「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年3月時点)

2025年03月05日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、コロナ禍を受けて大きく上昇したが、2024年以降、低下基調で推移している。成約賃料についても需給バランスの改善に伴い、上昇に転じている。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2029年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇基調で推移していたが、2024年に入って低下に転じ、2024年第4四半期は5.7%(前期比▲0.7ppt、前年同期比▲1.2ppt)となった。また、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は、2023年第4四半期以降、上昇に転じ、2024年第4四半期は28,489円(前期比+6.3%、前年同期比+12.9%)となった(図表-1)。
Bクラスビル及びCクラスビルについては、空室率が改善し、成約賃料は上昇している。2024年第4四半期の空室率はBクラスビルで2.9%(前期比▲0.6ppt、前年同期比▲1.6ppt)、Cクラスビルで3.4%(前期比▲0.6ppt、前年同期比▲1.0ppt)となり(図表-2)、成約賃料はBクラスビルで20,704円(前期比+6.5%、前年同期比+9.4%)、Cクラスビルで18,103円(前期比+0.3%、前年同期比+5.2%)となった(図表-3、図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続していたが、現在は「空室率低下・賃料上昇」局面に移行している(図表-5)。
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2024年12月時点)で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(32.1%)」で、次いで「千代田区(28.9%)」、「中央区(17.8%)」、「新宿区(12.4%)」、「渋谷区(8.7%)」の順となっている(図表-6)。

「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲0.3万坪)と「港区」(同▲0.1万坪)で減少した一方、「渋谷区」(同+1.9万坪)、「中央区」(同+0.2万坪)、「新宿区」(同+0.2万坪)で増加し、合計+1.9万坪となった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「港区」(同+9.7万坪)や「中央区」(同+2.9万坪)等、すべての区で増加し、合計+18.2万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は、東京ビジネス地区全体で▲16.3万坪の減少となった。
エリア別の空室率(2024年12月時点)は、「千代田区2.3%」(前年同月比▲0.9ppt)、「渋谷区3.2%」(同▲1.1ppt)、「新宿区4.1%」(同▲0.9ppt)、「港区5.1%」(同▲3.8ppt)、「中央区5.2%」(同▲2.9ppt)となり、全ての区で低下した(図表-8左図)。

募集賃料は、全ての区が前年比でプラスに転じており、特に「渋谷区(前年同月比+6.7%)」の上昇率が大きくなっている(図表-8右図)。
2-3.企業のオフィス環境整備の方針等を踏まえた、今後のオフィス需要
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「テレワークの普及がオフィス需要に及ぼす影響」、(3)「オフィス環境整備の方針」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
(1) オフィスワーカー数の動向
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は、増加傾向で推移しており、2024年第3四半期は847.9万人(前年同期比+8.8万人)となった(図表-9・左図)。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が125、「学術研究,専門・技術サービス業」が117となり、全体(108)を上回るペースで増加している(図表-9・右図)。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業) は、2020年第2四半期に▲15.7ポイント低下した後、回復が続いている。2024年第4四半期は+25.5となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回った(図表-10)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2024年第4四半期は「製造業」が+17.8、「非製造業」が+29.0となった。オフィスワーカーの割合の高い「非製造業」では人手不足感がより強いと言える。
日本商工会議所・東京商工会議所「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」によれば、人手が「不足している」との回答が6割超を占めた。また、人手不足への対策として、「採用活動の強化」との回答が約8割を占めた。

東京都の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、都心のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。

金融研究部   上席研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所
 2025年7月より現職

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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