中国で開発が進むデジタル人民元は、中央銀行が発行するデジタル通貨『CBDC(Central Bank Digital Currency)』の1つである。CBDCの実用化に向けた研究は、これまでスウェーデンやウルグアイなどの小国が先行してきたが、中国がそのトップ争いに加わった格好だ。ただし、中国の発行するデジタル人民元は、世界に与える影響やその意味合いが小国の発行するものとは大きく異なる。
CBDCは、既存の金融システムに大きな影響を及ぼすと見られており、各国の中央銀行は、そのメリットとデメリットの両面に関して様々な研究を進めている。その現状を示すものとして、国際決済銀行(Bank for International Settlements)が2018年後半に63ヵ国の中央銀行を対象として実施した調査1がある。この調査によると、CBDCの研究開発を行っていないのは、小国の中央銀行や足元の差し迫った課題に手一杯となっている中央銀行だけであり、世界の中央銀行の約7割は何らかの形でCBDCの研究や開発を進めているという[図表2]。しかし、その研究は概念的なものに留まるものが多い様であり、早期にCBDCの発行が実現可能だと考える中央銀行は少数でしかない。
今回注目された中国では、2014年からデジタル通貨の研究は始まり、既にブロックチェーン技術を用いたデジタル通貨での銀行間取引および決済に関するテストが実施されている。2017年には、人民銀行にデジタル通貨リサーチラボ(Digital Currency Research Lab)が設立され、同研究所の名称で申請された特許数は74件にもなる。今後、中国において一般利用型のデジタル人民元が発行されれば、主要経済国で初めての事例となる。易綱総裁は9月24日の記者会見において、デジタル人民元の早期発効の可能性は否定しているものの、中国のデジタル通貨にかける本気度はかなり高いと見られる。
1 国際決済銀行「Proceeding with caution - a survey on central bank digital currency」(2019年1月)