4|2~3割負担の対象者拡大
第3に、2~3割負担の対象者の拡大については、2割負担の対象者を広げる是非が2023年夏に先送りされた。元々、介護保険制度では所得にかかわらず、1割負担が採用されていたが、2015年度改正で2割負担、2018年度改正で3割負担が導入された
8。この基準は現在、本人所得220万円以上の場合は3割負担、同160万円以上220万円未満は2割負担に設定されている(その他にも細かい基準が設けられている)。この基準を下げることで、2~3割負担の対象者を広げれば、給付を抑制できる。
ただ、前回の2021年度改正では、高齢者医療費の患者負担を増やす是非が別に争点化した
9ことで、「医療、介護双方の負担増は難しい」などの判断
10が働き、負担増は見送られた。
その後、2021年12月の工程表では「現役との均衡の観点から介護保険における『現役並み所得』(利用者負担割合を3割とする所得基準)等の判断基準の見直しについては、(略)利用者への影響等を考慮しながら、(略)関係審議会等において結論を得るべく引き続き検討」という文言が入っており、再び争点になった。
こうした中、部会意見では賛否両論を示した上で、2割負担の対象者拡大に関しては、「後期高齢者医療制度との関係、介護サービスは長期間利用されること等を踏まえつつ、高齢者の方々が必要なサービスを受けられるよう、高齢者の生活実態や生活への影響等も把握しながら検討を行い、次期計画に向けて結論を得ることが適当」とされた。
ここの文言では、様々な意味が込められていると考えられる。まず、「後期高齢者医療制度との関係」という点では、75歳以上の後期高齢者の高所得者を対象に、2022年10月から患者負担が2割に引き上げられた点
11や、並行して進んでいた医療保険制度改革で後期高齢者の保険料上限を引き上げる議論が出ていた点を意識していると思われる。つまり、介護だけでなく、医療でも高齢者の負担増を求める議論が進んでおり、負担増の議論が一時期に集中したり、特定の所得階層に負担が集まったりする事態を避ける狙いを読み取れる。
さらに「介護サービスは長期間利用されること」という部分では、介護サービスの特性を意味している。つまり、治療や検査が終われば費用を負担しなくて済む医療と異なり、介護では要介護認定を受けるとサービスを使い続けるケースが多い。このため、利用者負担の引き上げは高齢者世帯の家計を圧迫する可能性があり、こうした特性を踏まえつつ、2割負担の対象者拡大を意識する必要があるという指摘である。
その上で、部会意見では「次期計画に向けて結論」という文言を用いることで、2024年度から始まる次期計画に向けて検討する方針が示されている。さらに部会意見では「次期計画に向けて結論を得ることが適当とされた事項については、遅くとも来年夏(筆者注:2023年夏)までに結論を得るべく、引き続き本部会における議論を行う必要がある」と定められており、2023年夏にも決着させる意図と読み取れる。これは2027年度にも実施される次の次の見直し論議に先送りされたケアマネジメントの有料化などと取り扱いが異なる。
ここで、重要になるのは対象者の線引きを定める根拠である。2割負担、3割負担を線引きする所得基準は介護保険法でなく、政令に委任されている。このため、国会審議を経なくても、政府の裁量で決定できる。言い換えると、2023年の通常国会で法改正する必要はなく、厚生労働省としては、高齢者の負担増を含めた医療保険制度改革の議論を踏まえつつ、意思決定できる裁量を持っている。今回の部会意見で、法改正を伴うケアマネジメントの有料化と、法改正が要らない2割負担の対象者拡大の扱いを切り離し、2段階で制度改正を議論できるようになったのは、この政令委任の産物と言える
12。
このほか、3割負担の判断基準に関して、部会意見では「医療保険制度との整合性や利用者への影響等を踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当」とされており、結論を出す時期が示されていない。このため、3割負担の対象者拡大の可能性は低いと見られる。