1|オンライン資格確認
このほかにも、医療技術評価の充実や後発医薬品(ジェネリック)の使用促進など、様々な改定項目が盛り込まれているものの、複雑かつ膨大な診療報酬改定の全てを網羅する紙幅はない。ここでは筆者の関心事に沿って、「オンライン資格確認」「ヤングケアラーへの配慮」「医療的ケア児への支援」「仕事と療養の両立支援」「看護師の給与引き上げ」の順で、改定項目の概要を取り上げることにする。
オンライン資格確認とは、マイナンバーカードや健康保険証を用いることで、患者の保険資格を簡単に確認できるシステムを指す。政府の説明によると、顔認証付きカードリーダーとレセプト(診療報酬支払明細書)の請求に使うネットワークを通じて、医療機関や薬局は被保険者の資格を簡単に確認できるようになり、転職や退職、転居などで被保険者の資格が変わっていた場合でも、レセプトの差し戻し(いわゆる返戻)を減らせるメリットがある。
さらに患者にとっても、マイナンバーカードを保険証代わりに使う場合、患者が同意すれば、医療機関や薬局が過去に処方された薬剤の情報や特定健診(いわゆるメタボ健診)の結果などを閲覧できるようになるため、医療の質が向上する点がメリットして強調されている。
これを政府は「データヘルス改革」の基盤となるシステムとして重視しており、2023年3月末までに「概ね全ての医療機関・薬局での導入を目指す」という目標を設定している。さらに消費増税分を財源とした「医療情報化支援基金」を創設することで、医療機関や薬局による機器購入に対して助成を講じている。
その後、2021年10月からシステムの本格稼働が始まったものの、必ずしもシステムは普及していない。2022年1月23日時点で、顔認証付きカードリーダーを申し込んだ施設数は病院、医科・歯科診療所、薬局の56.9%に相当する13万39施設であるのに対し、運用を開始した施設は10.9%の2万5,043施設にとどまっている
30。
こうした状況の下、2022年度診療報酬改定ではテコ入れ策として、加算措置が創設された。具体的には、▽オンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報や特定健診などの情報を取得した上で診療した場合、「電子的保健医療情報活用加算」として、初診は7点、再診と外来診療は4点の加算を算定できるようになった。
さらに、2024年3月末までの時限的措置として、オンライン資格確認を通じても、▽診療情報などの取得が困難な場合、▽他の医療機関から患者情報の提供を受けた場合――でも、初診で3点を加算できることになった。こうした報酬上の加算を通じて、データヘルス改革の中心となるオンライン資格確認を進めようという意図を看取できる。
しかし、診療報酬で加算を設けた場合、費用の一定額は患者負担として必ず跳ね返る。例えば、電子的保健医療情報活用加算の初診は通常のケースで7点、つまり70円の上乗せになるため、3割負担の患者負担は単純計算で21円増えることになる。既に医療情報化基金を通じて、相当な税金(公費)が助成されている事実を併せて考えると、かなりの国民負担がシステム整備に投じられている。
このため、支払側が中医協総会の席上、「診断、治療の質向上という点で患者がメリットを感じられるような活用がなされるのか、導入促進の効果がある仕組みとなっているのか」と疑問を呈した指摘
31は重く受け止める必要がある。どこまで国民の負担に見合ったシステムになるのか、今後を注視していく必要があるだろう。
30 2022年1月27日、第150回社会保障審議会医療保険部会資料を参照。
31 2022年1月26日、中医協総会における安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)の発言。2022年1月28日『ミクスon-line』配信記事を参照。