2023年、経済ニュースで話題となったものの一つが「日本のGDP、4位転落 ドイツに抜かれる」だろう
1。筆者も驚いた。日本よりも人口が少なく、日本の背を追うように高齢化が進むドイツに、なぜGDPで抜かれるのだろうか。報道では「円安やドイツの高インフレによる影響が大きい」と伝えられているが、そんな短絡的な見方で済む話なのだろうか。何か、もっと根本的な問題があるのではないか――。マクロ経済は筆者の専門ではなく、GDP逆転の要因やインパクトは分からないが、女性のライフデザインを研究する身として、一つの事実が頭に浮かんだ。「ドイツはジェンダーギャップが小さく、女性が能力を発揮しているから、人口が少なくてもGDPが高いのではないか」。世界経済フォーラムによると、男女平等を表すジェンダーギャップ指数は、世界146か国中、ドイツは6位だ
2。そして「日本のGDPが停滞しているのは、ジェンダーギャップが大きく、人口の半数を占める女性が能力を発揮できていないからではないか」とも。日本は125位と世界最低水準なのだから――。
読者の中には違和感を覚えた方もいるかもしれないが、「ジェンダー平等と経済力」は、決して関連の薄い話ではない。「ジェンダー平等が進んでいる国は、一人当たりGDPが高い傾向にある」
3、「女性の就業希望者171万人全員が就業すると、GDPを約1.8%押し上げる効果がある」
4、「女性取締役のいる企業は、いない企業に比べ、株式パフォーマンスが良い」
5――。女性活躍の指標と、経済成長の相関関係を示すデータは、数多くある。だからこそ、2013年と2014年の日本の成長戦略の中に、女性活躍が位置付けられたのだ。2014年の成長戦略は、女性と高齢者が働きやすい環境を作ることが、労働力人口を維持し、労働生産性を向上させる"鍵"を握っている、と明言している。
それから10年。2016年施行の女性活躍推進法によって、労働者101人以上の企業は、女性活躍に関する自社の状況を把握し、行動計画を策定するように義務付けられ、競うように女性登用を進めている
6。しかし、個々の企業において、女性登用によって「生産性向上」につながっているかどうかという点は、あまり検証されていない。と言うよりは、女性管理職比率の数字を上げることが、自己目的化しているきらいもある。
近年は、企業の中には「女性活躍」をダイバーシティ施策の一環と捉え、自社の経営戦略として掲げるケースも増えているが、現場ではなぜ、女性登用の経営効果に関する検証が行われないのだろうか。それは、現時点で登用した数が少ないということもあるが、そもそも女性登用を生産性向上に結び付けるまでのプロセスを、描けていないからではないだろうか。何となく「人材の多様性を確保すれば良い」と考えているだけで、どうすれば能力を発揮してもらえるか、言い換えれば、女性登用と並行して、企業自身がどんな取り組みを進めないといけないのかについて、検討していないからではないだろうか。そのことが結局、登用が進まない要因にもなっているように思える。
そこで本稿では、どうしたら女性活躍が企業経営にプラス効果をもたらすのか、企業にはどのような取り組みが求められるのか、そして現時点で企業の女性登用の効果はどうか、といった点について、先行研究や、定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に行ったアンケート「
中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~「一般職」に焦点をあてて~」
7の結果を用いて考察する。
1 日本経済新聞朝刊(2023年10月25日)
2 World Economic Forum 2023, Global Gender Gap Report.
3 「森まさこ総理補佐官主催『女性と経済』に関する勉強会」第3回資料(2023年9月)
4 同
5 経済産業省(2014)「成長戦略としての女性活躍の推進」
6 2022年4月の法改正で、対象の企業規模が、常時雇用する労働者が「301人以上」から「101人以上」に拡大された。
7 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。
2――ダイバーシティ経営の成果を出すために必要な「5つの柱」