4|最近の制度改正は先送りか、小粒案件
一方、介護保険を取り巻く環境を考えると、ここで触れた2割負担の話とか、インフレ対応の制度改正だけに時間とリソースを費やす余裕はないように見受けられる。具体的には、制度創設時から比べると、単身世帯の増加など人口・世帯構造が大きく変化しており、家族による介護を以前よりも想定しにくくなっている。さらに、老齢人口の増加に伴って認知症の人が多くなる点を踏まえると、要支援・要介護認定の考え方自体を一度、見直す必要があるかもしれない。このほか、将来的な人材不足を意識すると、AI(人工知能)の導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)を含めたテクノロジーの現場への実装も意識する必要がある
29。
このように考えると、少なくとも2割負担の対象者引き上げの是非という同じテーマを議論し続けるような時間的な余裕はないことに気付かされる。筆者自身の意見としては、対象者拡大を実施するまたは実施しないの選択肢に関わらず、一刻も早く一応の結論を見出した上で、人材確保などの課題に対応する必要があると考えている。
付言すると、3年に一度の制度改正の見直しサイクルを一度、止めてでも制度改正の在り方を模索する必要があるかもしれない。筆者が見る限り、3年サイクルの制度改正に際して、老健局は新たな案件(霞が関では「弾」と称されることが多い)を探している印象を受けるが、少ない定員と市町村・企業の職員受け入れでやり繰りしている厳しい状況である。
さらに、その「弾」でさえ、最近は「小粒」の案件か、結論の先送りが相次いでいる。具体的には、3年前の2021年度改正では、全額を保険給付で賄っているケアマネジメント費の有料化
30とか、要介護1~2の人の給付見直し
31が浮上した。
しかし、結局は高額介護サービス費の見直しなどに留まり、「小粒」に終わった
32。さらに、これらのテーマは2024年度制度改正でも議論の俎上に上ったが、本稿で述べた2割負担の対象者拡大と同様、次の次の制度改正まで結論が先送りされた。
このほか、2024年度制度改正では、通所介護(デイサービス)と訪問介護を組み合わせる新サービスを創設する話も浮上し、業界関係者の注目を浴びたが、2023年12月の社会保障審議会介護給付費分科会の取りまとめでは、「より効果的かつ効率的なサービスのあり方について、実証的な事業実施とその影響分析を含めて、更に検討を深めることとしてはどうか」という文言が入り、2024年度には導入されないことになった。
つまり、最近の制度改正論議では、同じようなテーマを繰り返し議論しているのに結論を見出せず、「小粒」の制度改正案件が積み重ねられている形だ(しかも、新サービスの創設見送りに代表されている通り、「小粒」な案件さえ実現できていない)。
一方、制度改正を現場で担う市町村や事業所も、国から間断なく示される通知やガイドラインに振り回されている結果、足元を見詰め直す余裕がないように見受けられる
33。これでは人材不足やインフレなどを踏まえた介護の将来像を議論することは困難と言わざるを得ず、国・自治体ともに制度改正に振り回されている実情を改める必要がある。
29 この関係では近年、厚生労働省は「介護現場の生産性向上」を重視しており、自治体における相談窓口の設置やガイドラインの作成などに取り組んでいる。2024年度介護報酬改定でも、生産性向上の方策を職員同士で話し合う委員会の設置が事業所に義務付けられたほか、テクノロジー導入に関わる加算措置も設けられた。この点は稿を改めて取り上げる。
30 ここでは詳しく触れないが、介護保険サービスの仲介などを担うケアマネジメント費は全額、保険給付で賄われている。しかし、財務省は給付適正化の観点に立ち、利用者負担を徴収する制度改正を求めている。ケアマネジメント費の有料化を巡る論点に関しては、2022年9月28日拙稿「居宅介護支援費の有料化は是か非か」を参照。
31 ここでは詳しく触れないが、要支援者の訪問介護、通所介護を移行させた「介護予防・日常生活支援総合事業」(通称、総合事業)を要介護1~2に拡大する是非が浮上している。総合事業の論点については、2023年12月27日拙稿「介護軽度者向け総合事業のテコ入れ策はどこまで有効か?」を参照。
32 2021年度改正に関しては、2021年5月14日拙稿「2021年度介護報酬改定を読み解く」、2019年12月24日拙稿「『小粒』に終わる?次期介護保険制度改正」を参照。
33 市町村が制度改正への対応に疲弊している実情については、審議会報告書で多用されている「地域の実情」という言葉に着目したコラムの第1回で取り上げた。
8――おわりに