次に、地域包括ケア病棟の役割明確化を取り上げる。地域包括ケア病棟は元々、2014年度に創設された類型。その主な役割としては、「急性期後の治療やリハビリテーションなどが必要な患者を対象とした医療機能(ポストアキュート)」「大病院での集中治療は必要ないが、在宅療養中の患者が急変した場合に受け入れる機能(軽度急性期、サブアキュート)」「患者を回復させ、在宅や施設に繋ぐ在宅復帰機能」の3つとされている、
しかし、地域包括ケア病棟の守備範囲は広く、表1で掲げた地域医療構想に関する病床機能報告でも、急性期、回復期、慢性期にまたがっている。このように曖昧な制度になっている背景には、7:1基準を絞り込みたい厚生労働省サイドと、これに難色を示す日医との意見対立があった。
具体的には、地域包括ケア病棟が創設された2014年度改定に際して、厚生労働省は7:1基準の厳格化を企図し、サブアキュートに軸足を置く「亜急性期」という概念を制度面で明確に位置付けようとしたが、日医が「高齢者だからといって、急変時に亜急性期病床でもいいだろう、安上がりに済ませようという意図が見える」と反発
23するなど、中医協の議論は名称を巡って紛糾した。
結局、一種の「国策」として重視されている「地域包括ケア」の言葉を冠する
24とともに、病床区分も概念も曖昧な枠組みとなった。つまり、7:1基準の削減を企図しつつも、3つの機能を果たすことで、在宅ケアの充実を後押しする意図が示されたと言える。地域包括ケア病棟が7:1基準削減の受け皿として期待されていた点については、当時の国会
25で「言うなれば急性期からの受け皿というような病床をふやしていこうということ」という答弁が出ていたことからも明らかである。
しかし、今回の改定を通じて、基準が厳格化されたり、要件を満たせない場合の減算が設けられたりしたことで、曖昧な役割が一定程度、明確化された。このため、医療機関経営者からは「かなり厳しい見直しとなった」「(筆者注:地域包括ケア病棟の)役割がより明確になった」「既存の病棟を維持できず、別の病棟区分に移行するところも出てくるだろう」といった見方
26に加えて、「これまでカメレオンのように変幻自在な病棟の在り方が許されていたが、『コア(芯)を持つように』とメッセージが込められた」
27といった声が出ている。
厳しいメッセージと受け止められている一つとして、自院から多く患者を転棟させている病院に対する減算措置の強化が挙げられる。既に2020年度改定では、自院の急性期一般病棟から転棟した患者の割合が6割未満の場合、報酬を10%減算する措置が導入されていたが、対象が拡大されたほか、減算の幅も15%に広がった。
さらに、急性期病棟からの入院を評価する「急性期患者支援病床初期加算」、在宅からの入院を評価する「在宅患者支援病床初期加算」も大幅に見直された結果、自院からの転棟に関する点数が低く設定された。
少し細かく見ると、現在の仕組みは元々、2018年度に創設され、前者は14日を限度に1日150点、後者は14日を限度に1日300点という点数が付いていた。しかし、2022年度改定では急性期患者支援病床初期加算に関して、地域包括ケア病棟の規模と入院する患者の受け入れ元に応じて細分化された。具体的には、400床以上の地域包括ケア病棟の場合、他院から受け入れているケースの点数は150点で従前と変わらないが、自院から患者を受け入れる場合は50点に設定された。400床未満の地域包括ケア病棟についても、他の医療機関から受け入れる場合には250点が付けられたが、自院からの受け入れは125点に減算された。
一方、在宅患者支援病床初期加算については、自宅や有料老人ホームから患者を受け入れた場合に400点、リハビリテーションなどを実施する介護老人保健施設からの患者は500点に設定された。
いずれも「どこから入院(転棟)してきたか」という点が重視された改定であり、このほかにも同様の減算規定が設けられた。その結果、自院の急性期病棟から地域包括ケア病棟に転棟させているような病院にとっては、厳しい改定となり、現場の経営者からは「3つの機能をバランスよく担うことが重要」と受け止められている
28。
23 2013年11月1日、中央社会保険医療協議会総会における日医副会長の中川俊男氏(当時)の発言。
24 地域包括ケアの曖昧さに関しては、介護保険20年を期した拙稿コラム第9回を参照。
25 2014年2月17日、第186国会衆院予算委員会における厚生労働相の田村憲久氏(当時)の発言。
26 全日本病院協会長の猪口雄二氏に対するインタビューでの発言。2022年3月29日『日経メディカル』配信記事を参照。
27 地域包括ケア病棟協会長の仲井培雄氏のコメント。『日経ヘルスケア』2022年4月号を参照。
28 地域包括ケア病棟協会長の仲井氏のコメント。『Phase 3』2022年4月号を参照。
6――診療報酬改定の内容(3)