1|厚生労働省の調査
では、本格施行まで半年を切る中で、どんな準備状況なのだろうか、最初に参考になるのが2021年3月に公表された厚生労働省の委託調査である
5。この調査では、回答に応じた医師531人に対し、A~Cのどの水準に該当するか尋ねる質問が設定されており、A水準は40.1%、連携B水準は27.3%、B水準またはC水準は9.4%、B水準・C水準を超過した医師が23.2%となっていた(大学病院・兼業先ともに待機時間を含む数字)。
要するに、法律が2021年5月に成立する直前の段階では、A水準で働いている医師は半分に満たず、B水準や連携B水準、C水準に該当する医師が勤務する医療機関では、勤務時間の制限とか、シフトの変更などの対応が必要になる可能性があった。
その後、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)医療部会に提出された厚生労働省の調査
6を見ると、一定程度の対応が進んでいる様子を見て取れる。具体的には、2022年7~8月に実施された調査(対象は81の大学病院)では、自院および兼業・副業先における超過勤務時間が1,860時間を超える医師は1,095人、56病院だった。さらに、2022年8~9月調査では、労働時間短縮の取り組みを実施しても、副業・兼業先も含めた超過勤務時間数が年通算1,860時間相当超となることが見込まれる医師数は69人、8病院だった。
一方、都道府県に対する調査によると、兼業先・副業先を含めて年1,860時間を超えて超過勤務に従事している医師は2022年7~8月調査では993人であり、2022年8~9月調査では時間短縮の取り組みを実施しても年1,860時間相当超になる医師は237人にとどまるという結果が示された。
その後も同様の調査
7が実施されており、2023年5~6月時点の数字として、年1,860時間を超える医師の数は993人から472人に減少したという。さらに、時間短縮の取り組みを実施しても年1,860時間相当超になる医師も237人から49人に減った。つまり、厚生労働省の調査では、短期間で一定程度、超過勤務の抑制が進んでいる様子を見て取れる。
このほか、国立大学病院長会議が2022年12月に公表した調査結果
8でも、同様の結果が示された。それによると、2022年8月の時点で年1,860時間を超える医師は2.2%の484人に上っていたが、2022年11月の調査では2024年4月までに上限を超える医師は4人に減る見通しという。
一方、医師の宿日直許可件数についても、2020年は144件だったが、2021年は233件、2022年は1,369件と急増しているという
9。これらの調査結果を総合すると、宿日許可の曖昧さなどの課題は残るにしても、医師の働き方改革に関する準備は一定程度、進んでいると言ってもいいだろう。
5 2021年3月公表の「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた医師の働き方改革が大学病院勤務医師の働き方に与える影響の検証とその対策に資する研究」(厚生労働行政推進調査事業費補助金)を参照。
6 2022年11月28日、医療部会に示された資料を参照。
7 2023年9月18日『週刊社会保障』No.3235を参照。医師の働き方改革に関する自民党のプロジェクトチームで説明された数字。
8 2022年12月7日、国立大学病院長会議記者会見資料を参照。
9 宿日直許可の取得件数については、2023年9月17日『朝日新聞デジタル』を参照。なお、同じ数字は2023年2月の「都道府県医療勤務環境改善担当課長会議」で説明された模様だが、厚生労働省ウエブサイトから検索できなかったため、新聞報道を用いた。