例えば、70歳未満で年収が約370~770万円の人が月100万円の医療費を支払うことになった場合、原則として窓口負担は30万円だが、高額療養費で上限は8万7,430円まで抑えられる
17。
一方、改革工程では2028年度までに検討する事項として、高額療養費の限度額見直しが挙がっていた。さらに、物価上昇の影響とか、高額医薬品が多く登場していることで患者負担の比率が下がっているとして、首相直属で社会保障改革を議論する全世代型社会保障構築会議で見直しを求める意見が数多く出ていた。経済財政諮問会議でも歳出改革の観点に立ち、同様の意見が示された。
こうした中、歳出抑制策として、高額療養費の見直しが焦点となり、限度額の段階的な引き上げと所得区分の細分化が決まった。具体的には、前回の見直し(2015年)からの平均給与の伸び率が約9.5~約12%であることを考慮し、平均的な所得層である年収約370万~約770万円の引き上げ幅が10%に設定された。
見直しの内容は少し複雑であり、概要だけ説明すると、現行区分のまま、2025年8月から限度額が引き上げられる。例えば、70歳未満の年収約370~約770万円の人の場合、図表3の通り、限度額の基準は8万100円から8万8,200円まで引き上げられる。その後、2026年8月から13区分に細分化されるとともに、限度額も2027年8月までに段階的に引き上げられる。
一方、70歳以上も70歳未満と同様に限度額が引き上げられる。現時点では約370万円未満の場合、限度額は原則として5万7,600円となっているが、2025年8月に6万600円に引き上げられる。
さらに、現在は「約1,160万円以上」「約770万~約1,160万」「約370万~約770万」「~約370万円」「住民税非課税」「住民税非課税(一定所得以下)」に分かれているが、2026年8月以降、14区分に変わるとともに、限度額が段階的に引き上げられる。
例えば、新区分で年収260万~370万円の場合、原則として7万9,200円になる
18。その際、低所得層の上げ幅を抑える一方、年収約1,650万円以上の負担は最大1.75倍となるなど、高所得者に多くの負担を求める「応能負担」が強化された。
このほか、70歳以上の高齢者医療費のうち、外来負担に上限を設定している「外来特例」も2026年8月以降、見直されることになった。これは2002年10月、定率1割負担が原則とされた際に導入された仕組みであり、70歳以上の場合、原則として1人当たり月額1万8千円、住民税非課税世帯は月額8千円などに設定されている。
今回の見直しでは、2026年8月以降、収入の低い階層の負担は据え置かれる一方、2026年8月から年収に応じて上限が引き上げられる。これらの見直しを通じて、平年度ベースの負担抑制額は概算で保険料3,700億円、国費(国の税金)ベース1,100億円、地方負担(自治体の税金)500億円と見られている。
しかし、図表4で示した案が実現するかどうか微妙な情勢となっている
19。今年に入り、患者団体などから批判が強まっており、オンライン上の反対署名は僅か5日で7万人を超えた。通常国会でも繰り返し話題になっており、石破首相は2025年2月の衆院予算委員会で、福岡資麿厚生労働相が患者団体の代表と面会すると明らかにするとともに、「政府として指摘を受け、どのように対応するかは、今検討しているところだ」と述べた。自民党の森山裕幹事長も「がん患者で長期の治療を重ねなければならない方の医療費は別途検討する必要がある」との考えを示した。
一方、図表4の見直し案が修正されることになった場合、図表3の費用抑制の全体像が影響を受ける。さらに、後述する通り、岸田文雄内閣が重視した「次元の異なる少子化対策」では、3兆円超の所要予算を歳出改革で賄うことが決まっており、高額療養費見直しによる費用抑制も想定されている。このため、次元の異なる少子化対策の枠組みも影響を受けることになる。
一方。個別項目では新規事業を含めて、幾つか注目される事業が盛り込まれた。以下、(1)医療提供体制改革、(2)高齢福祉分野、(3)少子化対策、(4)その他――に分けて概観を試みる
20。
17 基準となる8万100円に加えて、100万円から26万7,000円を差し引いた分の1%に相当する金額の合計を負担する。ただし、多数回該当などの例外がある。
18 ただし、後述する外来特例や多頻回などの例外規定があり、全員が該当するわけではない。
19 高額療養費の見直し動きについては、2025年2月4日『朝日新聞デジタル』『共同通信』『読売新聞オンライン』配信記事、同年2月3日『m3.com』配信記事、同年1月28日『朝日新聞デジタル』配信記事などを参照。
20 なお、予算説明資料では、政策体系に関わる予算額が特定または区分できない場合、「内数」で示されている時がある。本稿では煩雑さを避けるため、内数で示された事業などについては、予算額を書かない。
4――社会保障関係予算の主な内容(1)