介護保険改正の論点を考える-積み残された財源問題のほか、人材確保や有料老人ホームの見直しも論点に、参院選の影響は?

2025年07月29日

(三原 岳) 医療

6――2040年検討会の動向

1|中間とりまとめでは、地域を3つで区分
2つの検討会のうち、2040年検討会では、生産年齢人口が減少する2040年を想定しつつ、介護だけでなく、障害福祉や保育も含めた住民の暮らしを支援するための方策が模索されている。ここでの議論も必要に応じて、2027年度制度改正に反映されることが予想される。

この関係では、いわゆる「地域包括ケア」の目標年次だった2025年が到来したタイミングに加えて、医療制度改革との関連性を意識する必要がある。医療制度改革では、2025年をターゲットに見据え、病床再編などを目指す「地域医療構想」が展開されてきた18が、その期限が到来したため、厚生労働省は目標年次を2040年に再設定する「ポスト地域医療構想」の検討を本格化させた。2024年12月には医師偏在是正を含めて、「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」(以下、総合的な改革意見)が公表されており、2025年の通常国会で医療法等改正案が提出された(法案は衆院で継続審査扱い)。一方、地域医療構想で重視されている在宅医療に関しては、医療・介護連携などが問われる。

こうした背景の下、介護に関しても、2040年を想定した検討会が2025年1月に発足した。その後、2025年4月に公表された中間とりまとめでは図表4の通り、医療・介護連携の深化や介護予防の強化、テクノロジーの導入を含めた生産性の向上などの方向性が改めて示された。さらに、人材不足に関しては、都道府県単位で関係者が協議する「プラットフォーム」の構築も打ち出された。

ここで注目されるのは「サービス需要の変化に応じた提供体制の構築」という部分である。具体的には、人口動態やサービスの需要の変化に応じて、地域を「中山間・人口減少地域」「都市部」「一般市等」の3つに大別した上で、それぞれの論点と方向性を示した。

このうち、中山間・人口減少地域では、人員の配置基準の緩和に加えて、「包括的な評価の仕組み」「訪問・通所等サービス間の連携・柔軟化」「市町村基準によるサービス提供」「地域の介護を支える法人への支援」「社会福祉連携推進法人の活用促進」などの施策が列挙された。つまり、中山間・人口減少地域では、介護人材の不足が一層、深刻化するため、人員基準の緩和や事業者間の連携などを通じて、少ない人員でもサービスを提供できる体制の方向性が盛り込まれたわけだ。

もう少し細かく制度改正の方向性を論じると、ここで言う社会福祉連携推進法人とは、社会福祉法人が持ち株会社のような形態の下、「連携以上、統合未満」で関係性を強化する仕組み。2022年4月から順次、各地で法人が設立されており、2025年3月現在で30法人が自治体の認定を受けている。中間とりまとめでは、「事務の簡素化のみならず、制度的な要件の弾力化を図ることも検討すべき」という方向性が示された。

さらに、包括的な評価の部分では、訪問介護を特記しつつ、中山間・人口減少地域を対象に、「回数」を単位に算定している報酬体系の部分的な見直しが示唆された。具体的には、訪問介護では訪問先までの移動時間を少なくするほど、訪ねる回数を増やせるため、事業所は採算を確保しやすい。これに対し、中山間・人口減少地域など人口密度が薄い地域では、ヘルパーの移動時間が長くなるため、事業所の採算が悪化する。このため、2040年に人口が減少する地域では、訪問介護の存続が一層、危うくなる危険性がある。

そこで、中間とりまとめでは、「介護保険全体の報酬体系との整合性や自己負担の公平性等にも配慮しながら、介護報酬の中でこれに対応できる包括的な評価の仕組みを設けることの検討も」という考え方を盛り込んだ。つまり、回数ごとに評価する出来高払いではなく、例えば人口や対象者を配分基準とする包括払いの可能性である。

ただ、人員基準の弾力化について、介護保険部会の議論では「介護労働の配置数を減らすことにつながり、今でも足りないのに弾力化してどうなるのだろうかという懸念があります」19、「ケアの質や職員の労働負担の観点からも慎重に検討する必要があるのではないか」20などの慎重論が出ており、実行に移すためのハードルは高いと言えそうだ。
 
18 ここでは詳しく触れないが、地域医療構想とは2017年3月までに都道府県が作成した文書を指す。具体的には、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年をターゲットに、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分しつつ、都道府県が医療需要を病床数で推計。さらに、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにした。その結果、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期病床の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解されている。地域医療構想の概要や論点、経緯については、2017年11~12月の拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日拙稿「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。
19 2025年5月19日に開催された介護保険部会における認知症の人と家族の会の和田誠理事の発言。
20 同上における日本看護協会の山本則子副会長の発言。
2|集住の選択肢、市町村の機能低下をどうするか?
しかし、筆者自身としては、2040年における人口減少を展望する中で、踏み込んだ対応が必要になると考えている。例えば、訪問系サービスでは既に触れた配置基準の弾力化や包括的な評価の仕組みに加えて、地域の状況次第では集住の選択肢を検討することも必要があると思われる。一例として、市町村が中心部などにサービス付き高齢者向け住宅を建設するとともに、医療・介護サービスを提供できる基盤も整備することで、人口減少地域に住む高齢者に移り住んでもらうオプションを提示する方法である。

確かに中間整理では、「地域の交通、住まい等の施策と連携した横断的な対応も必要となってくる」という問題意識が示されているが、もう少し具体的に踏み込む必要があるように感じられる。実際、2024年12月に公表された医療提供体制に関する総合的な改革意見では「人口規模の小さい地域においては、移動時間や担い手不足等の課題を踏まえ、D to P with N等のオンライン診療の積極的な活用等に加えて、高齢者の集住等のまちづくりの取組とあわせて体制を構築していくことが求められる」という形で少し踏み込んだ文言が盛り込まれている21

このほか、市町村の機能低下にも留意する必要がある。介護保険では制度創設の際、住民に身近な市町村を保険者に位置付けることで、市町村が住民などと協議しつつ、負担と給付の関係を調整する役割を担うことが期待されていた。さらに、既に触れた通り、近年は総合事業の推進とか、高齢者の外出支援や介護予防、在宅医療・介護連携22なども含めた総合的な「保険者機能」の発揮も重視されている。

しかし、近年は人口規模の大きな自治体も含めて、保険料の算定などで市町村の事務執行ミスが相次いでいる23。この背景には財政難、職員定数の抑制など市町村を取り巻く厳しい環境に加えて、頻繁な制度改正に現場が追い付いていない可能性が想定される。この状況は人口減少で一層、悪化する可能性が高く、「市町村の機能をどう維持するか」という点が問われる。

この点について、2040年検討会の中間とりまとめでは、「人口減少局面にある地域を中心に、複数の市町村が合同で広域的に介護保険の運営を行う広域化も有用」という文言が入っており、論点の一つに組み込まれている。さらに、総務省の持続可能な地方行財政のあり方に関する研究会が2025年6月に示した報告書でも、要介護認定の広域化などに言及しつつ、国―都道府県―市町村の役割分担見直しも含めて、市町村への支援策を強化する重要性が示唆されている。

ただ、ここで難しいのは市町村合併、あるいは広域化だけでは十分とは言えない点である。例えば、一つのアイデアとして、広域連合や一部事務組合など既存の仕組みを活用することで、市町村の機能を代替することが考えられるが、対人支援業務は住民に身近な部門で担う必要があり、単なる合併や広域化では対人支援業務が不十分になる可能性がある。さらに、要介護認定事務などに限って広域化する場合、行政機構の複雑化という問題も起きる。この問題は厚生労働省だけでなく、総務省や地方団体も絡むテーマであり、2040年検討会にとどまらず、早急かつ広範な検討が求められる。
 
21 ここで言う「D to P with N」とは、患者の横に看護師などが詰める状態でオンライン診療を受ける方法を指す。必要に応じて、患者の状態を看護師がチェックできるほか、医師の医学的なアドバイスを看護師から説明できるメリットがある。
22 医療・介護連携の経緯や現状、論点については、2024年12月24日拙稿「『地域ケア会議』はどこまで機能しているのか」、2024年10月22日拙稿「『在宅医療・介護連携推進事業』はどこまで定着したか?」を参照。
23 相次ぐ市町村の事務執行ミスを取り上げた新聞記事として、2023年11月14日『朝日新聞デジタル』配信記事、同年9月30日『中日新聞』を参照。

7――有料老人ホーム検討会の動向

7――有料老人ホーム検討会の動向

1|検討会の背景と動向
もう1つの有料老人ホーム検討会は2025年4月に発足した。この検討会の動向を検討する上では、有料老人ホームの制度的な位置付けを整理する必要がある。

元々、有料老人ホームは老人福祉法に基づいており、介護保険サービスの特定施設入居者生活介護の指定を受ける「介護付き」と、外からサービスを受け入れる「住宅型」などに分かれる。さらに、前者は介護保険制度の適用を受けるため、「要介護者:看護・介護職員=3:1」など人員・施設基準が厳格に設定されている。これに対し、後者は介護保険の外に位置付けられているため、「要介護者:介護職員=10:1」などの要件が定められているとはいえ、介護付きよりも全体として規制や基準が緩やかである。このほか、介護付きに関しては、自治体による総量規制も設定されているが、住宅型は対象外という違いがある。

こうした状況の下、住宅型が急ピッチで拡大しており、2012年度現在の定数が31万5,678人だったのに対し、2022年度には61万1,056人まで増えた。さらに、高齢者向け賃貸住宅であるサービス付き高齢者向け住宅も2011年度の創設後、利用者数が急増しており、都道府県に登録された戸数は2011年度の7万999戸から2022年度で27万8,320戸に増加した。要するに、介護保険以外の住まい系サービスが広がっており、高齢者の居住保障を支えている。

しかし、入居者に過剰な介護サービスなどを提供する「囲い込み」や過剰請求案件が次々と報道で明るみになった24。さらに、一部の有料老人ホームでは、介護の必要度に応じて高額な紹介手数料を支払われているケースも判明した。

これを受けて、厚生労働省は2025年4月、業界や自治体の関係者、有識者で構成する有料老人ホーム検討会を発足させた。同年6月に示された「課題と論点に対する構成員の意見・ヒアリング内容を踏まえたこれまでの議論の整理(案)」(以下、議論の整理案)では、▽安全性確保など有料老人ホームにおけるサービスの質確保、▽情報提供の充実など利用者による有料老人ホームやサービスの適切な選択 、▽行政による指導勧告の強化、▽出来高払いの報酬見直しなど事業経営モデルの問題点、▽ケアマネジャーの中立性強化、▽建物事業と医療・介護事業の区分明確化――といった論点が列挙されており、詳細な検討が進む見通しだ。

このうち、質向上や透明性の確保については、骨太方針に「有料老人ホームの運営やサービスの透明性と質を確保する」と記載されており、こうした方向性で具体策の検討が進む可能性が想定される。

さらに、出来高払いの報酬見直しについては、介護付きでは要介護度に応じて1日当たりの報酬を設定する包括報酬が採用されているのに対し、住宅型では出来高払いとなっており、中間整理案でも出来高払いを見直す可能性が示唆されている。
 
24 この関係では近年、住宅型有料老人ホームを舞台にした訪問看護の過剰請求の疑いなどを共同通信が次々と報じている。2025年6月から『JOINTニュース』で連載が始まった同社の市川亨氏による記事も参照。
2|解決策は難しい?
しかし、解決策は容易ではないと見られる。従来、「囲い込み」対策については、同一建物に入居する高齢者に在宅サービスを提供した場合の診療報酬、介護報酬を引き下げる方策が取られてきた。例えば、2012年度診療報酬改定の際、サービス付き高齢者向け住宅など同一建物に住む高齢者を20人以上に訪問診療を提供した場合、単価を最大4分の1に引き下げたほか、現在は訪問介護、ケアマネジャーの居宅介護支援費にも同様のルールが採用されている。この方法では、いわゆる「囲い込み」の案件など収益極大化を狙う不適切な事業者を一掃できるメリットがある半面、全国一律のルール変更になるため、良質なケアを提供している事業者も影響を受ける。

一方、理論的には「質」の高い事業者の報酬を高く設定することは可能だが、これも決して容易ではない。定型化しにくい暮らしを支える介護・福祉では、「質」の評価が困難なためである。

もう少し具体的に検討すると、ケアの質の評価では、▽「どうやってケアを提供したか」という点を重視する「プロセス」、▽「何人の専門職でケアを提供したか」などを評価する「ストラクチャー」、▽「どんな成果が出たか」をチェックする「アウトカム」――の3つで評価される(一般的に「ドナベディアンモデル」と呼ばれる)。

しかし、複雑な暮らしを支える介護の場合、数字で計測するアウトカムの評価は極めて困難である。さらに、ストラクチャーやプロセスだけで質の良し悪しを判断しにくい。例えば、良質な事業者の事例を見ていると、住宅を運営する事業者と、外から訪問診療や訪問看護・介護サービスを提供する事業者が連携し、高齢者の生活を支えている。

これに対し、不正受給や過剰請求を手掛けている事例でも、住宅を運営する会社と、訪問サービスを提供する事業者が連携している点では外形的に何ら変わりがない。このため、「質の高い事業者」「質の悪い事業者」を何らかの基準で選別し、前者の報酬を手厚くする選択肢は極めて難しい。2025年末までに制度改正の検討では、こうした難しい状況の下、不正請求や過剰請求の事例について、どう対応するのかが問われることになる。

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

・関東学院大学法学部非常勤講師

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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