1|前期高齢者財政調整の報酬調整などを規定
次に、医療・介護制度等の改革では、費用抑制に繋がる案件が幾つか盛り込まれている。このうち、2024 年度に実施する施策としては、
(上)でも述べた前期高齢者の医療費に関する報酬調整の導入とか、低所得高齢者を対象とした介護保険料の軽減を含めた制度の見直し、医療・介護・障害福祉のトリプル改定の実施に加えて、(1)後期高齢者医療制度の負担率見直し、(2)ロボットの導入や人員配置基準の弾力化など介護の生産性と質の向上、(3)後発医薬品(ジェネリック医薬品)が発売されている「長期収載品」の薬価制度の見直し、(4)入院時の食費の基準の見直し、(5)生活保護制度の医療扶助の適正化――が提示された。
このうち、65歳以上75歳未満の前期高齢者の医療費については、高齢化率の違いに着目し、若い年齢層の被保険者が多い保険者(保険制度の運営者)が納付金を国(社会保険診療報酬支払基金)に支払う一方、高齢者を多く受け入れている国民健康保険が国から交付金を受け取る仕組みが採用されていた。要するに、相対的に若い人が多く加入している健康保険組合などから国民健康保険に保険料財源を移転させることで、国民健康保険の財政を支援する仕組みである。
しかし、2023年通常国会で関連法が改正され、前期高齢者財政調整の配分ルールが変更された
2。具体的には、現在は加入者の数に応じて、納付金の割当額が決まっているが、健康保険組合や協会けんぽ、共済組合など被用者保険に課される納付金のうち、3分の1については、「報酬水準に応じた調整」(報酬調整)が2024年度から導入されることになった。
この結果、相対的に高所得の健康保険組合の納付金が増えるが、主に中小企業の従業員と家族で構成する協会けんぽの負担が減るため、協会けんぽの国庫負担が浮く。要するに、健康保険組合に負担を付け替える一方、国の社会保障費、つまり国費(国の税金)の負担を減らす制度改正である。別に医療費の総額が抑制されるわけではないため、誤解を恐れずに言うと、「帳尻合わせ」「会計操作」の域を出ない。
さらに、(1)も2023年通常国会で法改正されており、後期高齢者医療制度に関する負担のうち、高齢者世代と現役世代の伸び率を同じ水準にする見直しを指す。その結果、現役世代の保険料負担が抑制される一方、75歳以上高齢者の保険料負担が増えることになる。
次に、(2)は介護報酬改定で議論されており、2024年1月に策定された社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護給付費分科会の取りまとめでは、生産性向上のテコ入れ策として、加算措置を創設する方針などが示された(介護報酬改定の詳細に関しては、稿を改めて取り上げる)。
3点目の長期収載品の薬価制度見直しは歳出抑制を伴う新しい制度改正である。具体的には、医薬品の上市後5年経過または後発医薬品の置き換えが50%以上となった薬を対象に、後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象とする。要するに、残りの4分の1は患者負担とする見直しであり、その分だけ国・自治体の公費(税金)と保険料が軽減されることになる。こうした内容を盛り込んだ関連法改正案が2024年通常国会に提出される予定であり、成立すれば同年10月に実施される。現時点では、2023年度薬価調査の結果を基に、660成分程度が対象として想定されている
3。
一方、(4)は負担増に繋がる案件であり、医療費や歳出が減るわけではない。具体的には、
(上)で述べた通り、入院中の患者に対する食費の基準は「食事療養基準額」として公定されており、1997年に引き上げられた後、据え置かれていた
4。
しかし、物価上昇で医療機関の持ち出しが増えているとして、診療団体は引き上げを要望。2023年臨時国会で成立した補正予算では、2024年度診療報酬改定までの繋ぎとして、30円引き上げるための経費が計上されており、2024年度診療報酬改定では0.06%が上乗せされた。
最後の(5)生活保護制度の医療扶助の適正化では、多剤投薬の解消に向けて、レセプト(支払明細書)の点検の対象範囲を拡充する点とか、薬剤師による訪問指導に言及。マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認を通じて、頻回受診の傾向を把握し、適正な受診を促す取り組みを試行的に実施する方針も盛り込まれた。
2 2023年通常国会での法改正に関しては、2023年8月9日拙稿「全世代社会保障法の成立で何が変わるのか(上)」を参照。
3 2023年12月20日『m3.com』配信記事を参照。
4 ここでは説明を省略するが、1994年10月に1日当たり1,900円でスタートした後、1997年に1,920円に引き上げられた。その後、2006年度から1食当たりの算定に変わったり、自己負担額が増えたりしたものの、1食当たり640円という食事療養基準額は据え置かれていた。