(2) 自動運転のために重要な3要素
上記の順序を前提とした上で、次に考えるのが、ODDにおいて、自動運転の技術的なハードルを下げるために必要な要素は何かということである。小木津氏は、「重要なエッセンス」として次の三つを挙げている。
1点目は「歩車分離」である。自動運転では、他の車や歩行者、自転車などを瞬時に検知し、もし目の前に飛び出してきた場合には、衝突を避けるために、即座に停車などの措置を取らなければならない。それを確実にするためには、もともと、自動運転車両の走行空間に、他の主体が侵入しないようにしたり、検知しやすい環境を整えることが必要である。従って、例えば生活道路よりは、歩道と車道が分かれた道路の方が歩行者との接触を回避しやすいし、さらには、自動運転車両の専用レーンがある方が、他の車やバイクなどとも接触を回避しやすい。また、カーブした道路よりは、見通しが良い直線道路の方が、対向してくる障害物をいち早く検知しやすい。
ただし、専用レーンの無い道路や、カーブのある道路では自動運転を導入できないということではない。このことは後述する。
2点目は「通信環境」である。自動運転システムでは、自己位置推定のためにGPS、障害物を検知するためにセンサーレーザーなどが用いられる。これらから得た情報は、通信を使ってシステムに送信する必要がある。従って、通信環境が悪い山間部などでは、これらが機能しづらいということになる。
3点目は、自動運転に対する当該地域の「受容性」である。住民の受容性が高ければ、例えば自動運転の走行区間では違法駐車をしない、自動運転車両の前を横切らないなど、安全で円滑な運行を確保するための住民側の協力を得られる。従って、市町村が実証実験を行う際には、予め当該地域で住民と密に意見交換会を開くなど、自動運転に対する理解を得られるように、念入りに準備する必要があるだろう。また、受容性を維持する上で最も重要な点は、交通事故が発生した際の対応だと小木津氏も指摘している(社会受容性については後編でも後述)。通常の公共交通の事故と同様、あるいはそれ以上丁寧に、即座に地域に事実関係を説明し、原因究明と再発防止に取り組むことが不可欠である。
重要なのは、これらの3点が予め揃っているエリアでなければ導入できないという訳ではなく、足りない部分を運用でカバーしていくということである。
実際にこれまでの前橋市の実証実験では、1|で述べたように、主な課題として(1)違法駐車対策等による走行環境の確保、(2)ケヤキ並木によってGPSが入りにくい街路環境における、他の通信設備による補完、(3)複雑な交差点(上毛電鉄中央前橋駅前)に進入する際の、対向車両や歩行者、自転車へのセンシング技術向上、の3点が明らかになっている。いずれも小木津氏が述べた3要素と関連する問題である。
前橋市は、上記3点への対策を進めており、例えば3点目の上毛電鉄中央前橋駅前交差点に進入する際のセンシングについては、同駅前の歩道橋や電柱にカメラやセンサーを設置して、車両から死角となる空間の車や歩行者等をいち早く検知し、超低遅延の5Gを使って、遠隔監視室に情報送信する対策を講じている。「路車協調」の良さを活かした運用である。
通信環境の問題については、例えば1|で紹介した福井県永平寺町の自動運転では、走行区間が山間部であるが、道路に直接、電磁誘導線とRFIDを埋め込み、その情報を通信を経由させず、直接自動運転カートに送信して、自己位置推定する仕組みをとっている。
これらのように、もとの環境に十分な条件が整っていない場合には、運用によって補足、補強するように工夫していくことができる。特に路線バスに実装する場合は、あらかじめ運行ルートが定められているために、これらの対策を講じやすい。
4――前編のむすびにかえて