では、なぜ連携が焦点となっているのだろうか。第1に、有事への備えに関して連携が欠かせない点である。具体的には、新興感染症に備える上では、専門的な人材や機材を常日頃から確保しておく必要があるが、それぞれの医療機関で対応するよりも地域で中心となる医療機関でプールしつつ、医療機関同士で連携、融通できるようにする方が効率的、効果的である。
この点を考える上では、災害対策のリダンダンシー(冗長性)が参考になる。リダンダンシーとは有事に備えて、ネットワークを多重化したり、予備の人員や資材を確保したりする発想である。今回の新型コロナウイルスへの対応を通じて、新興感染症に対する脆弱性が浮き彫りとなった以上、専門人材や機器、病床などを予備的に持ち、地域で融通し合うような体制整備が必要となる
12。
第2に、平時モードにおける医療提供体制の欠陥をカバーする狙いもあると考えられる。そもそも日本の医療制度では、患者が自由に医療機関を選べる「フリーアクセス」が採用されており、医療機関は患者獲得を巡って普段から競争している分、連携が進みにくい環境である。
その結果、新型コロナウイルスへの対応では、医療機関同士の連携が上手く進まず、希少な医療資源を有効に活用できない面があった。例えば、重度化した患者が回復した後、軽症者や一般病床、宿泊療養などに転院を調整できれば、病床の回転率が向上することになり、多くの患者を受け入れることが可能になるが、必ずしも転院調整は捗らず、患者の「目詰まり」が発生した。
さらに、診療所や中小医療機関が発熱外来に応じ、リスクの高い患者を優先的に専門医療機関に紹介するような流れが確立すれば、優先度の高い患者から必要な手当てを講じることが可能だったが、発熱相談に繋がらない「発熱難民」が生まれるなど、連携は有効に機能していたとは言えない。
一方、医療機関同士の連携に関して好事例
13は幾つか挙げられており、神奈川県が音頭を取る形で、高度医療機関に重症患者を、重点医療機関に中等症を、無症状者や軽症者を自宅や宿泊療養施設に割り振る取り組みを早い段階で開始し、回復した患者などを受け入れることが可能な医療機関と、搬送元病院のマッチングシステムも稼働させた。このほか、長野県松本医療圏では中核病院である民間資本の「相澤病院」を中心に、公立・公的病院が患者の重症度に応じて役割分担しつつ、コロナ患者を受け入れた。
そもそも、こうした医療機関の機能分化と役割分担の必要性は以前から論じられていた点である。例えば、急性期病床に入院した高齢者の患者が回復期病床でリハビリテーションを受け、在宅医療を受ける流れを作り出す重要性は過去の制度改革でも意識されてきた経緯があり、2017年度から本格始動した地域医療構想の目指す姿の一つとされている。
実際、地域医療構想の制度化を決定付けた2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は「提供者間のネットワーク化は新しい医療・介護制度の下では必要不可欠」との問題意識が披歴されていた。こうした考えは新型コロナウイルスへの対応と重なっている部分があり、今回の病床逼迫は日本の医療提供体制の構造的な論点を浮き彫りにした面がある。
地域医療構想など提供体制改革の論点は(下)で詳述することにして、以上のような論点を踏まえると、新興感染症への対応に関連し、医療機関同士の連携を促す加算要件が数多く盛り込まれたのは、新型コロナウイルスのような有事対応だけでなく、平時の医療制度改革も意識していると思われる。
この辺の意図については、2022年度診療報酬改定の他の項目でも看取できる。例えば、高度急性期病床を対象に創設された「急性期充実体制加算(1日当たり7日以内の期間460点など)」の要件の一つとして、「感染対策向上加算1の届出」が組み込まれたほか、専門性の高い「スーパー急性期病床」を評価する「重症患者対応体制強化加算」(3日以内750点など)の取得に際しても、「新興感染症の発生などの有事の際に、都道府県などの要請に応じて、他の医療機関などの支援を行う」という要件を義務付けている辺りは傍証となるだろう。
このほか、都道府県との連携も論点となる。2021年通常国会で成立した改正医療法では、都道府県が6年周期で作成している医療計画制度が見直された結果、必ず盛り込まなければならない従来の「5事業、5疾病、在宅医療」
14に新興感染症への対応が追加された。これを受けて、都道府県は2024年度から始まる新たな医療計画を策定する際、新興感染症への対応を規定する必要がある
15。
この点を踏まえると、外来対策向上加算や感染対策向上加算1~3の要件の一つに「都道府県などの要請を受けて発熱患者の外来診療を実施する体制を有し、そのことについて自治体のホームページで公開されている」という項目が盛り込まれており、都道府県を中心に新興感染症対策を強化しようという意図も見て取れる。
今後は新しい診療報酬体系の下、新興感染症に備えるカンファレンスの開催とか、制御チームの組織と助言、都道府県や保健所との連携、新興感染症の患者を区分できる動線の確保といった体制がどこまで現場で実を挙げるか、注目する必要がある。さらに、平時で培った連携関係を有事で、今回の新型コロナウイルスへの対応で生まれた連携関係やノウハウを平時に活用する工夫が現場レベルで求められる。