1|身近な病気やケガに対応する部分もカバーされた意味合い
第3に、現場で制度運営を担う都道府県・市町村の視点である。まず、都道府県に関しては、医療行政における役割が大きくなる中、今まで手付かずだった診療所や中小病院が制度にカバーされるようになり、入院医療から入退院支援、在宅医療、外来医療、医療・介護連携までを一体的に議論できるようになった意味合いを指摘できる。
具体的には、先に触れた通り、地域医療構想や外来機能分化の議論は病院に限定されていたため、診療所や中小病院が担う身近な病気やケガへの対応は地域の協議の場から外れていた。しかし、そもそも論を言うと、過去の提供体制改革では本来、かかりつけ医機能を意識する必要があった。
例えば、地域医療構想の議論では、専ら急性期病床の削減に力点が置かれていたが、これらの病院から退院する患者にリハビリテーション機能を提供する回復期病床の役割が重要になるため、中小病院の役割が問われていた。さらに、回復期から退院した高齢者らを自宅で受け入れる上でも、外来での対応や在宅医療、医療・介護連携などが重要になるため、かかりつけ医機能を担う診療所や中小病院の役割も意識する必要があった。
このほか、外来機能分化を通じて、中小病院や診療所から紹介された患者を受け入れる「紹介受診重点医療機関」を決めることとは、これらの医療機関に紹介されない患者への対応を検討する必要があり、この役割を担うのは当然、かかりつけ医機能を担う診療所や中小病院である。
以上のように考えれば、都道府県を中心とした過去の医療提供体制改革は全て、かかりつけ医機能と深い関わりを持っていたことになる。このため、今回の新たな制度を通じて、都道府県が切れ目のない提供体制の構築に向けた議論を展開しやすくなったと言える。
むしろ、筆者自身としては、かかりつけ医機能に関わる見直しが遅きに失したと考えており、今回の新たな制度を機に、病床再編、外来機能分化、在宅医療、医療・介護連携、医師確保など幅広い視点で、医療提供体制の方向性を検討するスタンスが都道府県に望まれる。
さらに、介護保険や福祉制度を司る市町村も、同様の効果を期待できると考えられる。特に在宅医療や医療・介護連携では、介護保険財源を用いる「在宅医療・介護連携推進事業」という事業を中心に、実践が積み上げられてきた。
具体的には、2015年度介護保険改正で創設された在宅医療・介護連携推進事業では、図表7の通り、(1)地域の医療・介護の資源の把握、(2)在宅医療・介護連携の課題の抽出と対応策の検討、(3)切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築推進、(4)医療・介護関係者の情報共有の支援、(5)在宅医療・介護連携に関する相談支援、(6)医療・介護関係者の研修、(7)地域住民への普及啓発、(8)在宅医療・介護連携に関する関係市区町村の連携――という8つの取り組みが市町村に課されている
27。
ここでの注目は8つの取り組みと、かかりつけ医機能の共通点である。既に触れた通り、かかりつけ医機能の2号機能報告では、在宅医療や介護との連携が想定されており、かなりの部分が在宅医療・介護連携推進事業と共通しているし、いずれも現場で担う主体は地域の医師会である。
このため、市町村としては、これまでの在宅医療・介護連携推進事業の蓄積を踏まえつつ、かかりつけ医機能の新しい制度をテコ入れ材料にすることで、地域の医師会との関係を構築、強化できる可能性が想定される。
実際、国の委託調査で2025年3月に改定された『在宅医療・介護連携推進事業の手引き』
28では、「かかりつけ医機能報告制度に係る協議の場等においても、必要に応じて連携し、実施することも重要である」という記述が入るなど、かかりつけ医の新制度と在宅医療・介護連携推進事業のリンクを意識する必要性が言及されている。