2021年 都道府県・人口動態解説(下)-男女移動純減差が示す「ニッポン労働市場の大きな課題」

2022年08月01日

(天野 馨南子) 子ども・子育て支援

3――「女性活躍職場づくりは難しい」というアンコンシャス・バイアス

「では女性に選ばれる職場とはどうしたらいいのでしょうか」「女性が好きな仕事って何でしょうか」という趣旨の質問を講演会の後に頻繁にいただく。

女性活躍のために、と考えたとたんに思考停止が起こるようである。
 
20年も経過すれば(早いエリアでは10年も経過すれば)、読者の職場は現在の40~50歳代を中心(団塊ジュニアを含む現時点の最多世代人口)とする職場から、50代~70歳代を中心とする高齢化した職場となるだろう。

日本の少子化とは統計的に説明するならば、そういう社会を指している。
 
筆者は仕事で多くの地方の経済団体に関与させていただいているが、すでに人口減少が加速する地方部では、職場で主軸となる男性労働者の高齢化が顕著となる業種が増加してきており、その対策が喫緊の課題となっているという話をうかがうことが多い。

首都圏に住んでいると感じられにくいが、高齢化の進展と人手不足は転出超過エリアでは極めて顕著であり、「地元には1次産業や2次産業が多いから女性が地元から出ていくのも仕方ない」、などと言っていられる状況にはない。また、大都会と異なり、中規模企業・大企業が少ないのも転出超過エリアの特徴である。筆者が法人会のデータアドバイザーを務める愛媛県を例に挙げると、20人以下の事業所が全体の9割を占めており、地元企業は自営業や親族経営などの割合が高く、首都圏と比べて高齢化問題がより深刻であることも特徴である。
 
そのような中で、超高齢化した現場での打開策として、たとえば1次産業などにおいては、AI漁船、伐採ロボット等を活用した高齢男性労働者の働き方支援の改革も進められている。これらは現場の「筋力腕力が弱体化した男性労働者向け」の対策であるが、活用範囲や利用対象者イメージを広げることにより「(何らかの)身体事情のある社員」にとっても有効となる。このように新たな技術を活用することを通じて、より多くの人の活躍を推進する働き方改革につなげることができる。

もちろん、これらは女性・障がい者への対策としてもそん色がなく、すべての人々の能力を最大限に引き出すダイバーシティ雇用に配慮された対策にもつながる。
 
更に「女性のための仕事は何か」という考え方そのものこそ、時代遅れ感があると言えよう。4年制大学進学率が男女でほぼ変わらない水準にまで達し、かつ、理系女性割合がGMARCH等の大学で3割を超えてくるような、以前とは大きく教育水準が変化した時代においては、男女で仕事を区別すること自体が能力ある人材の確保を難しくし、地元の経済発展の妨げともなりかねない。
 
女性活躍推進をどのように進めていくのか、と問われた場合、筆者はたとえ話として「例えば、地元企業の人々がすべて70歳代の男性になったとしたら?今の40歳代男性が70歳代になるころには、30歳代人口は70歳代人口の半分しかいませんよ。それでもまわせる職場づくりを今すぐに始めれば、それがそのままダイバーシティ職場になると思いませんか?」と伝えさせていただいている。
 
女性活躍推進を「女性への配慮」といったレベルでの中途半端な取り組みでしか行わないのならば、この国の人口減少は止まることはないだろう。
 
若い女性人口を中心とした人口減少エリアに、出生の未来はない。

労働市場における本気の働き方改革とダイバーシティへの取組みこそが、日本の人口減少対策として人口消滅スピードを鈍化させる唯一無二の最優先課題であることを強く主張したい。

【参考文献一覧】
 
総務省. 「国勢調査」
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
総務省. 「住民基本台帳移動報告」
 
東京都. 「住民基本台帳移動報告」
 
天野 馨南子."2021年47都道府県・人口移動解説(中)――沈む名古屋・大阪圏、東京圏の一強止まらず" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2022年5月16日号
 
天野 馨南子."2021年47都道府県・人口移動解説(上)―コロナ禍の長期化で人口移動はどう変わったのか" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2022年5月9日号
 
天野 馨南子."統計データに基づいた有意性の高い少子化政策策定のために―少子化の真因必携データと立ち上がる地方の自治体結婚支援" 2021年8月20日「第2回少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」提出資料
 
天野 馨南子."1970年から2020年の半世紀でみる出生数減少率・都道府県ランキング-ニッポンの人口動態を正確に知る(1) " ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2021年10月18日号
 
天野 馨南子."人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月3日号
 
天野 馨南子."人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか)" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月17日号
 
天野 馨南子."人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年6月10日号
 
天野 馨南子."人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年7月16日号
 
天野 馨南子."人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(下)-女性人口を東京へ一体なにが引き寄せるのか" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年11月11日号
 
天野 馨南子."強まる東京一極集中(総数編)社会純減2019都道府県ランキング分析-最新純減ランキングにみる新たな動向-" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年4月13日号
 
天野 馨南子."令和元年2019人口動態データ分析-強まる東京「女性」一極集中(1)~追い上げをみせる大阪府、愛知県は社会減エリアへ" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年2月25日号
 
天野 馨南子. "強まる「女性」東京一極集中(2)~転出男女アンバランス 都道府県ランキング-高まる地方男性の未婚化環境-"ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年3月9日号
 
天野 馨南子."データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
 
天野 馨南子."データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号

 

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子(あまの かなこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴

プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は就任順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー

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