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スマホ競争促進法の指針-Digital Markets Actとの比較

2025年09月12日

(松澤 登) 保険会社経営

4――法7条1号(基本動作ソフトウェア指定事業者の妨害行為の禁止)

1|法7条1号の概要
法7条1号は対象を基本動作ソフトウェア指定事業者としている。禁止行為は以下の2つである(図4)。
(1) アプリストアを基本動作ソフトウェア指定事業者(子会社を含む)が提供するものに限定すること

(2) 他の事業者が代替アプリストアを提供することを妨げること、また利用者が代替アプリストアを利用することを妨げること

スマートフォンには初期設定されたアプリストア(AppleはApp Store、GoogleはGoogle Play)がある。これら以外の代替アプリストアからアプリをダウンロードすること(サイドローディングという)については従前よりGoogleが認めていたのに対し、Appleは認めていなかった。法7条1号は基本動作ソフトウェア指定事業者に対してサイドローディングを可能にすべきことを定めている。
2|考え方10
4の1の(1)でいう「限定する」行為には、指定事業者と利用者との間の規約で代替アプリストアの利用を禁止する行為や、指定事業者の採用する技術的仕様で代替アプリストア提供を不可能とする行為を含むとする。

4の1の(2)の「妨げる」行為には、代替アプリストアの利用を認めつつ、不合理な技術的制約や契約上の条件を課すことなど代替アプリストアの提供・利用を実質的に困難にさせる蓋然性の高い行為を含むとする。
 
10 指針p21~p22
3|想定される例11
上記考え方に出てきている行為に加え、例えば以下のような行為が禁止行為として想定されている。

・代替アプリストアの提供を行う他の事業者に対して事業規模や財務状況の審査項目にきわめて限定的になるような高い水準を設定すること。
 
11 指針p23~p24
4|小括(DMAとの比較等)
本号に関連するDMAの条文は6条4項である。同項では、GKは、CPS経由以外の方法で第三者アプリまたはアプリストアへアクセスすることを認めなければならない。そしてエンドユーザーが自身のデフォルトとして第三者アプリやアプリストアを設定することを妨げてはならないというものである。

欧州委員会は2024年6月24日、Appleが開発者に対し、代替アプリストアを提供したり、代替アプリストアを通じてアプリを提供したりする際に課した契約条件について、DMAを遵守するものかどうか調査を開始したことを年次報告の中で触れている12
 
12 基礎研レポート「EUデジタル市場法の施行状況-2024年運営状況報告」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=83093?site=nli 参照。

5――法7条等にかかる正当化事由

5――法7条等にかかる正当化事由

1|正当化事由に係る規定
法7条各号および法8条1号~3号においては、正当化事由が定められている。文言上は各条文に該当しても、以下の正当化事由がある場合は問題とはされない。

(1) スマートフォンの利用に係るサイバーセキュリティの確保
(2) スマートフォンの利用者に係る情報の保護
(3) スマートフォンの利用に係る青少年の保護(以上、7条柱書かっこ内、8条柱書)
(4) スマートフォンの動作の著しい遅延その他のスマートフォンの異常な動作の防止
(5) スマートフォンを利用して行われるとばくその他の犯罪行為の防止(以上、政令2条)
2|考え方13
上記(1)につき、例えば悪質なソフトウェア(マルウェアやランサムウェア等)対策を行わない代替アプリストアが基本動作ソフトウェア指定事業者のOSにおいて提供されることを防ぐためといった事由などが挙げられている。

上記(2)~(5)の考え方も列挙されているが省略する。
 
13 指針p25~p29
3|正当化事由にかかる想定例14
(1)正当化事由があると認められる場合
基本動作ソフトウェア指定事業者が、OSにおいて利用される代替アプリストアに対して、サイバーセキュリティの確保等の観点から必要な基準に照らした審査等を行い、当該代替アプリストアが審査基準を満たしていない場合には、当該基本動作ソフトウェアにおける当該代替アプリストアの提供を禁止することが挙げられている。

また、基本動作ソフトウェア指定事業者が、年齢制限のある個別ソフトウェアの利用や保護者の意図しない重課金及び誤課金を防ぐといったスマートフォンの利用に係る青少年の保護の観点から、未成年者の利用者においては、保護者の同意に基づき、代替アプリストアを利用することを制限するための設定(いわゆるペアレンタルコントロール機能)を可能にすることが挙げられている。

(2)正当化事由がないと認められる場合
スマートフォンの利用者が代替アプリストアのダウンロードを行おうとする際に、いずれの代替アプリストアに対しても審査等を行うことなく一律に、指定事業者が、サイバーセキュリティの確保や利用者情報保護の観点から安全ではないことから利用を控えるように促す旨の警告表示を行うことが挙げられている。
 
14 指針p30~p33
4|小括(DMAとの比較等)
このような正当化事由についてはDMAにも存在する。例えば代替アプリストアの利用に関しては、ハードウェアやOS の完全性を危険にさらすことのないように手段を採ること、およびエンドユーザーのセキュリティ確保のための手段を採ることは否定されない。ただし、これらの手段は比例的でGKによって正当化される必要がある(DMA6条4 項)とされている。

上述の通り、Appleはサイドローディング(代替アプリストアを利用したアプリのダウンロード)を一切認めていなかった。この理由としては、モバイルマルウェアとそれにより生じるセキュリティとプライバシーへの脅威が挙げられている15。しかし、このような主張により一切の代替アプリストアからのダウンロードが認めないとする取扱いは、DMAも法も禁止するところである。

6――法7条2号(OS機能の利用を妨げることの禁止)

6――法7条2号(OS機能の利用を妨げることの禁止)

1|法7条2号の概要
法7条2号は、基本動作ソフトウェア指定事業者が、個別ソフトウェアの提供に利用するOS機能について、同等の性能で他の事業者が個別ソフトウェアの提供に利用することを妨げること(図5)を禁止している。
2|考え方16
OS機能とは、例えば、スピーカー、マイク等の音声機能、データ等の通信機能、スマートフォンの利用者に係る生体認証機能、位置情報の測位機能、文字入力機能、個別ソフトウェアを起動させる機能、スマートフォンと外部接続機器とのペアリング機能などが含まれ得る。

禁止される行為としては、直接的にOS機能を利用させない行為のほか、他の事業者がOS機能を同等の性能で個別ソフトウェアの提供に利用すること自体は認めつつ、当該他の事業者に合理的でない技術的制約や契約上の条件等を課すことなどによって、他の事業者がOS機能を同等の性能で個別ソフトウェアの提供に利用することを実質的に困難にさせる蓋然性の高い行為が挙げられている。
 
16 指針p35~p37
3|想定される例17
指定事業者が、非接触型決済を可能とする決済アプリの提供に利用するNFC(近距離無線通信、Suicaなど)機能について、他の事業者が決済アプリの提供に利用するために必要なAPI等を提供しないことが挙げられている。

また、指定事業者が、指定事業者等が決済アプリの提供に利用する生体認証機能について、他の事業者が個別ソフトウェアの提供に利用することを利用規約等において禁止することなどが事例として挙げられている。
 
17 指針p37~p42
4|小括(DMAとの比較等)
DMAにも同様の規定がある。具体的には、GK は、サービスの提供者とハードウェアの提供者に対して、無償で、効果的な相互運用または相互運用目的のアクセスを提供しなければならない。これらは指定OS やバーチャルアシスタント経由でアクセスされるGKのサービスやハードウェアへのアクセスや相互運用性と同程度でなければならない(DMA6条7項)とされている。

具体的には、2020年10月にAppleがiPhoneのNFC機能をApple Payに限定していたこと等につき欧州委員会が競争制限的であるとの暫定的見解を発出した事例がある18。なお、現状、iPhoneにおけるNFC機能は他の事業者にも開放されている。
 
18 基礎研レポート「EUのデジタル市場法の公布・施行-Contestabilityの確保」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72386?site=nli 参照。本件はその後、AppleのNFC開放によって案件としては収束した。

保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
 2025年4月 取締役保険研究部研究理事
 2025年7月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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