2|不適切とされる事案の共通点
まず、不適切とされる事案のイメージを整理すると、図表1の通りになります。つまり、有料老人ホームに入居する利用者に対し、併設されている訪問看護ステーションが外付けのサービスを提供する方法です。
これを病院や在宅ケアと比較すると、両者を組み合わせたハイブリッドのようなモデルであることに気付きます。
まず、病院の場合、病棟に入院する複数の患者に対し、医師や医師の指示を受けた看護師が対応しています。いわゆる病院における集団的なケアです。
一方、訪問看護や訪問診療などの在宅ケアでは、自宅に住む患者・利用者に対し、医師や医師の指示を受けた看護師などが医療やケアを提供しています。いわゆる自宅を中心とした個別的なケアになります。
これに対し、図表1のスタイルでは両者を組み合わせたような形になっており、集合住宅に入居する患者・利用者に対し、外付けのステーションから看護師が訪れています。つまり、制度的には在宅ケアなのに、実態は病院のような集団的なケアに近いスタイルと言えます。
もちろん、このスタイル自体、特に問題があるわけではなく、実際に質の高いホスピス住宅を提供している事例も目にしますが、不適切とされる事案では、住宅を運営する事業者が併設の訪問看護事業所を通じて、入居者に過剰なサービスを提供したり、報酬上の加算(ボーナス)を過剰に請求したりしている疑いが報じられています。こうした事象は一般的に「囲い込み」と呼ばれています。
さらに、報道されている事案は複数の事業者にまたがっており、共通点として、概ね4つの点を指摘できるとのことです
4。
(1) 必要ない人にまで「1日3回」「複数人での訪問」「早朝・夜間・深夜の訪問」を設定。
(2) 原則30分間は訪問しなければいけないのに、数秒~数分の訪問でも30分滞在したことにして報酬を請求。
(3) 看護師1人の場合でも複数人での訪問、または早朝・夜間に訪問したという虚偽の記録を作って報酬上の加算を請求。
(4) 表面上は「コンプライアンス」を掲げ、相談・通報窓口を設置しているが、内部のスタッフが声を上げると、異動や退職に持って行く。パワーハラスメントも横行。
主な対象者は末期がんの患者やパーキンソン病など難病の患者。いずれも医療的ニーズが高い人という共通点があります。サービスの名称は公式に定められているわけではないため、「ホスピス型住宅」「ホスピス住宅」「ホスピスホーム」「ナーシングホーム」「緩和ケアホーム」「医療特化型有料老人ホーム」「パーキンソン病専門」など様々です。
こうした事例が一部の不心得な法人あるいは個人に限った話であれば、何らかの形で制限または処罰すれば済む話です。それでも短期間に同様の案件が報じられている点を踏まえると、まだ分かっていない案件、あるいは報じられていない案件は多いと推察されます。俗な言葉に言い換えると、「手っ取り早く儲けられるビジネスモデル」として広がっている可能性が高いと思われます。
さらに、少し見方を変えると、「患者や利用者、家族のニーズがあるからこそ広がっている」という受け止め方も可能です。そもそものニーズがなければ、これほど広がることは困難であり、「制度や政策が十分に対応できていないニーズの受け皿になっている」と解釈できるかもしれません。
このほか、保険制度から得られる報酬の構造とか、行政による関与の実情などを見ると、筆者自身は「悪い意味で綿密に考えられたビジネスモデル」という印象を受けています。以下、不適切とされる事案を引き起こしている背景として、(1)医療ニーズの高い人の在宅ケアが不十分、(2)高齢者の居住保障が不十分、(3)制度の不備――という3つを指摘したいと思います。
4 2025年7月25日高齢者住宅新聞「介護経営者サミット」市川氏資料を参照。一部表記などを変更。