1|5つの論点
まず、制度改正で想定される論点を網羅する。2024年12月に開催された介護保険部会では、(1)地域包括ケアシステムの推進、(2)認知症施策の推進・地域共生社会の実現、(3)介護予防・健康づくりの推進、(4)保険者機能の強化、(5)持続可能な制度の構築、介護人材確保・職場環境改善――という5つで整理された。
このうち、1番目で言及されている「地域包括ケア」とは、「医療や介護が必要な状態になっても、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される」と法律で定義
1されており、人口のボリュームが大きい団塊世代が75歳以上になる2025年をターゲットに据え、介護予防や認知症支援策など様々な施策が展開されてきた。
だが、目標の年次が到来した上、後述する通り、医療分野では生産年齢人口が激減する「2040年」を見据えた施策の議論が始動し、介護でも「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方検討会」(以下、2040年検討会)の検討が始まった。2027年度改正では、これらの点を意識しつつ、多様なサービス提供や医療・介護連携などが主な話題になりそうだ。2040年検討会については、後述する。
次に2つ目の「認知症施策の推進・地域共生社会の実現」のうち、前半の認知症施策では2024年1月に施行された認知症基本法を踏まえた施策の展開が論点として考えられる。この法律では、「認知症=何も分からなくなった人」という古い認知症観からの脱却を目指しており、政府は2024年12月に「認知症施策推進基本計画」を策定。これを踏まえつつ、認知症の人が安心して暮らせる地域を作るため、自治体も「認知症施策推進基本計画」の策定が求められている
2。
2つ目の後半の「地域共生社会」では、厚生労働省は「制度・分野ごとの『縦割り』や『支え手』『受け手』という関係を超えて、 地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が 世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」と説明しており、生活困窮者に対する支援や孤独・孤立対策、住民同士の支え合いの強化など高齢者介護にとどまらない論点が想定されている。
3つ目の「介護予防や健康づくりの推進」では、高齢者が気軽に体操などを楽しめる「通いの場」の拡充に加えて、要支援者を対象とした「介護予防・日常生活支援総合事業」のテコ入れなどが論点として考えられる。このうち、総合事業は3つの財源問題の一つに位置付けられており、経緯や論点を後述する。
4つ目の「保険者機能の強化」とは、介護保険の運営者(保険者)である市町村の機能強化を意味する。ここでは、介護保険の財政運営だけでなく、高齢者人口や専門職数の違いなど「地域の実情」を踏まえつつ、市町村が高齢者の外出支援や介護予防などの各種施策に当たれるような体制整備が論点になっている
3。
最後の「持続可能な制度の構築、介護人材確保・職場環境改善」では、後述する2割負担の対象者拡大などの財政問題に加えて、現場の人材確保策とか、介護現場の生産性向上・職場環境改善が論点になっている。このうち、生産性向上・職場環境改善は2024年度介護報酬改定で焦点になったテーマであり、働きやすい職場づくりや少ない人員で現場が回るようなデジタル技術の導入などが目指されている
4。
1 2012年制定の医療介護総合確保推進法の定義。ただ、給付抑制策の説明なども含めて多義的に使われており、ここでは定義に立ち入らない。定義に関しては、介護保険20年を期した拙稿コラムの第9回を参照。
2 正式名称は共生社会の実現を推進するための認知症基本法。その経緯や内容などは2024年6月25日「認知症基本法はどこまで社会を変えるか」を参照。
3 近年の医療・福祉に関わる制度改正に関して、「地域の実情」という言葉が政府文書で多用されており、自治体の主体性が期待されている。詳細は「地域の実情」という言葉に着目したコラムを参照(全6回、リンク先は第1回)。
4 2024年度改正では、相談窓口を都道府県に義務付ける見直しに加えて、報酬面でもセンサーを導入した施設に対する加算(ボーナス)などが創設された。詳細は2024年5月23日拙稿「介護の『生産性向上』を巡る論点と今後の展望」を参照。