2|利用者負担引き上げの影響
では、2割負担が導入された後、どんな影響がサービス利用に現れたのだろうか。この関係では、厚生労働省の委託調査が2017年度に実施
7されており、規模は決して大きくないが、2割負担の導入に伴って、一部の利用者がサービスの利用を縮小させた可能性を見て取れる。
調査研究では、ケアプラン(介護サービス計画)を作成するケアマネジャー(介護支援専門員)が勤務する居宅介護支援事業所に調査票を郵送。ケアマネジャーが受け持っている利用者について、週間サービス計画表における1週間当たりの利用単位数の増減や理由などを把握したところ、有効回答者数2,817人に対し、77.0%の人が「変更しなかった」と回答した。
一方、3.5%の人が「合計利用単位数が減った/サービス利用を中止した」と答えており、その理由を尋ねたところ、「介護に係る支出が重く、サービスの利用を控えたから」という回答が35.0%を占めた。つまり、2割負担の導入の結果、8割近くの人がサービス利用を変更しなかったものの、わずかながら利用控えが発生したことになる。
さらに、いくつかの実証研究でも同様の傾向を看取できる。例えば、千葉県柏市のレセプト(支払明細書)を基にした実証研究
8では、2割負担の導入に伴って1人当たり月3,264円のサービス利用が減少したとされている。ただ、これは分析に用いたサンプルの月間費用額の2~3%に過ぎず、24カ月間の動向を把握する限り、要介護度の悪化など健康状態への悪影響も見られなかったという。
このほか、福岡県内の2市のレセプトを用いた研究
9を見ると、2割負担の導入に伴い、2014年8月~2016年7月の間で、月単位で3,600~9,600円程度の減少が起きたと推計されている。全国のレセプトを基にした別の研究
10でも、2015年4月から2016年7月の間で、2割負担の適用を受けた人のサービス利用は月単位で0.46%減、金額換算で3,300円程度の減少を招いたという。
これらの結果を総合すると、2割負担の導入に伴って、全体として影響は軽微とはいえ、一部の利用者が影響を受けていると考えられる
11。
7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2018)「介護保険における2割負担の導入による影響に関する調査研究事業報告書」(老人保健健康増進等事業)を参照。
8 大西宏典(2022)「介護保険における利用者負担割合引き上げの効果に関する実証分析」PRI Discussion Paper Series (No.22A-06)を参照。
9 Yugo Soga, et al.(2020)‘The effects of raising the long-term care insurance co-payment rate on the utilization of long-term care services’"Geriatrics and Gerontology International" Vol.20 Issue.7を参照。原文では費用額を米ドルで表示しているが、論文が掲載された年の平均為替レートを参考に、日本円に置き直した。
10 Kazuaki Sano, et al.(2020)‘Effects of cost sharing on long-term care service utilization among home-dwelling older adults in Japan’"Health Policy"Vol.126 Issue.12を参照。原文では費用額を米ドルで表示しているが、論文が掲載された年の平均為替レートを参考に、日本円に置き直した。
11 なお、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2019)「介護保険における3割負担の導入による影響に関する調査研究事業報告書」(老人保健健康増進等事業)によると、3割負担の導入に際しても、同様に利用控えが起きている様子を見て取れる。この調査でもケアマネジャーに対して利用控えの有無を確認しており、有効回答者数4,791人に対し、69.7%の人が「変更しなかった」と回答した。一方、4.9%の人が「合計利用単位数が減った/サービス利用を中止した」と答えており、「合計利用単位数が減った/サービス利用を中止した」の回答項目を選んだ233人に対し、その理由を尋ねたところ、「介護に係る支出が重く、サービスの利用を控えたから」という答えが36.5%を占めた。