「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年)

2025年03月25日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

3.大阪オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)労働市場からみたオフィス需要
2024年の大阪府の就業者数は474.2万人(前年比+7.1万人)となり、3年連続で増加した(図表-11・左図)。

就業者を産業別にみると、2019年を100 とした場合、オフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が150、「学術研究,専門・技術サービス業」が123、「金融業,保険業」が107となり、コロナ禍以降、全体(104)を上回るペースで増加している(図表-11・右図)。
次に、大阪のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「近畿地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認する。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「非製造業」の「企業の景況判断BSI3」(近畿地方)は、コロナ禍の影響により2020年第2四半期に「▲51.9」と一気に悪化した後、一進一退を繰り返しながら回復し、2024年第4四半期は「+0.3」となった(図表-12)。

また、「非製造業の従業員数判断BSI4」(近畿地方)は、「+25.5」(2020年第1四半期)から「+2.7」(同第4四半期)へ大幅に低下した後、回復が続いている。2024年第4四半期は+29.3となり、コロナ禍前の水準を大きく上回った(図表-13)。

大阪商工会議所の調査5によれば、今後重点的に取り組みたい経営課題として、「人手不足への対応(省人化投資や人材確保・離職抑止等)」との回答が約6割を占めた。また、人手不足への対策として、「採用活動の強化」との回答が約6割を占めた。

大阪府の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いている。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合の高い「非製造業」で人手不足感がより強く、企業の採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、大阪中心部のオフィスワーカー数は堅調に推移するものと考えられる。
また、関西生産性本部「第37回 KPC 定期調査」によれば、「人材の確保」への対応策は、「社員の働きやすい環境の整備」との回答が最も多く、約7割を占めた(図表-14)。

ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2024」によれば、大阪市のオフィスワーカーに今後利用したいオフィス内のレイアウトについて質問したところ、「リフレッシュスペース」(33%)や「食堂・カフェスペース」(28%)が上位となっている(図表-15)。

今後、人材確保のため従業員満足度の向上に寄与する設備のグレードアップやアメニティの充実が進むと考えられる。
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
5 大阪商工会議所「中堅・中小企業の人手不足・価格転嫁に関するアンケート調査」(2024年4月18日)
(2)テレワークの進展に伴うオフィス環境整備
パーソル総合研究所「テレワークに関する調査」によれば、大阪圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県)のテレワーク実施率は、概ね2割から3割の範囲で推移しており、2024年7月調査では21%となった(図表-16)。大阪圏においても、テレワークが一定程度定着している模様である。
人材確保のために、テレワーク等の多様な働き方を採用する企業が増えている。大阪府「令和6年度大阪府労働関係調査報告書」によれば、人材定着を目的とした「多様な働き方の推進(フレックスタイム制、在宅勤務、サテライトオフィス等)」の取組状況について、「実施している」との回答は、全体で16%となった。産業別にみると、「情報通信業」(48%)が最も高く、次いで、「学術研究、専門・技術サービス業」(41%)、「金融業、保険業」(36%)となっており、オフィスワーカー比率の高い業種ほど多様な働き方が進んでいる(図表-17左図)。また、従業員が多い企業ほど、多様な働き方が進んでいるようだ(図表-17右図)。

また、従業者からもテレワークを希望する声が高まっている。関西経済連合会「2025年賃金改定に関するアンケート調査」によれば、「賃金改定や賞与のほかに春季労使交渉で議論するテーマ」について、「テレワークの導入と課題」(14.1%)との回答は前年(6.6%)から約2倍に増加した。

こうした状況を受けて、大阪市のオフィスワーカーにおいては、テレワークを取り入れたフレキシブルな働き方(ハイブリッドワーク)が広がりつつある。ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2024」によれば、大阪市のオフィスワーカーに勤務形態を質問したところ、「完全出社(59%)」との回答が最も多く、次いで「ハイブリッドワーク(39%)」が多かった。

ザイマックス不動産総合研究所「大都市オフィス需要調査2024秋」によれば、大阪市の企業にオフィスに関しての課題を質問したところ、「会議室やリモート会議用スペースなどが不足している」との回答が最も多く、約5割を占めた。大阪市において、テレワークへの対応や、従業員間のコミュニケーション促進を目指したオフィス環境の整備が進むと考えられる。

このように多様な働き方が広がるなか、「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」等の利用が増えている。ザイマックス不動産総合研究所「フレキシブルオフィス6市場調査2025」によれば、関西圏のフレキシブルオフィスの拠点数は「357」(このうち、大阪市は「208」)に達しており、テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、引き続き、大阪のオフィス需要を下支えすると考えられる。
 
6 一般的なオフィスの賃貸借契約によらず、利用契約・定期建物賃貸借契約などさまざまな契約形態で、事業者が主に法人および個人事業主に提供するワークプレイスサービス。「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」などを含む。
(3)大阪・関西万博の経済波及効果への期待
2025 年4月から開催予定の大阪万博による経済効果への期待は大きく、ビジネス拡大の機会と捉える企業は多い。

大阪府・大阪市万博推進局「令和6年度大阪・関西万博機運醸成事業アンケート調査・分析」によれば、「万博の内容について、興味や関心があるもの、実際に会場まで見に行きたいと思うもの」について、「空飛ぶクルマ・無人運行船・自動運転車などの次世代型モビリティ(29%)」との回答が最も多く、次いで、「海外参加国・国際機関のパビリオン(27%)」、「民間企業のパビリオン(20%)」「人と共存するロボットやアンドロイドなどの技術(20%)」との回答が上位であった。万博には、最先端技術・知見の提供が期待されている。

また、大阪府・大阪市万博推進局の調査によれば、大阪・関西万博への来場意向は全体で34.9%(前年比+1.1ppt)、大阪府では39.6%(同+2.7ppt)と前年調査から増加しており、開催を間近に控えて、来場意向は緩やかに高まっているようだ。

大阪観光局によれば、2024年に大阪府を訪れた訪日外国人客は約1,464万人に達し、コロナ禍前の2019年(約1,231万人)を上回り、過去最高を更新した。万博に伴う国内外の観光客増加による関西経済の活性化を期待する声も大きい。

経済産業省は2024年3月に万博の経済波及効果を約2.9兆円と発表し7、これを受けて、大阪市は2024年4月に大阪府域への経済波及効果を約1.6兆円と試8しており、オフィス需要に対してもプラスの効果が期待される。

一方、万博をめぐる課題として、費用の増加や会場建設の遅れ等が指摘されている9。会場建設費は1,250億円(2019年12月)から2,350億円(2023年12月)に、運営費は809億(2019年12月)から1,160億円(2024年2月)に増加した。また、海外参加国のパビリオン建設について、自前で建設する47か国のうち、建設工事が完了した国は、2025年3月上旬時点で8か国にとどまる10

想定よりも、工期に遅れが生じる、あるいは来場者が大幅に下回る場合、上記の経済波及効果が未達となる懸念もあり、今後の動向を注視したい。
 
7 経済産業省「大阪・関西万博経済波及効果再試算結果について」(2024年3月)
8 大阪府・大阪市万博推進局「第10 回 2025 年大阪・関西万博推進本部会議」(2024年4月12日)
9 三浦夏乃『⼤阪・関⻄万博の概要と課題』国立国会図書館、調査と情報 -Issue brief-、2024年8月6日
10 共同通信「万博・海外館、建設完了は2割弱 開幕まで間に合うか懸念」」(2025年3月12日)

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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