改定の時点で「今回の改定でやりたかったものの一つ」「(筆者注:3つが)一体となって取り組むことでより効果的な自立支援・重度化防止につながることが期待される」35と説明されていた。このほか、データに基づく介護を目指す「科学的介護」が2021年度報酬改定からスタートしており、ここでも高齢者の身体的自立が専ら意識されている36
 
35 2021年2月5日に開催された慢性期リハビリテーション学会における老健局老人保健課長の眞鍋氏による説明。2021年3月1日『社会保険旬報』No.2812を参照。
36 科学的介護に関しては、「LIFE(Long-term care Information system For Evidence)と呼ばれるデータベースへのデータ提出→国によるデータ分析→フィードバックされた情報の活用」を促すため、「科学的介護推進体制加算」が2021年度に創設された。なお、筆者はデータ活用の必要性を認識しつつも、その限界を当初から指摘している。詳細については、2021年9月15日拙稿「科学的介護を巡る「モヤモヤ」の原因を探る」、2019年6月25日拙稿「介護の『科学化』はどこまで可能か」を参照。

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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