「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

2024年08月13日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

札幌のオフィス市場では、昨年の新規供給面積が17年ぶりに1万坪を超え、需給環境はやや緩和したものの、空室率は全国主要都市の中で最も低い水準を維持し、成約賃料は堅調に推移している。一方、今後についても複数の大規模ビル開発が計画されている。本稿では、札幌のオフィスの現況を概観した上で、2028年までの賃料予測を行う。

2.札幌オフィス市場の現況

2.札幌オフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
三幸エステートによると、札幌市の空室率(2024年7月時点)は3.1%となり、前年比+0.7%上昇した図表-1)。昨年の新規供給面積が17年ぶりに1万坪を超えて、需給環境はやや緩和したものの、空室率は全国主要都市の中で最も低い水準を維持している。

空室率をビルの規模1別にみると、「大規模3.1%(前年比+2.0ppt)」と「大型3.5%(同+0.3ppt)」が上昇した一方、「中型3.0%(同▲0.3ppt)」と「小型2.7%(同▲1.5ppt)」は低下し、規模間の格差が縮小した(図表-2)。
新規供給の増加を受けて空室率が上昇したものの、成約賃料は堅調に推移している。2023年下期の成約賃料は、前期比+3.7%、前年同期比+10.6%となった(図表-3)。
2023年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、空室率は、大阪市が低下、東京都心5区、名古屋市、札幌市が概ね横ばい、仙台市と福岡市は上昇した。また、成約賃料は、大阪市が下落、福岡市が横ばい、その他都市は上昇となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した札幌市の賃料サイクル2は、2013年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」の局面が続いていたが、足元では空室率が上昇しており、「空室率上昇・賃料上昇」の局面に差し掛かっている(図表-5)。
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、大型ビルが竣工したことに伴い、2023年末の賃貸可能面積(総供給面積)は 52.2万坪(前年比+1.2万坪)に増加した。一方、2023年末のテナントによる賃貸面積(総需要面積)は50.6万坪(前年比+0.7万坪)となり、空室面積は1.6万坪(前年比+0.5万坪)と前年比+44%増加した(図表-6)。
2-3.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2023年末時点で最も賃貸可能面積の大きいエリアは「駅前東西地区(29.1%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(26.0%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.4%)」、「南1条以南地区(14.8%)」、「北口地区(14.7%)」の順となっている(図表-8)。

賃貸可能面積は、「北口地区」(前年比+0.5万坪)や「駅前通・大通公園地区」(同+0.5万坪)等で増加し、合計+1.2万坪となった。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「駅前通・大通公園地区」(前年比+0.3万坪)や「北口地区」(同+0.1万坪)等で増加し、合計で+0.7万坪の増加となった。この結果、空室面積は、札幌ビジネス地区全体で+0.5万坪の増加となった(図表-9)。
エリア別の空室率(2024年6月時点)を確認すると、「北口地区7.4%(前年比+5.0ppt)」、「創成川東・西11丁目近辺地区4.2%(同+1.3ppt)」、「駅前東西地区1.6%(同+0.3ppt)」で上昇した一方、「駅前通・大通公園地区2.6%(前年比▲0.1ppt)」と「南1条以南地区1.8%(同▲0.3ppt)」で低下した(図表-10左図)。

エリア別の募集賃料(2024年6月時点)は、「創成川東・西11丁目近辺地区:前年比+8.0%」、「北口地区:同+6.3%」、「駅前東西地区:同+4.8%」、「南1条以南地区:同+3.6%」、「駅前通・大通公園地区:同+2.1%」となり、いずれのエリアも上昇基調で推移している。(図表-10右図)。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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