「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

2024年08月02日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

3.仙台オフィス市場の見通し

3-1.新規需要の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2023 年の仙台市の転入超過数は+1,659人となり、転入超過が続いている(図表-11)。総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、2023 年の仙台市の生産年齢人口は67.6万人(前年比+0.3%)となり、9年ぶりに増加した(図表-12)。
また、2023年の宮城県の就業者数は121.8万人(前年比+0.9万人)となり、4年ぶりに増加した(図表-13)。
以下では、仙台市のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東北財務局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2024年第2四半期は「+5.5」となった。(図表-14)。

「従業員数判断BSI4」(東北財務局)は、人手不足を表わす「22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下したが、その後は上昇傾向で推移し、2024年第2四半期は「+25.5」となり、コロナ禍前の水準を上回った(図表-15)。
仙台市では、人口の流入超過が継続しており、生産年齢人口は9年ぶりに増加した。宮城県全体の就業者数は4年ぶりに増加した。また、東北地方の「企業の経営環境」はコロナ禍で受けたダメージから回復に向かっており、「雇用環境」は人手不足感が強まっている。以上のことを鑑みると、仙台市のビジネスエリアの「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さいと考えられる。
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
(2)テレワークの進展に伴うワークプレイスの見直し
宮城県経済商工観光部雇用対策課「労働実態調査結果報告書」(2023年)によれば、「テレワークの導入状況」について、「導入済み」との回答は25%であったが、本社所在地が宮城県外(東京等)の企業に限定すると、「導入済み」との回答は約半数を占めている(図表-16)。また、産業別にテレワークの導入状況 を確認すると、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」(100%)や「学術研究、専門・技術サービス業」(71%)、「金融業、保険業」(50%)では半数以上の水準となっている(図表-17)。

仙台においても、コロナ禍を経て、「通勤時間の有効活用やワークライフバランスの向上、雪の日などは交通事故のリスク低減につながる6」等のメリットから、本社所在地が東京の企業や、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」等を中心に、テレワークを導入する企業が増えているようだ。

また、総務省「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査」によれば、仙台市のサテライトオフィス開設数は45ヵ所であり、「新潟市(59ヵ所)」、「札幌市(56 ヵ所)」に次いで多かった。テレワークの普及により働く場所の自由度が増すなか、首都圏に比べてオフィス賃料が廉価であることや、サテライトオフィス設置等に対する補助7等を背景に、宮城県外の企業によるサテライトオフィスの開設が増えていると考えられる。

テレワークの普及が更に進んだ場合、テレワークを前提としたワークプレイスの見直しや、サテライトオフィスの開設等が増えることが想定され、引き続きオフィス需要への影響を注視する必要がある。
 
5 「導入済み」と回答した割合
6 株式会社帝国データバンク「東北6県企業がテレワークで感じたメリット・デメリットに関するアンケート」(2022年2月28日)
7 宮城県「サテライトオフィス等による沿岸地域復興活動事業費補助金」
(3)スタートアップ企業の動向からみるオフィス需要
仙台市は東日本大震災以降、起業家支援に力を入れている。2014年度から2019年度までの成長戦略「仙台経済成長デザイン-質的拡大による新たな成長」において、「2017年までに新規開業率日本一」という数値目標を掲げた。2023年までの経済成長戦略「仙台市経済戦略2023~豊かさを実感できる仙台・東北を目指して~」においても、重点プロジェクトとして起業支援を挙げている。また、仙台市は、2020 年7月に内閣府が推進する「スタートアップ・エコシステム拠点都市」において、「推進拠点都市」に選定されている。

こうした起業支援策に後押しされ、スタートアップ企業は着実に増加している。フォースタートアップスの調査によれば、宮城県のスタートアップ企業は、5年間で5割増えて、2023年6月時点で126社となった8

大学発スタートアップ企業も増加している。経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」によれば、大学別大学発ベンチャー数において、東北大学は第6位(199社・前年度+20社)であった。また、東北大学は、2024年6月に、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで支援する「国際卓越研究大」の認定基準を満たしたと発表された。選定では、成長分野である半導体9や材料科学、バイオ分野などの研究力を伸ばし、大学発スタートアップ企業を1,500社に増やす計画等が評価された10

また、東北大学は、2024年4月に三井不動産と共同で、青葉山新キャンパスを中心に企業や研究者を集積し、イノベーション創出をめざす構想を発表した。同キャンパスに約4万㎡の「サイエンスパークゾーン」を整備し、2024年4月に2棟の研究施設の運用を開始し、2027年に3棟目の施設を整備する計画で、産学連携の拠点等にするとのことである11

仙台市は、2024年3月に「仙台経済COMPASS~2030 年の仙台を見据えた羅針盤」を策定し、重点取組の1つとして、「世界にインパクトを与えるスタートアップの育成」を挙げている。

こうした支援策に後押しされ、今後も仙台市でスタートアップ企業が増えると見込まれる。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の動向を注視したい。
 
8 日本経済新聞「スタートアップ、仙台市がけん引 東北全体を支援対象に」(2023年10月13日)
9 台湾の半導体大手PSMCは、2023年3月にSBIホールディングスと合弁で宮城県大衡村に半導体工場を設立すると発表した。2024年後半の着工を目指し、投資額は宮城県では過去最大の8,000億円に上る。
  朝日新聞「大衡の半導体工場「来年後半の着工めざす」 準備会社、県・村と協定」(2023年11月15日)
10 日本経済新聞「10兆円大学ファンド、東北大学はなぜ選ばれた?」(2024年6月14日)
11 日本経済新聞「東北大と三井不動産、企業・研究者集積で連携 半導体など」(2024年4月26日)

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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