はじめに
数字の「1001」と聞いて、皆さんが思い浮かべるのは「千夜一夜物語」だろう。数字の「1001」は、以下で説明する独特の法則もあり、この物語のヒロインであるシェヘラザードと結び付けて「シェヘラザード数」と呼ばれるもの(の1つ)になっている。
今回は、この数字の「1001」について、それが現れてくる例やその理由等について調べてみた。
千夜一夜物語
「千夜一夜物語」、「千一夜物語」あるいは「アラビアンナイト」の名称で知られている物語は、イスラム世界の説話集である。英語名では「One Thousand and One Nights」だが、1706年に最初の英語版が出版された時のタイトル「The Arabian Nights' Entertainment」から、「アラビアンナイト(Arabian Nights)」として知られている。
「千夜一夜物語」は、概ね「ペルシャのシャフリヤールという王が、妻の不貞を知ったことから妻と相手の首をはねるとともに、女性不信となり、毎日女性を宮殿に呼んで一夜を過ごしては、翌朝にはその首をはねるという生活をしていた。これを見かねて、王の側近の大臣の娘シェヘラザードが名乗り出て王妃となり、毎夜、王に対して興味深い物語を聞かせた。王は話の続きを聞きたくて、王妃を殺さず、ついに千一夜が過ぎ、最後は王の心が和んで、シェヘラザードを終生の妻にした。」という物語である(表現上の制約等により、物語の説明に正確性が欠けていることはご容赦いただきたい)。
元々の写本等では二百数十夜でタイトルも「千夜」だったようだが、それがやがてタイトルを含めて「千一夜」になっていったとのことである。また、結末についても、いろいろなバージョンがある。また、なぜ「1001」なのかについても、諸説ある。毎日一夜ずつ読んでも約3年もかかるという、長大な物語であることを強調したかったとか、そもそも「1001」が「多数」を意味しているからとか、「1000」ではないのは偶数が嫌われたから、とか言われている。
因みに、「千夜一夜物語」からの代表的な物語としては「シンドバッドの冒険」、「アラジンと魔法のランプ」、「アリババと40人の盗賊」等が挙げられる。
シェヘラザード数
この「千夜一夜物語」のヒロインであるシェヘラザードから「シェヘラザード数」と呼ばれるものがある。米国の建築家・未来学者として知られるリチャード・バックミンスター・フラーが、その1975年の著書『シナジェティクス』の中で、1001 を含む一連の数を「シェヘラザード数」と呼んだことに由来している。
この「1001」は特別な性格を有した数字となっており、3桁の数を2つ重ねて、それを1001で割ると、その元の3桁の数字になる。これを「シェヘラザードの法則」と呼ぶ人もいる。具体的には、以下の通りである。
三桁の数字「634」に対して、それを2つ重ねた「634634」を考える。この数値を1001で割ると「634」になる。
これは、考えてみれば明らかなことで、逆にそもそもある三桁の数に1001を掛けるということは、その数字を2つ並べることに等しいことから、何ということはない事実であり、法則と言うほどのものでもないと思われるかもしれない。
千夜一夜物語の影響を受けた作品
「千夜一夜物語」は、多くの文化に影響を与えてきているが、そのうちのいくつかを挙げると、以下の通りとなっている。
クラシック音楽の世界においては、ロシアの作曲家であるリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」が最も有名で、この作品は4つの楽章(I.海とシンドバッドの船、II.カレンダー王子の物語、III.若い王子と若い王女、IV.バグダッドのお祭り)で構成されている。
「アラビアンナイト」や「アラジン(の冒険、と魔法のランプ等)」等の数多くの映画、アニメやミュージカル等も製作されてきている。
1001=7×11×13 を利用した整除判定法
「1001」は7×11×13という形で素因数分解される。即ち、7と11と13を約数としている。これを利用して、ある数字が7や11や13で割り切れるどうかの判定(整除判定)を行うことができる。
例えば、「304114356」という数字を考える。この数字が 7や11や13で割り切れるどうかを判定するのに、もちろん電卓を使えば直ぐに判定できるが、手で計算するのはかなり大変なものとなる。ところが、この数字が7や11や13で割り切れるどうかの判定を、以下のプロセスにより、比較的簡単に行うことができる。
(1) 数字を右端から3桁ごとに区切る。上記の例では「304」、「114」、「356」
(2) その中の奇数番目のグループと偶数番目のグループをそれぞれ足し合わせる。 奇数番目「304+356=660」、偶数番目「114」
(3) 奇数番目のグループの和から偶数番目のグループの和を差し引く。
660-114=546
(4) (3)の数値が7や11や13で割り切れるどうかが、元の数値が7や11や13で割り切れるどうかの判定と等しくなる。546/7=78、546/11=49.63… 、546/13=42 であるから、元の数は7と13では割り切れるが、11では割り切れないことになる。
これも、103+1=1001、106-1=999999 が共に1001、したがって7と11と13を約数として有している中で、
103(2n-1) +1=(103+1)(103(2n-1)-103(2n-2)-・・・-1)
103・2n -1=(106-1)(106(n-1)+106(n-2)+・・・+1)
となっている、即ち、mod a(数値aを序数で割った時の剰余を示す)を使えば、
103(2n-1) =-1 mod 1001 (mod 7 & mod 11 & mod13 ) 偶数番目のグループに対応
103・2n =1 mod 1001 (mod 7 & mod 11 & mod13 ) 奇数番目のグループに対応
であることから、上記の整除判定法が正しいことがわかる。
「14C4=1001」 NBAのドラフト抽選等
14個の異なるものから4個を選ぶ組み合わせの数(例えば、トランプのA(エース)から10、ジャック、クイーン、キング及びジョーカーの14枚のカードから4枚選ぶ組み合わせの数)は
14C
4 でこれは「1001」となる。
この組み合わせの数が実際に使用されている例として、以下が挙げられる。
NBA(全米バスケットボール協会)のドラフト抽選(NBA draft lottery)は、前年にプレーオフに進出できなかったチームが抽選プロセスに参加して、NBA ドラフトのドラフト順位を決定するイベントである。現在のNBAは30チームで構成されており、そのうちの16チームがリーグチャンピオンを決定するために開催される勝ち抜きトーナメントであるプレーオフに進出する形になっている。従って、残りの14チームがドラフト抽選の対象になっている。
このイベントにおいては、14個のボールから 4 個のボールを選択することで 1,001 通りの組み合わせの抽選を使用し、11、12、13、14 の組み合わせを無視して 1,000 通りの結果を生成している。
14のチームは成績の悪い順にシードされ、各チームに対して、1000通りの組み合わせのうちの一定数がシード順に応じて割り当てられる。具体的には、上位3シードのチームには140の組み合わせ、第4シードには125、第5シードには105、第6シードには90、第7シードには68、第8シードには67、第9シードには45、第10シードには30、第11シードには18、第12シードには17、第13シードには10、そして、最後の第14シードには5の組み合わせ、が割り当てられる
1。
抽選によって当該の組み合わせが割り当てられたチームが指名権を獲得することになる。
1 なお、各シードに割り当てられる組み合わせの数については、シードされるチームの数自体も過去から変化(増加)してきている中で、その時々の状況に応じて、決定されてきているようだ。
数学における数字としての「1001」
「1001」が、数学の場面で現れてくる例としては、以下のものが挙げられる。
・先に述べたように、1001は7と11と13の3つの素数の積となっているが、このような数を「
スフェニック数(楔数)(Sphenic number)」と呼んでいる。全てのスフェニック数はちょうど 8 個の約数を有している。
・1001は、「
回文数(Palindromic number)」と呼ばれる、逆から数字を並べても同じ数になる数、となっている。そのべき乗も4乗までは回文数となっているが、5乗になると桁上りが発生するため、回文数とならない。具体的には、以下の通りである。
1001
4=1004006004001
1001
5=1005010010005001
・1001は、「
五胞体数」あるいは「
ペンタトープ数(Pentatope number)」と呼ばれる、パスカルの三角形
2の5段目の左上から右下または右上から左下の数列、の1つである(下記の(参考)参照)。これは、(パスカルの三角形の4段目の左上から右下または右上から左下の数列となっている)三角錐数を1から小さい順に加えた数となっている。n番目のペンタトープ数は、
n+3C
4で表される。具体的には、以下のような数列になっている(先に述べたように、11番目が1101になっている)。
1、5、15、35、70、126、210、330、495、715、1001、1365 ・・・
最後に
今回は数字の「1001」について、それが現れてくる例やその理由等について、紹介してきた。
数字の「1001」については、「千夜一夜物語」で有名だが、いくつかの書籍や映画のタイトル等でも「1001」というタイトルが使用されていたりする。ただし、「1001」という数字が使用される場合、基本的には文字通りの数値を表しているのではなくて、(1000を超えるような)非常に大きな数字を示すために使用されているケースが殆どである。
1000を超えるような特定の数字でも、数字としての特殊性から、注目されるケースもある。これらについては、今後の研究員の眼で紹介していきたいと思っている。それ以外のケースにおいては、1000を超えるような数字が一般の人々にとって意味を有するのは、具体的な事象等と結びついたようなケースに限定されているものと思われる。