1|「真に必要」とは何か
では、どんな解決策が想定されるのでしょうか。前半で引用した骨太方針の文言を読むと、できる限り計画策定義務を新設しないこと、真に必要な場合でも内容や手続きを自治体の判断に委ねること、あるいは策定済みの計画との統合、他の団体との共同策定などを進めることが書かれています。
しかし、「真に必要か否か」を判断する線引きは容易ではありません。例えば、筆者は国による認知症基本法の制定、さらに自治体による認知症施策の計画策定と根拠となる条例制定を通じて、認知症の人や関係者の意見を丁寧に聴取しつつ、認知症施策が地域レベルで展開されることが重要と考えています
8。こうしたスタンスに立てば当然、「国会で検討が進む認知症基本法案では、自治体に計画策定義務、最低でも努力義務を課して欲しい」「計画策定義務を新設しないのが原則だけど、認知症は例外扱い」という結論になります。
冒頭の記事に言及されていた循環器病対策推進計画でも同様の点を指摘できます。筆者は「循環器病対策で基本法制定」「◎◎県が循環器病対策推進計画の検討に着手」といったニュースを見聞きした際、「がん、アレルギー疾患、難病、アルコール健康障害で基本法が作られているのに、疾病、病気ごとに基本法や計画を作るの?」という疑問を持った記憶があります。
しかし、その後に認識を改める機会が訪れました。まず、循環器病対策に関するシンポジウムを聴講した際、「心疾患、脳血管疾患は死因の計2割ほどの理由を占める」「要介護になる理由の約20%も心疾患、脳血管疾患」「このため、法律と計画策定義務を通じて、循環器病対策を国、自治体で強化する必要がある」といった説明を聞き、法律や計画が合理性を有していることに気付かされました。
さらに、都道府県の循環器病対策推進計画の策定に関して、アウトカム(成果)までの経路を明らかにする「ロジックモデル」を用いた計画策定と、それに基づく関係者の合意形成プロセスが一部の地域で図られている
9ことを知り、今では「要らないのでは」と感じた不明を反省しています。
それでも「循環器病対策で計画策定義務が必要かどうか」と問われると、「認知症の自治体計画の方が重要では」と思っており、このような筆者の意見については、循環器病対策に取り組んでいる人から「いや、こっちが先決だ」という反論を頂くことになると思います。
つまり、「何が必要か」という判断は個々人の認識で大きく異なるため、「原則義務付けなし」「真に必要な案件だけは認める」と判断しても、認知症ケア・施策にしろ、循環器病対策にしろ、それぞれが合理性を有している以上、「何が真に必要か」の線引きは困難です。
例えば、地方分権改革有識者会議は今年2月の報告書で、(1)全国的な総量規制・管理のために必要、(2)国民の生命、身体などへの重大かつ明白な危険に対して国民を保護するための事務で、全国的に統一して定めることが必要、(3)国が税制上、法制上の特例措置を講じる直接的な根拠――などに該当する場合、国が自治体に対して計画策定を求める手法が許容し得るとしていますが、ここで取り上げた認知症ケア・施策、循環器病対策を必要と考える人は「国民の健康に関わる部分であり、全国的に統一して定めることが必要」とし、例外扱いを希望するはずです。
以上のように考えると、計画策定義務を「真に必要な案件」に限定すると言っても、簡単ではないことに気付かされます。だからこそ義務付け・枠付けの文脈で10年以上も是非が論じられているのに、逆に策定義務の対象計画が増えているわけです。