財源確保については、まずは徹底した歳出改革等によって確保することを原則とし、歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することで、国民に実質的な負担が生じないこととしています――。岸田首相は通常国会の施政方針演説で、このように改めて強調した
28。
しかし、本稿で述べた通り、関係者の合意形成プロセスを経ていない点とか、積み上げの根拠が見えにくい点などを踏まえると、改革工程による歳出改革の実現可能性は極めて低いと断じざるを得ない。その結果、「実質的な負担増」が生じない形で財源を確保できるのか、かなり疑問である。そもそもの問題として、「負担は増やさないけど、給付は充実」といった錬金術のような話が転がっているわけではなく、かなり無理な説明になっている印象を受ける。
さらに言うと、2024年度予算編成に際しては、こうした無理な説明が様々な場面で見られた。例えば、
(上)で論じたようにトリプル改定では、「物価上昇や賃上げへの対応」というプラス要因と、「通常ベースの歳出改革」「次元の異なる少子化対策の財源確保」というマイナス改定に向かう話を同時に決着させようとした結果、全体像が分かりにくくなった。
さらに
(中)で論じた通り、次元の異なる少子化対策の枠組みでも、「税金のように使うけど、社会保険料に上乗せする」「『社会保険料の目的外流用』という批判を回避するため、特別会計などを通じて支援金の使途を明確にするけど、『規模ありき』で膨らませた少子化対策の財源として、支援金を幅広い分野に充当する」といった二律背反の整合性を取ろうとした結果、新設される特別会計の資金の流れは複雑になった。
筆者自身、インフレ対応で診療報酬などを引き上げる重要性とか、未来戦略で打ち出された少子化対策の内容について、総論として大きな違和感を持っているわけではないし、改革工程で示された歳出改革の重要性に対する認識も共有しているつもりである。さらに言うと、漸くデフレ脱却に向けた陽射しが見えている今のタイミングで、闇雲に負担を増やす議論は避けた方がいいとも考えている。
しかし、それでも中長期的に見れば、負担と給付の関係に向き合う必要がある。繰り返しになるが、「負担は増やさないけど、給付は充実」といった錬金術のような方法は相当、難しい。その意味では今回、合意形成のプロセスを十分に取らないまま、目先の帳尻を合わせようとする議論が続いたのは極めて残念だし、官僚や有識者が強引とも思える論理で辻褄合わせを正当化している結果、政治サイドが負担と給付の関係に向き合う努力を怠っている弊害も十分、意識する必要があるのではないだろうか。例えば、
(中)で言及した通り、社会保険料を租税化するフランスの「一般社会税」(CSG)のような選択肢
29を含めた税制・社会保険料の一体的な改革とか、政府から独立した形で財政の将来像を推計する機関(いわゆる独立財政推計機関)の設置など、将来の改革に繋がるような骨太の議論に期待したい。
28 2024年1月30日、第130回国会における施政方針演説から引用。首相官邸ウエブサイトを参照。
29 CSGについては、小西杏奈(2023)「フラットな税制が支えるフランス福祉国家の動揺」高端正幸ほか編著『揺らぐ中間層と福祉国家』ナカニシヤ出版、同(2013)「一般社会税(CSG)の導入過程の考察」井手英策編著『危機と再建の比較財政史』ミネルヴァ書房、尾玉剛志(2018)『医療保険改革の日仏比較』明石書店、柴田洋二郎(2019)「フランス医療保険の財源改革にみる医療保障と公費」『健保連海外医療保障』No.121、同(2017)「フランスの医療保険財源の租税化」『JRIレビュー』Vol.9 No.48などを参照。