2021年度介護報酬改定を読み解く-難しい人材不足への対応、科学化や予防重視の利害得失を考える

2021年05月14日

(三原 岳) 医療

■要旨

2021年4月から介護保険の「公定価格」である介護報酬が変わった。介護報酬は3年に一度の頻度で見直されており、全体の改定率は0.7%増となった。今回の改定では、新型コロナウイルスや水害被害を受けて、感染症や災害対応に備える業務継続への支援に力点が置かれたほか、データに基づく介護を目指す「科学的介護」に関する加算が創設されるなど、重度化防止の傾向が一層、強まった。さらに、人材不足に対応するための人員基準の緩和も盛り込まれた。

本稿では、厚生労働省の整理に沿って、介護報酬改定の内容を「感染症や災害への対応力強化、」「介護人材の確保・介護現場の革新」など5つの点で取り上げるとともに、改定内容から見えて来る制度の課題を読み解く。その際には人材と財源の「2つの不足」、中でも人材不足が制度の制約条件となりつつある点を念頭に置きつつ、科学化や予防重視による利害得失も指摘する。

■目次

1――はじめに~2021年度介護報酬改定を読み解く~
2――介護報酬改定の全体像
  1|介護報酬改定を巡る政府・与党内の攻防
  2|5項目で整理された介護報酬改定の柱
3――介護報酬改定の内容(1)~感染症や災害への対応力強化~
4――介護報酬改定の内容(2)~地域包括ケアシステムの推進~
  1|7つに整理された「地域包括ケア」関係の内容
  2|認知症への対応力向上に向けた取組の推進
  3|看取りへの対応の充実
  4|医療と介護の連携の推進
  5|在宅サービスの機能と連携の強化
  6|介護保険施設や高齢者住まいにおける対応の強化
  7|ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保
  8|地域の特性に応じたサービスの確保
5――介護報酬改定の内容(3)~自立支援・重度化防止に向けた取組の推進~
  1|3項目に分かれた介護予防・重度化防止
  2|リハビリテーション・機能訓練・口腔・栄養の取組の連携・強化
  3|介護サービスの質の評価と科学的介護の取組の推進
  4|寝たきり防止、重度化防止の取組の推進
6――介護報酬改定の内容(4)~介護人材の確保・介護現場の革新~
7――介護報酬改定の内容(5)~制度の安定性・持続可能性の確保~
8――介護報酬改定から見える制度の将来像
  1|制度の制約条件としての人材、財源の2つの「不足」
  2|予防重視の狙いと矛盾
9――診療報酬との近似性が深まる問題点
  1|極端な制度の複雑化
  2|データを重視し過ぎる弊害
10――ケアマネジメント改革の論点
11――おわりに

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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