2|サービスの質の評価、情報共有制度の充実
さらに、利用者がサービスを選ぶ際の判断基準となる質の評価制度、あるいは情報開示・共有制度が不十分という課題もあります。経済学では、経済合理性を追求する個人(ホモ・エコノミクス)が合理的な判断を下すだけの情報を持っていることを前提としているものの、こうした状況(経済学では「完全競争市場」と言います)は現実に有り得ません。それでも例えば、私達が旅行に出掛ける際、ホテルや旅館の検索サイトで価格や口コミ情報を参考にしつつ、質の高い(そしてできるだけ安い)宿泊場所を選ぼうとします。
では、介護サービスはどうでしょうか。一般的に医療・介護の質は「どういった人員配置か」などを問う「構造(structure)」、診断や治療、介護などの内容を見る「過程(process)」、治療による成果などを把握する「結果(outcome)」の3つで評価します。
しかし、介護の質を評価する動きは充分と言えません。構造、過程、結果に分けて整理すると、構造に関しては「看護師を1人以上配置」「有資格者を配置すれば加算」といった形で報酬制度や人員・施設基準が全国一律で精緻に定められており、それなりに担保されていますし、過程に関しても現場の実践が積み上げられていると思います。これに対し、結果に関しては、利用者の複雑な生活や心理状態に関わる分、要介護度の改善などを除けば、数値化しにくい面があります。しかも、これは日本に限らず、各国も暗中模索が続いているようです
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こうした中で、利用者が介護サービスを選ぶ際の情報源として、利用者同士の口コミとか、ケアマネジャーの紹介、自治体のパンフレットなどに加えて、(1)介護サービス情報公表制度、(2)福祉第3者評価事業、(3)地域密着型サービスの外部評価――という制度が整備されています。ここでは、(1)と(2)について現状と問題点を考察します。
まず、2006年度にスタートした介護サービス情報公表制度では、約21万カ所に及ぶ介護サービス事業所の情報を検索・閲覧できるようになっており、2012年の制度改正を通じて操作性を高めるなどの見直しが図られました。現在は介護職の職員数や経験年数、前年度の退職者数などについて、複数の事業所を比較できます。
しかし、事業所の自己申告をベースとしており、実情に沿っているのかどうか、利用者には分かりません。このため、自治体の実地指導、指導を踏まえた改善点、利用者・家族の満足度、周辺住民の評価などを加味することで、より実態を把握できる情報共有システムが必要ではないでしょうか。
第2に、福祉サービス第3者評価事業は、社会福祉法人などを主な対象とし、特別養護老人ホームだけでなく、保育所や障害者支援施設、社会的養護施設などの質を評価しており、各都道府県の社会福祉協議会で運営されています。具体的には、第3者評価機関としての認証要件を満たした組織が評価シートに沿って、サービスの実施に際しての体制などを点検。その評価結果を各都道府県のウエブサイトで公開する仕組みになっています。例えば、東京都の評価事業では、「利用者が主体性を持って、充実した時間を過ごせる場になるような取り組みを行っている」といった点を把握し、「実施が確認できた項目」「実施が確認できない項目」「非該当」などでチェックしています。
しかし、評価項目の多くが定性的であり、定量的な指標は盛り込まれていません。さらに、社会的養護施設を除くと評価は任意であり、受審率は決して高くありません。例えば、全国社会福祉協議会の集計によると、2018年度で高齢者介護系0.2~6.3%、障害者福祉系で0.03%~7.1%に過ぎません(サービス種別で数字が異なり、幅で表記しました)。
さらに、これまで受審した施設の所在地を見ると、図1の通り、東京都が66.5%を占めて突出しています。これは東京都が受審費用を補助している影響であり、その他の道府県では、普及していない状況です。つまり、利用者の自己決定を支援する上では役に立っていないと言わざるを得ません。
このため、制度改正の方向性としては、定量的な項目や自治体の指導内容、指導内容を踏まえた改善結果、利用者や住民の評価などを追加することで、評価の項目や内容を大幅に見直す必要がありそうです。さらに、図1のような異常な分布を見ると、評価システムの見直しとともに、受審費用に関する公的支援の充実も検討する必要がありそうです。