4|「ケアマネジメント=介護保険サービスの仲介」と理解されるようになった背景
一方、介護保険制度ではケアマネジメントは居宅介護支援費としてサービスの一つとして位置付けられているのも事実である。この結果、一般的に「ケアマネジメント=介護保険サービスの仲介」と理解されているし、現場のケアマネジメントも「介護保険サービスの代わりに、インフォーマルケアを充てる」という発想に傾いている面は否めない。
つまり、ケアマネジメントは介護保険制度にとどまらない広がりを有しているのに、居宅介護支援費として介護保険サービスに組み込まれている結果、専ら「介護保険サービスの仲介」だけと理解されている感がある。
では、こうした状況がなぜ生まれたのか。それは制度創設時の経緯に由来しており、ここでは2つの点を指摘する
12。
第1に、要介護認定とケアマネジメントを切り離す必要があった点である。上記で述べた通り、ケアマネジメントは本来、介護保険制度に枠内にとどまらない広がりを有しており、公共性が高い。このため、保険者(保険制度の運営者)である市町村が担う手もあったが、「介護保険が作られる以前の仕組みと変わらなくなる」という判断が働いた。
具体的には、介護保険制度が作られる以前は税財源を用いた措置制度の下、市町村が一方的に支援の内容を決めており、高齢者の自己決定権が担保されていなかった。そこで、介護保険制度では高齢者の自己決定(自立)を重視する形に変わったが、今度は「サービス利用を誰が調整、決定するのか」という点がポイントとなった。
つまり、市町村が高齢者の要介護度を判定した際、同時にケアの内容を決めてしまうと、従来の措置制度と変わらなくなる。そこで、要介護認定とケアマネジメントを分離させ、前者が市町村の事務、後者が居宅介護支援費として介護保険サービスの一つに位置付けられることで、「ケアマネジメン=介護サービスの仲介」と専ら見なされるようになった。
第2の理由として、実際のケアマネジメントでインフォーマルケアが配慮されにくい構造も指摘できる。本来、ケアマネジメントを担うケアマネジャーがインフォーマルケアをケアプランに組み込めば、ケアマネジメントは介護保険の枠内にとどまらない広がりを持てるようになったが、ケアマネジャーの多くがソーシャルワークとしての支援よりも、介護保険サービスの仲介を重視している傾向があることは否めない。
これには介護保険サービスの給付管理が絡む。先に触れた通り、介護保険制度では高齢者の権利性が強調された結果、複数の事業所のサービスを同時に利用することが認められるとともに、要介護認定ごとに設定されている区分支給限度基準額(以下、限度額)の枠内に入っていれば1割負担(現在、高所得者は2~3割負担)、限度額を超えれば全額自己負担とされた。このため、「利用額が限度額を超えているかどうか、誰がチェックするのか」という点が問題となった。
例えば、高齢者がデイサービスA、訪問介護B、福祉用具Cを同時に利用した場合、3つの事業所から介護報酬の請求が保険者である市町村(内実は国民健康保険連合会)に寄せられるが、当時の紙ベースの請求書だと、市町村は高齢者の利用額が限度額を超えているのか、判断できなかった。いわゆる「名寄せ」の問題である。
そこで、サービス利用の合計が限度額の枠内に入っているどうか、ケアマネジャーが点検する体制が採用され、介護保険サービスをケアプランに組み込まないと報酬を受け取れなくなった。その結果、居宅介護支援費の報酬は実質的に給付管理を評価している状態になり、ケアマネジャーがインフォーマルケアだけを組み込むケアプランを作っても、居宅介護支援費として一銭も受け取れなくなった。
こうした判断と経緯を踏まえ、ケアマネジメントは介護保険制度にとどまらない広がりを有しているのに「介護保険サービスの仲介」と見なされるようになったと言える。さらに、ケアマネジャーが「介護保険サービスの代わりにインフォーマルケアを入れる」といった形で、介護保険サービスを中心に考える傾向が作り上げられた。
つまり、ケアマネジメントが居宅介護支援費として介護保険サービスの一つとして組み込まれたことで、介護保険サービスにとどまらない広がりを有するケアマネジメントの特殊性が認識されにくくなった上、ケアマネジャーの意識も介護保険にとどまりやすくなったと言える。
こうしたマイナス面に関しては、制度創設時に必ずしも意識されていたとは言えないが、▽ケアマネジメントは公共性が強く、保険制度のサービスとして馴染みにくい、▽社会資源を含めて、介護保険サービスを超えた多様なサービスを結び付けることが求められている以上、介護保険制度の枠内に位置付けることが難しい――といった理由の下、ケアマネジメントの専門家の書籍では、本来は介護保険制度の枠内にとどまらないケアマネジメントを介護保険制度に取り込むことに強い躊躇感を持ったとの記述も見受けられる
13。
さらに、近年は居宅介護支援費の有料化の是非が加わり、論点が見えにくくなっている。次に、政策文書の記述などを通じて、今年末に決着する見通しの有料化論議の内容や論点を考察する。
12 介護保険制度史研究会編(2019)『介護保険制度史』東洋経済新報社、堤修三(2010)『介護保険の意味論』中央法規出版を主に参照。
13 白澤政和(2011)『「介護保険制度」のあるべき姿』筒井書房p33、p168を参照。