1|企業の社会的責任・存在意義は社会的価値創出にあり
企業の社会的責任(CSR)や存在意義とは何か。筆者は、「企業の社会的責任や存在意義は、単に製品・サービスをアウトプットとして提供することにとどまらず、あらゆる事業活動を通じて社会課題を解決し社会を良くするという『社会的ミッション』を実現すること、すなわち『社会的価値』を創出することにこそあり、結果としてそれと引き換えに経済的リターンを獲得できると考えるべきであり、経済的リターンありきではなく社会的ミッションを起点とする発想が求められる。このような社会的価値創出を経済的リターンに対する上位概念と捉える『社会的ミッション起点の真のCSR経営』は、従業員、顧客、取引先・サプライヤー、株主、債権者、地域社会、行政など『多様なステークホルダー(マルチステークホルダー)』との高い志の共有、いわば『共鳴の連鎖』があってこそ実践できる。経営者は、社会を豊かにする社会変革(ソーシャルイノベーション)をけん引すべく、強い使命感・気概・情熱を持って、沸き立つ高い志を多様なステークホルダーと共有し、社会的ミッションを成し遂げなければならない」と主張してきた
1。
社会的ミッション起点の真のCSR経営において、「経営トップの役割としては、経営戦略の構築力・実行力もさることながら、志の高い社会的ミッションを掲げ、それを全社に浸透・共有させ、組織風土として醸成し根付かせるとともに、社外のステークホルダーからも共感を得て、多様なステークホルダーと一致結束する関係を構築することが極めて重要である。高い志への共鳴の連鎖を通じて醸成される、企業とステークホルダーとの信頼関係は、いわゆる『ソーシャル・キャピタル』
2と呼ばれるものであり、CSRを実践するための土壌となる」
3と言える。
また「一組織での社会的課題の解決は難しくなってきており、産学官、営利・非営利など多様な組織が連携する『オープンイノベーション』
4の重要性が高まっている」
5。その意味でも、志の高い社会的ミッションの下での多様な組織・プレーヤーとの共鳴・連携は欠かせない。すなわち、「企業にとって、製品・サービスのライフサイクルが短縮化する中、顧客ニーズの多様化や産業技術の高度化・複雑化に伴い、異分野の技術・知見の融合なしには、イノベーションのスピードアップが難しくなってきている。とりわけ社会を変える革新的な製品・サービスの開発は、企業が自社技術のみで完結させることがますます困難となってきている。イノベーションを巡るこのような環境変化の下で、企業は社内の知識結集だけでなく、大学・研究機関や他社などとの連携によって外部の叡智や技術も積極的に取り入れる『オープンイノベーション』の必要性が高まっている」
6。
「社会的価値の創出」とは、最終的には、人々の快適性・利便性、心身の健康(ウェルネス)、安全・安心、幸福感(ウェルビーイング)など社会生活の質(QOL)を豊かにすることにつながることが重要であり、企業活動の「ソーシャルインパクト(社会全体への波及効果)」と捉えることができる。
「社会的ミッション起点の真のCSR経営」と言うと小難しく聞こえるかもしれないが、平たく言えば、「企業経営は世のため人のために行う」「企業経営は社会の役に立ってなんぼ」ということだ。また、「真のCSR実践においては、適切な『ガバナンス(G)』の下で、企業活動の一挙手一投足を『環境(E)や社会(S)への配慮』という『フィルター』にかけることが不可欠である」
7ため、筆者が提唱する「社会的ミッション起点の真のCSR経営」は、「ESG経営」と言い換えることもできる。すなわち、「あらゆる企業行動がCSRにより規定される=CSRがあらゆる企業行動の拠り所となる」「CSRは、常にあらゆる経営戦略や企業活動に対する上位概念と位置付けられる」
8と考えるべきだ。環境や社会への配慮によりサステナブル(持続可能)な社会の構築に貢献することは、企業のサステナビリティ(持続可能性)の前提となる。サステナブルな社会への貢献は、まさにあらゆる企業が共有すべき最重要の社会的ミッションであり、社会的ミッション起点の真のCSR経営は、「サステナビリティ経営」とも言えるだろう。
1 企業の存在意義や社会的責任を社会的価値の創出と捉える考え方については、文末の<参考文献②>筆者が執筆した「社会的ミッション起点の真のCSR経営」に関わる主要な論考を参照されたい。
2 コミュニティや組織の構成員間の信頼感や人的ネットワークを指し、コミュニティ・組織を円滑に機能させる「見えざる資本」であると言われる。「社会関係資本」と訳されることが多い。
3 拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号にて指摘。
4 拙稿「オープンイノベーションのすすめ」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研REPORT』2007年8月号を参照されたい。
5 拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研REPORT』2009年12月号にて指摘。
6 拙稿「クリエイティブオフィスのすすめ」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2018年3月14日、同「AIと研究開発DX」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2020年12月28日にて指摘。筆者は、社会を変える革新的な製品・サービスの企画開発のための必要条件として、「オープンイノベーションの推進」とともに、「創造的なオフィス環境の整備」が挙げられると考えている(同「クリエイティブオフィスのすすめ」『基礎研レポート』2018年3月14日)。
7 拙稿「CSRとCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2015年3月31日にて指摘。
8 拙稿「地球温暖化防止に向けた我が国製造業のあり方」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研所報』Vol.50(2008年6月)にて指摘。