2|「代理人」機能の重要性
第2に、「代理人」機能の重要性です。実は、筆者は「顔の見える関係」の重要性が喧伝されていることについて、少し危うさを感じています。そもそもの問題として、専門職による連携だけが重視され、中心に据えるべき本人の意向が忘れられてしまうのでないか、という懸念です。別に「連携」の対象は医療・介護の専門職に限りませんし、本人や家族もチームの一員です。少し奇をてらった言い方ですが、人生の最終段階を迎えた患者・利用者の場合、宗教家に関わってもらう場面もあるかもしれません。利用者本人が大事にしているペットも、考え方次第ではチームの一員になり得ます。
それにもかかわらず、専門職が「地域包括ケアは『顔の見える関係』から始まる」と言いつつ、飲み会で盛り上がっている様子(最近は新型コロナウイルスの影響で減ったと思いますが…)を見ると、「集まることが目的化していないだろうか」といった懸念を持ってしまいます。
さらに、連携が往々にして無責任体制を生む懸念を恐れています。患者から見れば、異なる専門職が次々と現れ、同じことを何度も話さなきゃいけないのは苦痛ですし、「困った時に相談できる人」が決まっていないと、不安を覚えるはずです。このため、在宅ケアの利用者から見た医療・介護への「入口」を少なくした方がケアの統合性が高まると思います。その際には在宅医や訪問看護が中心になってもいいですし、本来はケアマネジャーも役割を果たせると思います。言わば患者・利用者にとっての「代理人」を形成し、その代理人を中心にケアを統合・調整するイメージです。
もちろん、患者・利用者が「困った時に相談できる人」、つまり代理人となる専門職が全ての問題に対応できるとは限りません。例えば、在宅医の視点は医療の支援に偏りがちですし、逆に医学の知識や情報、経験に疎い介護・福祉職が多く、医療・介護連携の障壁として議論される時があります。
しかし、複雑な社会保障制度とか、患者・利用者の病歴や生活歴、複雑な家族関係やコミュニティなどについて、1人の専門家が深く知るのは困難です。言い換えると、「代理人」が全てに知悉できない以上、それぞれの専門職が足りない部分や苦手な部分を補完し、逆に得意な部分は専門性を発揮しつつ、代理人を中心に多職種連携を進めるイメージです。
その際、
第4回で述べた通り、介護分野では本来、ケアマネジャーの役割が大きいと考えています。実際には医療機関から退院の連絡が急に入るため、現場のケアマネジャーが対応しにくい点
8など、なかなか一口に「連携」を掲げても、言うは易く行うは難しなのですが、先に触れた映画『ピア』ではケアマネジャーが節目に登場するなど存在感が大きく、一種の「狂言回し」(場面の転換や話の進行に際して重要な役割を果たす人)のような形で、キーパーソンの役割を演じていました。野暮な私は「医師に説教するケマネジャーなんて非現実的!」と突っ込みつつ映画を観てしまいましたが、医療・介護連携を図る上で、医療職と対等な立場で対話、連携できる「代理人」のようなケアマネジャーが一人でも増えて欲しいと期待しています。
8 ケアマネジャーが勤務する居宅介護支援事業所に対して国が実施した委託調査研究によると、調査対象の50.5%に相当する事業所が「医療機関との連携において困難と感じる点、問題と感じる点」として、「医療機関から急な退院の連絡があり、対応が困難」を挙げた。2019年4月10日社会保障審議会介護給付費分科会に提出された「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業(結果概要)」を参照。この設問に関する調査対象は1,288事業所。