東京一極集中で激変した「出生地図」―都道府県4半世紀出生数減少率ランキングは何を示すのか/ニッポンの人口動態を正確に知る(2)

2021年12月20日

(天野 馨南子) 子ども・子育て支援

はじめに-合計特殊出生率に翻弄される自治体単位の少子化政策からの早期脱却を

「東京都は出生率が低くて未婚率も高いから、うちよりもっと少子化度合いがひどいだろう」
 
もし、そう考えている自治体があるならば、早急にその考え方をやめる必要がある。

自治体が自治体外との人流を考慮に入れない域内合計特殊出生率(以下、TFR)比較に翻弄されることなく、人口動態の正しい統計的理解のもとに、エリア少子化対策(自治体で生まれる子どもの実数の向上)が実施されることを願い、今回は、「都道府県市区町村における合計特殊出生率をベンチマークとした政策」からの方針転換がなぜ重要なのか、が理解可能なデータを提供したい。
 
最初に、そもそも「少子化対策」とは、人口の減少に直結する「出生数の減少を食い止める・出生数を増加させる」諸々の政策をいう。

この全体の戦略(strategy)の確認は非常に大切である。ゴールが異なれば、当然ながら、ゴールへの到達手段、すなわち戦術(tactics)が変わってくる。何をするためにやる政策なのか、見失わないようにしたい。
 
筆者のところには多くの自治体から人口減少に関する相談が寄せられているが、残念ながら今の自治体における少子化戦略では、これが最終ゴールであるかのように「TFRを上昇させること」を少子化対策に掲げる傾向が強い。人口統計学的に見れば、これは明確に「誤り」である。

一定条件のもとにおいては、TFR上昇を少子化対策の最終ゴールに掲げても誤りではないが、単純にTFR上昇のみを少子化対策の最終ゴールに掲げた場合、その自治体の人口は消滅に向かうことになる、それくらいTFRはその数値の内容を理解したうえで取り扱うべき指標である。

1――TFRとは何なのか

1――TFRとは何なのか

TFRを少子化指標として用いるにあたり理解しておくべきことは、TFRは日本全体の少子化指標としては有効な指標である、ということである。言い換えると日本全体の指標として使用する分には、「いまのところ」問題が生じない。なぜなら日本は極めて移民比率が低い(2%程度)、すなわち「TFRが日本国外との人流の影響をほとんど受けない国」だからである。
 
TFRは、日本全体の少子化対策(日本で生まれる子どもの数の向上)指標としては、経年推移比較において有効(TFRの低下=少子化の加速、TFRの上昇=少子化の減速)であるが、自治体の経年推移、もしくは自治体間比較においては、使用してもあまり意味をなさない状況にある。

以下で簡単に図示しつつ、解説してみたい。
TFRは単純平均では算出されない。先ずX年におけるYエリアの15歳の未婚女性と既婚女性の人数を分母として、15歳の女性の出生した赤ちゃんの人数を分子とする。この計算を15歳から49歳まで各年齢で算出し、それをすべて合算すると、X年におけるYエリアの15歳から49歳の女性の「X年におけるYエリアの女性の生涯の出生動向」(いわゆる合計特殊出生率)が統計的に推計される(図表1)。従って、TFRとして算出された数値は次のような2点の特徴をもつ。
 
■あくまでも統計的指標であること
■未婚者を含むこと(夫婦当たりの子どもの数ではないこと)

しかしながら、上記2点を理解しないままに濫用されるケースがマスコミ報道や自治体の少子化政策において少なからず見受けられるように筆者は感じる。

そこで、TFRは女性人口の人流の影響を受けることについて解説したい。

以下は人口減少エリアでほぼ共通して発生している「若い独身女性が就職期をメインとしてエリア外へ転出超過にある状況」でのTFRの変化を図示したものである(図表2)。
イメージしやすいようにシンプルな数字を置いているが、エリア外への転出超過発生前のTFR計算では、50/200でTFRは0.25となる。しかし転出超過発生後には、50/180となり、TFRは0.28へと上昇する。つまり、そのエリアにおいて子育て支援策等の少子化対策の如何にかかわらず、TFR上昇が発生するのである。

この事実について、「中山間地域など過疎地域だと言われているはずのところほど、TFRが高い」というような感覚を持つ読者も多いのではないかと思う。未婚女性がエリアから出ていくことで、分母となる赤ちゃんをもたない女性の割合が少なくなることにより、女性1人当たりの出生数が多く見える、というトリックに気がつかなければならない。
 
逆に、東京都のように就職期を中心に未婚の女性人口が転入超過で多く集まるエリアは、以下の図のような現象が発生する。
転入超過発生前の計算では、50/200でTFRは0.25となる。しかし転入超過発生後には、50/220となり、TFRは0.23へと下落する。つまり、そのエリアに従来から住む女性の年齢別の結婚・出産動向や少子化対策如何にかかわらず、TFR下落が発生するのである。

筆者は東京都に居住しているが、肌感覚では「出生率が低いというけれど、年々、中学受験が大変になっている」という感覚を持っており、実際、同じ学校の偏差値が年々上昇し、進学塾も満員御礼で増クラス対応に追われている。あとで示すが、この「本当は、東京都の子どもは多いのではないか」は肌感覚だけではなく、統計的にも証明されている。

2――四半世紀で東京都の出生数は増加、「多子化」へ

2――四半世紀で東京都の出生数は増加、「多子化」へ

未だTFRを出生数の増減ベンチマークとしている自治体に警鐘をならすデータを示したい。
 
東京一極集中とは、統計的には、1997年の東京都への男女の転入超過開始を起点(女性は96年より転入超過)とする、東京都における他のエリアからの右肩上がりの転入超過による人口増加のことである(図表4)。

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子(あまの かなこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴

プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は就任順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー

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