改正債権法の解説(3)-約款はなぜ有効か?

2019年10月07日

(松澤 登) 保険会社経営

■要旨

2020年4月施行予定改正債権法の解説の第三回目は、定型約款についてである。保険だけでなく、電気を使ったり鉄道に乗ったりするときにも約款が関係してくるが、なぜ読んだことのない約款の個々の条項まで法的な効力を有するかについては、これまで法律は定めを置いていなかった。
 
今回の債権法改正では、特定者が不特定多数と行う定型取引について、特定者が定型約款を準備し、その定型約款を契約内容とすることを相手方と合意したとき、あるいは特定者が契約は定型約款によることをあらかじめ示した上で定型取引を行うことを相手方と合意したときには、相手方は定型約款の個々の条項にも合意したものとみなすというルールを設けた。
 
他方、定型約款の条項のうち、相手方にとって不利な条項のうち信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは合意がないものとみなすこととした。これにより不当条項や不意打ち条項は効力をそもそも有しないこととされた。
 
定型約款締結後の条項の変更は、相手方の利益に適合する場合か、あるいは定型約款の変更が合理的であって、かつ変更時期までに周知を行った場合には、有効になるとの規律が設けられた。

■目次

1――はじめに
2――保険約款の有効性
  1|保険約款とは
  2|約款の有効性を巡る議論
3――改正債権法における定型約款の規律
  1|定型約款が有効になるには
  2|定型約款条項として有効となるための具体的要件
  3|不当条項規制
  4|定型約款の内容の表示
4――定型約款の変更
  1|これまでの実務
  2|定型約款の変更
5――おわりに

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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