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介護保険改正の論点を考える-積み残された財源問題のほか、人材確保や有料老人ホームの見直しも論点に、参院選の影響は?

2025年07月29日

(三原 岳) 医療

■要旨

3年に一度の介護保険改正の議論が始まっている。介護保険制度は創設後、原則として3年に1回、見直されており、2027年度改正に向けた議論が2024年12月以降、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会で本格化している。

論点については、「持続可能な制度の構築、介護人材確保・職場環境改善」など5つが介護保険部会で提示されており、それぞれに関して今後、部会で詳細が検討され、2025年末までに結論が示される予定となっている。さらに、法改正が必要な案件については、2026年通常国会の関連法改正案に盛り込まれる見通しだ。

中でも、焦点になるのが前回の2024年度改正で先送りされた3つの案件である。具体的には、(1)一定以上の所得水準の利用者に課している2割負担の対象者拡大、(2)全額が保険給付で賄われているケアマネジメントの有料化、(3)要介護1~2の給付見直し――の3点である。

さらに、生産年齢人口が激減する2040年をターゲットに入れた「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」のほか、相次ぐ有料老人ホームを巡る過剰請求案件を踏まえた「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」という検討組織も発足しており、いずれも制度改正論議に反映されることになりそうだ。

このほか、物価や賃金の上昇を踏まえ、現場の人材不足や事業所の経営危機が深刻化しており、緊急性の高いテーマとして議論される見通しだ。2025年7月投開票の参院選で与党が惨敗したのを受けて、政局が一層、流動化する可能性がある中、制度改正論議の先行きは不透明になっているが、本稿では過去の経緯などを踏まえつつ、2027年度制度改正の論点を概観する。

■目次

1――はじめに~介護保険改正の論点を考える~
2――制度改正の主な論点
  1|5つの論点
  2|過去の制度改正と比べると…
  3|骨太方針の文言
3――積み残された3つの財政問題(1)~2割負担の対象者拡大~
  1|2024年度改正までの議論の経過
  2|改革工程で示された2つの見直しの方向性
  3|物価上昇の影響は?
4――積み残された3つの財政問題(2)~ケアマネジメント有料化~
  1|2024年度改正までの議論の経過
  2|業界団体の提案
  3|高まる相談業務の重要性との整合性は?
5――積み残された3つの財政問題(3)~要介護1~2の給付見直し~
  1|2024年度改正までの経過
  2|今回も困難?
6――2040年検討会の動向
  1|中間とりまとめでは、地域を3つで区分
  2|集住の選択肢、市町村の機能低下をどうするか?
7――有料老人ホーム検討会の動向
  1|検討会の背景と動向
  2|解決策は難しい?
8――賃上げや報酬改定の動向
  1|賃上げを巡る経緯
  2|賃上げに関わる骨太方針の文言
  3|財源問題の優先順位は低い?
9――参院選後の政局の影響は?
  1|介護職の賃上げを巡る政治の動向
  2|介護職の賃上げに関する参院選公約の言及
  3|制度改正の行方は?
10――おわりに

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

・関東学院大学法学部非常勤講師

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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