そこで、特養や老人保健施設、介護医療院の施設系サービスについては、協力医療機関の指定が義務付けられた。その際の要件としては、▽入所者の病状が急変した場合などに備えて、医師または看護職員が相談に対応できる体制を常時確保している、▽診療の求めがあった場合、診療を行える体制を常時確保している、▽入所者の病状の急変が生じた場合、入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保している――などが定められた。さらに、「1年に1回以上、協力医療機関との間で、急変時の対応などを確認するとともに、協力医療機関の名称などを自治体に提出」「協力医療機関からの退院後、速やかに再入所できるように努める」といった基準も設定された。
こうした要件を満たす医療機関と連携した場合、1カ月100単位を得られる「協力医療機関連携加算」も新設された(2025年度以降は50単位、1単位は原則として10円、以下は同じ)。
この関係では、特定施設入居者生活介護(いわゆる有料老人ホーム)や認知症対応型共同生活介護(いわゆる認知症グループホーム)についても、協力医療機関の指定が努力義務とされた。
さらに、介護報酬改定では、特養に配置されている医師の急変時対応などを評価する「配置医師緊急時対応加算」(1回当たり早朝・夜間650単位、同深夜1,300単位)が見直された。これは入居者の急変時に駆け付けられる体制を整備するため、2018年度改定で創設された加算であり、現在は早朝・夜間、深夜だけ算定できるが、2024年度改定では日中でも勤務時間外であれば、1回当たり325単位の算定が認められることになった。国の委託調査
7では、同加算を取得している施設は5.9%にとどまっており、テコ入れ策が講じられた形だ。
一方、診療報酬改定でも「協力対象施設入所者入院加算」(往診は600点、それ以外は200点)、「介護保険施設等連携往診加算」(200点)が創設された。このうち、前者では、介護保険施設の入所者が急変した際、協力医療機関として指定されている医療機関が入院を受け入れた場合に取得できるようになっており、介護施設との定期的なカンファレンス開催などが要件となっている。
さらに、後者は介護保険施設の入所者に対し、協力医療機関の医師が往診を行った場合に受け取れる加算であり、前者と後者ともに高齢者の救急医療に関して、医療機関と介護施設の連携を図ることに力点が置かれている。
以上のような内容を総合すると、高齢者施設と医療機関の連携強化に関して、診療報酬と介護報酬の両面で、テコ入れが図られたことになる。これらの制度改正の意図については、協力医療機関の対象からも読み取れる。
具体的には、協力医療機関を担うことが望ましいとされた医療機関として、「地域包括ケア病棟」「在宅療養支援病院(在支病)」「在宅療養支援診療所(在支診)」「在宅療養後方支援病院」が列挙されている。
このうち、地域包括ケア病棟とは一般的に「急性期を経過した患者の受け入れ」「在宅で療養中の患者の受け入れ」「在宅復帰支援」の3つの役割を持つとされる病棟であり、在宅医療を受けている患者や介護施設からの高齢者受け入れが重視されている。さらに、在支病と在支診は在宅医療を中心に提供する医療機関、在宅療養後方支援病院は急変時の在宅患者受け入れを担うことが期待されている。いずれも日頃から在宅医療や医療・介護連携に取り組んでいる医療機関であり、これらの医療機関と介護施設の連携を深めようとしていると言える。
実際、厚生労働省幹部は「介護保険施設が医療の視点を含めたケアマネジメントをするためには、普段から相談に乗ってくれる医療機関と連携していることが大切」と強調するとともに、医療機関サイドとしても、「訪問診療や往診をし、必要な場合には入院を受け入れる」という「面倒見のよい医療機関」が求められると述べている
8。
さらに、医療業界から「連携を通じたスムーズな入院受け入れも浸透していく」
9という声が出ているほか、介護業界団体からも「これまでも医療機関と契約して入所者の健康管理などを担ってもらう取り組みをしてきたが、形式的になっていた面も否定できない。今改定を機に実質的な連携を実現できれば介護施設としての機能向上が期待される」
10との期待も出ている。
6 PwCコンサルティング合同会社(2023)『特別養護老人ホームと医療機関の協力体制に関する調査研究事業報告書』(老人保健事業推進費等補助金)を参照。回答した特養は1,148施設。
7 同上を参照。
8 2024年7月1日『週刊社会保障』No.3274における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
9 2024年5月号『日経ヘルスケア』における全日本病院会の猪口雄二会長のインタビューを参照。
10 同上における全国老人福祉施設協議会の小泉立志副会長のインタビューを参照。