多職種・多機関連携を促す見直しも多く講じられた。その一つとして、
(中)で触れた通り、今回の改定は2年に1回の診療報酬本体と、3年サイクルの介護・障害報酬の見直しが重なったため、医療と介護、障害が重なる領域が論点になった。
このうち、医療と障害の連携では、医療的ケア児の支援が焦点となった。ここで言う医療的ケア児とは、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期入院した後、引き続き人工呼吸器などを使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童を指す。こども家庭庁の試算によると、その数は全国で約2万人に及び、支援に関する国や自治体の責務などを定めた「医療的ケア児支援法」が2021年6月に成立した。現在は国・自治体による情報提供の強化とか、受け入れ環境や施設の整備、多職種・多機関連携の促進などが図られており、2021年度障害福祉サービス報酬改定でも、医療的ケア児に対する報酬が新たに設定された。2022年度診療報酬改定でも、医療的ケア児が学校に安心して通えるようにするため、医師が診療情報を保育所や児童相談所などに提供した場合、「診療情報提供料I」という加算を受けられるようになった
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しかし、受け入れ態勢が不十分な点などが課題として指摘されている。さらに、高齢者の在宅医療と比べると、関係する機関・職種が医療、児童福祉、障害福祉、教育などにまたがる上、子どもの成長とともに関係する支援機関や職種が変容する難しさもある。近年は18歳以上に成長した医療的ケア児を「医療的ケア者」、あるいは医療的ケア児と総称して「医療的ケア児(者)」と表記されることが多い。
こうした状況の下、トリプル改定では医療と障害の連携を含めて、医療的ケア児(者)の支援に関して、テコ入れ策が講じられた。具体的には、比較的重度な医療的ケア児が入院する際、在宅生活からの連続性を確保するため、医師や看護師が事前に自宅を訪ね、患者の状態や人工呼吸器の設定などケア状態を把握したケースを評価する加算として、「医療的ケア児(者)入院前支援加算」(1,000点)が診療報酬で創設された。
さらに、医療的ケア児の成人期移行を意識した体制整備として、障害福祉サービスの報酬が見直された。例えば、障害支援施設で入浴や食事などを提供する生活介護では新設項目として、▽医療的ケアが必要な人への入浴支援を実施した場合の加算として、「入浴支援加算」(1日当たり80単位、1単位は原則10円、以下は同じ)、▽認定を受けた従事者が痰の吸引を実施した場合の「喀痰吸引等実施加算」(1日当たり30単位)、▽医療的ケアを要する人の通院を支援した障害者支援施設を対象とした「通院支援加算」(1日当たり17単位)、▽医療的短期入所サービス事業所が利用前から利用者の自宅などを事前に訪問してケアの方法などを確認した場合に受け取れる「医療型短期入所受入前支援加算」(1日当たり1,000単位)――などが盛り込まれた。
このほか、医療と障害の連携では、入退院に関する施設間連携を促す「入退院支援加算」の対象である「退院困難な要因を有している患者」に、「特別なコミュニケーション支援を要する者及び強度行動障害の状態の者」などが追加された。医療機関と本人、家族、障害福祉サービス事業所による入院前の事前調整を円滑に進める観点に立ち、こうした調整に関わる加算として、「入院事前調整加算(200点)」も新設された。入院患者を受け入れる有床診療所向けの「介護連携加算」でも「介護障害連携加算」に改称されるとともに、算定要件の対象者に「重度の肢体不自由児(者)」が加わった。
身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医機能」を評価する「地域包括診療科」「地域包括診療加算」でも医療と障害の連携が意識された。いずれも元々、高血圧や糖尿病など慢性疾患の高齢患者に対する継続的かつ全人的な医療を評価するため、2014年度に創設された制度であり、
(中)で見た通り、2024年度改定では、医療と介護の連携を強化する観点に立ち、介護保険のサービス調整などを担うケアマネジャー(介護支援専門員)からの相談に対応する旨が算定要件と施設基準に明記された。
これと平仄を合わせるような形で、地域包括診療科と地域包括診療加算の要件として、障害福祉の支援計画を作る相談支援専門員との連携も加えられた。要するに、障害者の日常を支える外来医療の分野でも、医療機関と障害福祉事業所の連携が意識されたわけだ、以上を踏まえると、様々な場面で医療と障害の連携が意識された様子を読み取れる。