J-REIT市場の動向と収益見通し。財務負担増加が内部成長を上回り、今後5年間で▲7%減益を見込む~シナリオ別のレンジは「▲20%~+10%」となる見通し~

2025年03月21日

(岩佐 浩人) 不動産市場・不動産市況

1――J-REIT市場は底打ちの機運がみられるも、金利上昇への警戒感から一進一退の動き

J-REIT(不動産投資信託)市場は昨年まで3年連続で下落していたが1、今年に入り、底打ちの機運がみられる(図表―1)。J-REITを投資対象とする公募投信(ETF除き)からの資金流出が一巡し、需給悪化への懸念が後退しつつあることに加え、割安なバリュエーションに着目した外資系アクティビストによる公開買い付け表明2が好感され、東証REIT指数は一時1700ポイント台を回復した。もっとも、日本銀行の政策金利引き上げに伴う市場金利の急上昇や、トランプ政権の通商政策への警戒感もあって、J-REIT市場は一進一退の動きとなっている(3/14時点)。
このように、市場価格の低迷が長期化する一方で、J-REIT市場のファンダメンタルズは着実に改善している。市場全体の1口当たりNAV(Net Asset Value、解散価値)は、保有不動産の価格上昇を受けて前年比+2%増加。また、予想1口当たり分配金(Distributions Per Unit、以下DPU)も好調な賃貸市況や不動産売却益の計上による投資主還元の強化が寄与し、前年比+8%増加している(図表―2)。

それでは、「金利のある世界(借入金利の上昇)」と「インフレのある世界(不動産賃料の上昇)」が本格到来するなかで、今後のDPU成長率はどのように推移するのか。本稿では、まず現在のJ-REIT市場の収益環境を確認する。次に、各種シナリオ(オフィス賃料見通し、物件取得要件、金利見通しなど)を設定し、今後5年間の分配金の見通しを試算したい。
 
1 東証REIT指数(配当除き)は過去3年(2022年~2024年)で▲20%下落。
2 3Dインベスト・パートナーズはJ-REIT2社に純投資目的で公開買い付け(TOB)を発表した。

2――保有不動産は約4800棟

2――保有不動産は約4800棟、金額にして28兆円。予想1口当たり分配金は過去最高を更新

J-REITは、エクイティ資金および借入金を調達して賃貸不動産に投資し、そこから得られる賃貸事業収益(Net Operating Income、以下NOI)を原資として、利益のほぼ全額を投資主に還元する金融商品である。J-REITの成長戦略は主に、(1)保有不動産の収益力を高める『内部成長』、(2)新規に不動産を取得する『外部成長』、(3)金融コストを低減する『財務戦略』の3つに大別される。

2024年12月末時点におけるJ-REITの保有不動産は、市場全体で約4,800棟、金額にして約28.0兆円の規模である(図表―3)。アセットタイプ別の構成比は、オフィス(10.2兆円、36%)、物流施設(5.9兆円、21%)、住宅(4.5兆円、16%)、商業施設(3.6兆円、13%)、ホテル(2.5兆円、9%)、底地など(1.3兆円、5%)の順に多い。過去5年間の物件取得額(6.3兆円)の内訳をみると、オフィス(32%)と物流施設(29%)が全体の6割を占めるが、昨年は好調な賃貸市況を背景にホテル(26%)と住宅(24%)の取得が上位を占めた。
続いて、業績動向を確認する。J-REIT市場全体の予想DPUは、2020年3月のコロナショックを契機にホテルセクターを中心に事業環境が悪化し、2019年末比で一時▲8%減少した。しかし、その後は回復基調をたどり、現在は過去最高水準を更新し、前年比の増益率も拡大傾向にある(図表―2、右図)。また、J-REITの実績DPUは事前予想に対して上振れて着地しており、2024年(1月~12月期決算)の上方修正率は+2.9%となった(図表―4)。この上振れ要因の1つに、不動産売却益の計上による積極的な投資主還元が挙げられる。J-REIT各社は、不動産価格が高値で推移する現在の市場環境を好機と捉え、鑑定評価を10%上回る価格で保有不動産を売却。2024年の不動産売却損益(発表日ベース)は1,262億円(前年比+79%)に拡大している(図表―5)。

3――各種シナリオを設定

3――各種シナリオを設定し、今後5年間のDPU成長率を試算する

1|保有オフィスビルのNOIは増加に転じる。2024年下期は前年同期比+1.1%増加
三鬼商事によると、東京都心5区のオフィス空室率(25年2月)は3.94%(前年比▲1.92%)となり、2022年9月の6.49%をピークに低下基調が続く。また、平均募集賃料は2024年1月をボトムに13カ月連続で上昇している。地方都市では新規供給の増加を受けて一部の都市で空室率が上昇しているものの、需給バランスは総じて良好で、募集賃料は前年比プラスで推移している。こうしたオフィス市況の改善を受けて、J-REITが保有するオフィスビルの収益も増加に転じている。継続比較可能な保有ビルを対象に賃貸事業収益(NOI)の推移を確認すると、2024年上期は前年同期比+2.6%、下期は同+1.1%の増加となった。コロナ禍以降、オフィスセクターは市場全体のDPU成長に対してマイナスに寄与していたが、2024年からプラスに転じている(図表―6)。
また、各社の開示データなどをもとに保有オフィスビルの賃料ギャップ(市場賃料と継続賃料のかい離率)を集計すると、全体で+2%と推計され、市場賃料が継続賃料を上回る状態にある。したがって、オフィスビルの収益は今後のマーケット環境次第ではあるものの、増益基調の継続が期待される。
2|保有オフィスビルのNOIは今後5年間で+6%増加する見通し(標準シナリオ)
ニッセイ基礎研究所は国内7都市(東京・大阪・名古屋・横浜・札幌・仙台・福岡)のオフィス賃料予測を公表した3。今後5年間(2024年~2029年)の賃料変動率は、標準シナリオで東京が+10%、大阪が▲5%、名古屋が▲3%、横浜が▲10%、札幌が▲13%、仙台が▲1%、福岡が▲9%となっている(図表―7)。このうち、東京については「高水準の新規供給が続くものの、オフィス環境整備に向けた需要は堅調で、空室率は3%~6%のレンジで推移し、成約賃料は上昇基調で推移する見通し」である。

この賃料予測並びに一定の前提条件(稿末に記載)をもとに、今後5年間のJ-REIT保有オフィスビルのNOI成長率を計算した。結果は、標準シナリオで+6%、楽観シナリオで+13%、悲観シナリオで▲4%となった(図表―8)。

金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人(いわさ ひろと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 2005年 ニッセイ基礎研究所
 2019年4月より現職

【加入団体等】
 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
 ・日本証券アナリスト協会検定会員

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