5|新制度の主な流れ(4)地域における協議
さらに、報告された情報を基に、都道府県が協議の場を地域単位で開催し、地域の医師会や市町村、介護事業者などの関係者と合意形成を図りつつ、自主的な対応を促すことになっている。ここで主に想定されている場とは「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)である。以下、「地域医療構想」「調整会議」を順に説明する。
まず、地域医療構想とは主に病床再編などを目的にした政策であり、これを基にした見直し論議が都道府県を中心に2017年度から本格的にスタートした。具体的には、都道府県が地域医療構想を策定する際、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年を意識しつつ、救急対応を司る「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期入院の需要に対応する「慢性期」の各機能について、医療需要を病床数で推計。さらに、医療機関が担っている機能などの情報を都道府県に報告してもらう「病床機能報告」を通じて現状と比較し、将来の需要ギャップを明らかにすることに力点が置かれていた。
その後、目標期限だった2025年が到来したため、厚生労働省は基本的な構造を変えないまま、生産年齢人口が激減する2040年をターゲットにした「ポスト地域医療構想」の議論を始動させようとしている
16。
しかし、日本の医療提供体制の大宗は民間によって占められており、国や都道府県は民間医療機関に対し、病床削減などを命令できない。
そこで、重視されているのが調整会議である。これは人口20~30万人程度で区分される「2次医療圏」単位に設置されている会議であり、地域医療構想の実現に向けて、都道府県を中心に地域の医師会や医療機関経営者、市町村、介護事業所の経営者、住民などが地域医療構想を推進するための方策を検討することが重視されている。
さらに、地域医療構想とは別に、2021年度の医療法改正を通じて、「中小病院、診療所が日常的な病気やケガに対応し、複雑なケースは大病院に紹介」「大病院は紹介患者を受け入れ」という外来の機能分化を目指すための協議の場も置かれるようになった
17。多くの都道府県が地域医療構想の調整会議と一体的に運営している。
かかりつけ医機能に関する今回の制度でも、調整会議を含めた協議の場を通じて、地域の課題を関係者が認識し、自主的な対応を通じて、不足分を充足しようという考え方に立っており、入退院支援について、分科会報告や自治体説明会の資料では、図表6のような協議の流れが例示されている。
具体的には、関係者がデータや事例を基に、協議の場を通じて、「在宅療養中の高齢者が状態悪化で入院を要する場合、受け入れる後方支援病床を確保できていないため、入院まで時間が掛かり、その間に状態が悪化している」といった地域の課題を具体的に検討。その上で、こうした課題が起きている要因を抽出し、地域で目指すべき課題を協議。その上で、関係者が協議しつつ、対応策と役割分担を整理するとともに、対策で期待できる効果も予想することで、施策のPDCAが回るような仕掛けが期待されている。
ここで、注意を要するのは地域医療構想や外来機能分化との違いである。地域医療構想や外来機能分化では専ら病院における医療の役割分担などが重視されているのに対し、かかりつけ医機能では在宅医療や介護との連携など、住民に身近な部分をカバーする部分が想定されている。このため、かかりつけ医機能に関しては、2次医療圏単位よりも小さな範囲で協議の場を開いた上で、保険者(保険制度の運営者)として介護保険財政を運営する市町村や市町村単位の医師会、介護サービス事業者などが参加することが重要になる。実際、2024年7月に示された分科会報告では、下記のような内容が盛り込まれている。
- 実施主体である都道府県が市町村と調整して決定する。
- 協議するテーマに応じて、時間外診療、在宅医療、介護等との連携等は市町村単位等(小規模市町村の場合は複数市町村単位等)で協議を行い、入退院支援等は二次医療圏単位等で協議を行い、全体を都道府県単位で統合・調整するなど、「協議の場」を重層的に設定することを考慮する。
- 協議の場の参加者については、協議するテーマに応じて、都道府県、保健所、市町村、医療関係者、介護関係者、保険者、住民・患者(障害者団体・関係団体を含む)等を参加者として、都道府県が市町村と調整して決定する。
つまり、制度の運営を現場で担う都道府県が医療機関の経営者や地域の医師会など医療関係者だけでなく、市町村や介護事業所の経営者などと柔軟に連携を図ることが重要という考え方である。さらに、検討を進める際の圏域についても、必ずしも2次医療圏単位にこだわらず、柔軟に設定する必要性も強調されている。