4|生活習慣病関係の報酬見直し
第3に、生活習慣病の報酬見直しに関わる部分である。図表1で示した通り、▲0.25%の改定率を確保するため、診療所の生活習慣病対策を中心に報酬体系が見直された。これは診療所の報酬カットを主張していた財務省の意見が部分的に反映された形であり、言わば財務省が予算決着時の大臣合意で、本体プラス改定を呑む際、厚生労働省に約束させた歳出改革という側面を持っていた。
実際、厚生労働省幹部は見直しに至った経緯について、「(筆者注:▲0.25%が求められた診療報酬改定の決着を受けて)我々もいよいよやらなければいけない環境になり、検討を具体化させました」
29、「(筆者注:▲0.25%は)『非常に厳しい数字だな。非常に難しい宿題をいただいた』というふうに思いました。ただ、『示された以上、何とかしなければいけない』ということです。その際に、単に適正化するのではなく、何らかの質の向上につながる工夫を行いたいと考えました」と認めている
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見直しは「特定疾患療養管理科」「生活習慣病管理科」を中心に実施された。このうち、前者の特定疾患療養管理科とは、生活習慣病など厚生労働相が定める疾患を主病とする患者について、身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医」が計画的に療養を管理した場合に受け取れる項目。
その淵源は1958年の「慢性疾患指導料」に遡り、制度改正と名称変更を経て、2006年度診療報酬改定から現在の仕組みになった。点数は診療所の場合で225点、100床未満の病院で147点、100床以上200床未満の病院で87点と設定されている。
2024年度改定では、脂質異常症、高血圧、糖尿病が対象から除外されたほか、アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群が追加された。中でも、後述する通り、脂質異常症、高血圧、糖尿病が対象から外れたことがポイントである。
一方、後者の生活習慣病管理料は栄養、運動、休養、喫煙、飲酒、服薬など生活習慣に関する総合的な治療管理を評価する項目であり、「生活習慣病管理科(I)」「生活習慣病管理科(II)」の2つに細分化された。具体的には、(I)の点数が40点ずつ引き上げられ、脂質異常症が570点から610点に、高血圧症が620点から660点に、糖尿病が720点から760点に変わった。
さらに、生活習慣病管理科(I)の要件も細かく定められた。元々、それまでの生活習慣病管理科では、患者に療養計画書を丁寧に説明して患者の同意を得るとともに、計画書に患者の署名を受けることが義務付けられていたが、手続きが部分的に簡素化された。
このほか、▽患者の状態に応じ、28日以上の長期の投薬、またはリフィル処方箋(一定程度の条件で繰り返し使える処方箋)を交付できることを掲示し、患者の求めに応じて対応する、▽診療ガイドラインなどを参考に疾病管理を実施する、▽歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士などの多職種と連携することを望ましい要件とする、▽1カ月に1回以上、総合的な治療管理を実施する要件を廃止――といった変更も加えられた。
療養計画書に関しては、2025年度から始まる「電子カルテ情報共有サービス」を活用する場合、血液検査項目の記載が不要とされた。ここで言う電子カルテ情報共有サービスとは、紹介を受けた医療機関が紹介元の医療機関からの文書を取得できるようにするシステムを指す。
一方、細分化された生活習慣病管理料(II)の点数は333点に設定されるとともに、月1回に限って算定可能とされた。こちらは特定疾患療養管理料の対象から外れた脂質異常症、高血圧、糖尿病の「受け皿」の側面を持っており、生活習慣病管理料(Ⅰ)と同様に、療養計画に対する患者の同意と署名が要件とされた。検査や処置などに関しては、行為ごとに点数を付ける出来高払いが採用された。
このほか、一定程度の処置や検査などを伴わないケースで、計画的な医学管理を実施した際に算定できる「外来管理加算」などは併行して算定できないとされた。
これらの見直しの主な内容のイメージは図表4の通りである。つまり、従来の生活習慣病管理料と比べると、療養計画書の書式が簡素化されるなど要件が見直されており、日医サイドは「以前より算定しやすくなったはずだ」と説明している
31が、生活習慣病に関する加算が整理されるとともに、診療ガイドラインをベースとした疾病管理が義務付けられるなど、要件が一部で厳格化された形だ。この狙いについて、厚生労働省幹部は「生活習慣病管理の質がなるべく上がっていくようなメッセージを出せるよう工夫した」と説明している
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