4|経済的制約の緩和
(1) 「シェア」による費用と利用料の抑制
高齢者の外出抑制の要因の三つ目、経済的制約の緩和の方法については2点考えられる。1点目は、「シェア」によって低コスト、低運賃(利用料)を実現すること、2点目は、外出の価値を高めて利用者の利用料に対する「負担感」を下げることである。
1) 乗り物のシェア
まず1点目から説明したい。1点目の方法は大きく3種類考えられる。1) 乗り物(車)のシェア、2) 事業者間での送迎業務のシェア、3) 旅客と貨物による輸送資源のシェアである。1) 乗客が乗り物(車)をシェアする方法には、市区町村が乗合タクシーを導入したり、事業者が相乗りタクシーを運営したりすることで、一般のタクシーに比べて安価な移動サービスを提供することである。
2) 事業者間での送迎業務のシェア
次に、事業者間での送迎業務のシェアに関しては、交通事業者同士の場合もあれば、交通事業者と異業種の事業者が、送迎(運送)業務をシェア、つまり連携して行う方法がある。まず、交通事業者同士の共同運送については、2020年の独占禁止法の特例法成立以降、各地で取り組み事例が増えてきている。これまで運行時間やルートが重なって乗客の奪い合いになっていたものを、共同運行に切り替えて運行本数を増やすなど、各事業所のコスト削減と利便性向上につなげるものである。このような取組を促していくためには、まずは、これまで競合関係にあった交通事業者同士を、協力関係に転換させていくための土台作りが必要になる。行政や大学などが音頭を取って、地域の移動課題解決を共通課題に掲げたプラットフォームを作り、意識を共有することが第一歩となるだろう
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次に、異業種との送迎事業のシェアである。筆者のコラムで書いたように、実は、地域で住民を送迎しているのは交通事業者に限らない
11。公共交通が乏しいエリアでも、実は介護、福祉、医療、観光、小売、教育関係などを含めると、多数の送迎車両が走行している。これまでは、道路運送法の許可・登録を受けた緑ナンバーの車両と、それ以外の白ナンバーの車両は明確に線引きされてきたが、交通事業が乏しい中で、住民への移動サービスを維持していくためにも、人手不足や脱炭素等、他の社会課題に対応していくためにも、これまでの枠組みを超えて、多様なセグメントの送迎業務を束ね、効率化していく必要があるだろう。
中でも、全国に約5万か所あるデイサービス施設は
12、多くが専用の送迎車両を所有し、地域の要介護高齢者等の送迎を行っている。筆者のジェロンロジー対談レポート「デイサービス車両は高齢者の移動を支える「第三の交通網」を形成できるか
(上)(中)(下)~群馬県発「福祉ムーバー」の取組から~」(2022年4月)でも紹介したように、規模が大きく、所有車両数が多い施設であれば、空き車両や空きシート等を活用して、大きな追加コストをかけることなく、非通所日の利用者や地域の高齢者等やをスーパーや病院、薬局等に送迎することができる。介護のプロに送迎してもらえれば、要介護高齢者も安心して利用できるだろう。ただし、有償で行うためには、道路運送法の見直しが必要となる
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ただし、デイサービス施設の規模が小さく、人員や車両数が少ない場合は、このように新たなサービスを行う余裕はない。実際、国内のデイサービス施設の多くは中小零細企業である。このような場合には、行政や地域のステークホルダーがリーダーシップを執って、まずは各事業者が課題意識を共有することが第一だろう。その上で送迎業務を束ね、一括して地域のタクシー会社に委託することができれば、第二段階として、非通所日の利用者や地域の高齢者の送迎まで担うことも考えられる
14。小規模な施設にとっては、送迎業務の負担が大きく、業務の切り離しと外注ができれば、メリットは大きいだろう。また事業者の形態が社会福祉法人の場合には、社会福祉法人法によって社会貢献が責務とされているため、地域の移動課題解決に役立てれば、その役割を果たすことができる。
(上)で述べたように、今後、高齢化の進行によって、各地域で要介護者が増加するとともに、介護人材不足の深刻化も予測されているため、中長期的に見れば、介護業界にとっても、送迎業務の在り方の見直しは必至ではないだろうか。送迎業務を地域の要介護高齢者等のために拡張して、地域貢献に生かすか、あるいは、他の事業所との共同送迎にした上で外注に切り替え、業務をスリム化するか、大きく分けるとそのどちらかを選択することで、主要業務である介護の質の向上につなげられるのではないだろうか。
10 例えば、自動運転など様々な移動サービスの実証実験を行っている前橋市にとっては、所属する「群馬大学次世代モビリティオープンイノベーション協議会」が、様々な民間企業と移動に関する課題意識や目標を共有する場として機能しているという。
11 坊美生子(2022)「『サポカー限定免許』創設が示唆する道路運送法の課題~技術の進歩、車の高度化に適応した旅客輸送の仕組みを」(研究員の眼)
12 「地域密着型通所介護」と「認知症対応型通所介護」を含む。
13 現在でも、介護事業所が利用者の送迎を行わないと介護報酬を減算されるため、実質的には有償送迎である。
14 介護報酬の送迎単価(送迎を行わない場合に減算される単価)とタクシー運賃には開きがあるため、地域の介護事業所の送迎を束ねて委託しても個々の介護事業所の負担が増える場合には、非通所日の利用者や、地域の高齢者等を送迎する場合の利用料を上げたり、送迎先の小売や医療機関等に協賛金を依頼するなど、負担の在り方について工夫が必要となるだろう。