はじめに
数字の「48」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。相撲の「四十八手」を思い浮かべる人もいるし、「四十八滝」という言葉が頭に浮かぶ人もいるかもしれない。さらには、AKB48を思い浮かべる人もいるかもしれない。
数字の「48」は、「1,2,3,4,6,8,12,16,24,48」と多くの約数を有している。1年12か月、1日24時間、1ダース12個といった形で現れてくる数字の「12」や「24」の倍数でもあることから、日常生活の中で「48」という数字にお目にかかる機会もそんなに珍しいことではないと思われる。その意味では「48」という数字は決して馴染みが薄い数字というわけではなさそうだ。
今回は、この数字の「48」について、それが現れてくる例やその理由等について調べてみた。
「48」という数字は縁起の良い数字と考えられてきた
日本において、「48」(漢数字では「四十八」)という数字は「縁起の良い数字」と考えられてきたようだ。その理由は必ずしも明確ではないが、主として仏教の影響が大きいようだ。「四」は4つの方角を、「八」は8つの方向を表し、「四方八方」は「あらゆる方面から」を意味していることから、「四八」は全ての方向に幸運が訪れることにつながる、と解釈されてきたようだ。
数字の「8」が仏教において重要な数字であることについては、研究員の眼「
数字の「8」に関わる各種の話題-「8」は、末広がりを意味して、日本では幸運な数字と見なされているようだが-」(2022.11.25)で紹介した。さらには、研究員の眼「
数字の「3」に関わる各種の話題-数多くの場面で現れてくる数字だが-」(2024.3.21)において、「3」という数字も縁起の良い数字だと見なされている、と紹介した。「6」という数字も、仏教において「六道」や「六地蔵」といった形で使用さている。「48」という数字は、これらの数字を約数として有していることから、一種特別な数字とみなされてきたのかもしれない。
相撲の決まり手は「四十八手」
「
四十八手」は、相撲の決まり手のことを指している。江戸の寛文時代に、相撲における決まり手を整理して、投げ手12、掛け手12、反り手12、捻り手12の合計48手としたことに由来している。「48」という数字が選ばれたのは、先に述べたように、以前から「48」という数字が、「縁起のよい数字で多くの数を表すもの」として使用されていたことに関係しているようだ。数多くある決まり手を整理する上でも、まずは大きくは「投げ手、掛け手、反り手、捻り手」という4つに分類して、それぞれから同数の12の決まり手が選ばれた形になっている。
ただし、実際の決まり手はこれだけに限定されるものではなく、さらに多くの決まり手が存在している。日本相撲協会が現在認定している決まり手は82手(2025年6月末時点)
1となっている。
その意味では、「四十八手」という言葉は、実際の決まり手の正確な数を表しているのではなくて、あくまでも相撲には多種多様な決まり手が存在していることを表現するために使用されているようだ。
なお、相撲の決まり手ということから派生して、この「四十八手」という用語は、その他の各種のケースでも使用されている。
1 基本技7、投げ手13、掛け手18、反り手6、捻り手19、特殊技19手の合計82手に加えて、非技(勝負結果)(例:勇み足)5種、がある。その他に、反則負けも規定されている。
花札のカードは48枚
花札は、日本におけるかるたの一種で、1年12か月のそれぞれを代表する花や草木(1月:松、2月:梅、3月:桜、4月:藤、5月:杜若、6月:牡丹、7月:萩、8月:芒、9月:菊、10月:紅葉、11月:柳、12月:桐)が描かれたものが4枚ずつあって、合計で48枚となっている。
日本におけるカードゲームは、16世紀後半の室町時代末期に、ポルトガルからトランプゲームの「カルタ(ポルトガル語でカードを意味する外来語)」が伝来したことに由来しており、賭博行為が禁止されていた中にあって、一種の抜け道的なものとして「花札」が開発されてきたようだ。48枚のカード構成はポルトガルからのトランプの札が48枚であったことの影響を受けたものとなっている。
四十八願(しじゅうはちがん)
「
四十八願」というのは、阿弥陀仏が因位
2の法蔵菩薩のときに立てた四十八種の誓願のことで、浄土教の根本経典である『仏説無量寿経』に説かれている。阿弥陀仏が全ての生き物を救済するための具体的な行動・願いを示している。
これは大きく以下の3つに分類できると言われている。
1.摂法身願、求仏身願
どのような仏になるのか、なりたいかを誓った願い…第十二願・第十三願・第十七願
2.摂浄土願、求仏土願
成仏後の浄土がどのような場所であるか、どのような浄土を建立したいかを誓った願い
…第三十一願・第三十二願
3.摂衆生願、利衆生願
浄土に往生する人々にどのような利益を与えて救いたいのかを誓った願い…その他の43願
なぜ「48」なのかということについては、特定の理由が明示されているわけではないようだが、先に述べたような「48」という数字が持つ意味合いが関係しているようだ。さらには、「48」という数字が「非常に多い」ことを表しており、それだけ幅広い内容をカバーしているということで、阿弥陀仏の慈悲の広さや仏教の教えの深さや複雑さを表している、という意味合いもあるようだ。
2 仏道の修行中で、まだ悟りを開くに至らない位
四十八滝
「四十八滝」という用語を聞かれた方も多いと思う。「四十八滝」というのは、日本において、特定の地域等に多くある一連の滝の群れを表すのに使用される名称となっている。
例えば、三重県名張市にある「赤目四十八滝」、栃木県日光市の「日光四十八滝」、和歌山県那智勝浦市の「那智四十八滝」等が有名で、「那智四十八滝」はユネスコ世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部にもなっている。
その他にも「〇〇四十八滝」と呼ばれるものが各地にあるが、実際に四十八以上の滝が存在している例は少なく、あくまでも「四十八」は「非常に多い」ことを表現しているに過ぎないようだ。
なお、「四十八滝」と呼ばれる理由としては、「いろは歌四十八音」に合わせたとか、先の「四十八願」に由来しているとの説があるようだ。
また、類似の使われ方として「〇〇四十八景」という言い方もされる。歌川広重(二代目)の「江戸名所四十八景」や、明治時代の浮世絵師の昇斎一景(しょうさい いっけい)の代表作として「東京名所四十八景」と言われるものがあるが、これらは48カ所選ばれたものとなっている。
いろは歌
「いろは歌」というのは、仮名文字を重複させずに使って作られた47字の誦文で、「いろは四十七文字」として知られている。現代に伝わるいろは歌は、以下のようなもので、誰しもが一度はお目にかかった(あるいは勉強した)ことがあるものと思われる。
いろはにほへと ちりぬるを 色は匂へど 散りぬるを
わかよたれそ つねならむ 我が世誰ぞ 常ならむ
うゐのおくやま けふこえて 有為の奥山 今日越えて
あさきゆめみし ゑひもせす 浅き夢見し 酔ひもせず
この四十七文字の最後に「京」あるいは「ん」を加えることで四十八文字ということになる。
町火消
「町火消(まちびけし)」は、第八代将軍徳川吉宗の時代に始まった町人による火消である。地域割りが行われていて、当初は隅田川から西を担当する「いろは組四七組」となっていたが、のちに「ん組」に相当する「本組」が加わって「いろは四八組」となっている。
仮名の数
日本の仮名の数は、変体仮名(へんたいがな)
3と呼ばれるものを除くと48種とされている。
これは、1900年(明治33年)に、「小学校令施行規則」の「第一号表」に示された平仮名が48種あることによっている。ただし、第二次世界大戦後に、現代仮名遣いが制定され、(人名等での使用等の)特殊な場合を除いて「ゐ」と「ゑ」が使用されなくなって、現在一般的に使用されているのは46種の仮名となっている。
3 現在、平仮名として標準的に用いる字48種に含まれないかな文字の呼称。本来一つの音に対していくつかの字形があったものが、1900年に小学校で教えられる仮名の字体が選一されたことにより、これに含まれなかったものが該当している。
AKB48の由来
女性アイドルグループとして有名なAKB48の名称の由来については、いくつかの説があるようだが、例えばプロデューサーの秋元康氏へのインタビュー等によれば、とのことで、以下の説が言われているようだ。
まずは「AKB」については、活動の拠点としている東京・秋葉原(あきはばら:AKIHABARA)の略称「AKIBA」に由来している
4。
一方で、「48」については、結成当初の所属事務所であるoffice48の社長の芝幸太郎氏が、「48」が「芝(しば)」と読めることもあって、好きな数字として採用されたようだ。数字になったのは、秋元康氏の「商品開発番号のような無機質なものにしたかった」という意向があった。初期には24人編成2組の48人のグループの構想もあったようだ。
AKB48については、その名が示しているように、正規メンバーが48人程度で活動している時期もあったようだが、現在は必ずしも48人程度の構成というわけではない。その後に類似の姉妹グループであるいくつかのグループの名称も「〇〇48」となっているが、メンバー構成は同様な状況になっているようである。
4 このグループを企画した3人の文字から取ったという説、具体的には、A=秋元康、K=窪田康志、B=芝幸太郎、に由来しているとの説だが、この説でも結局はAKSではなくてAKBにしたのは、やはり秋葉原との語呂合わせも考慮してのものと言われているようだ。