気候指数 2024年データへの更新-日本の気候の極端さは1971年以降の最高水準を大幅に更新

2025年05月27日

(篠原 拓也) 保険計理

3――気候指数の作成方法の振り返り

本章では、気候指数の作成方法を振り返っておく。多くは、前回のレポートに記載した内容と同様となっている。次章に示す、気候指数の計算結果を読み解くうえで、参考としていただきたい。

1|地域区分に分けて指数を作成し、その平均から日本全体の指数を作る
前章で述べたとおり、日本全体を12の地域区分に分ける。また、九州南部と奄美を合わせて、「九州南部・奄美」の地域区分もつくる。各地域区分の指数は、それぞれに含まれる観測地点の指数の単純平均とする。

そのうえで、日本全体の気候指数を、各地域区分の単純平均として作る。平均の計算にあたり、九州南部と奄美については、「九州南部・奄美」を用いる。

2|月ごとと季節ごとの指数を作成する
指数は、月ごとおよび四半期の季節単位(12~2月(冬季)、3~5月(春季)、6~8月(夏季)、9~11月(秋季))に作成する。そして、月や季節の指数と併せて、月の5年移動平均、季節の5年移動平均の指数も作成する。これは、気候変動を、短期間の変動としてではなく、より長いスパンで捉えようとする試みである。

なお、やや細かい点ではあるが、参照期間の当初5年間(1971-75年)については、実績が5年分に満たないため、移動平均をとっても変動が大きくなる。そこで、この期間は、5年移動平均の不足分を1971-75年の平均で補うこととする。

3|指数はゼロを基準に、プラスとマイナスの乖離度の大きさで表される
気候指数は、7つの項目の乖離度をもとに計算する。7つの項目とは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度、海面水位を指す。計算にあたり、1971~2000年の30年間を、参照期間とする。そして、あらかじめ、各項目の計数値について、参照期間中の同じ月(季節)の平均と標準偏差を求めておく。(以下、本章では季節については、「月」を「季節」と読み替えていただきたい。)

ある1つの項目に、注目する。この項目について、ある月の乖離度を求めることにしよう。そのためには、その月の計数値から、参照期間中の平均を引き算する。その引き算の結果を、参照期間中の標準偏差で割り算する。このようにすることで、その月の計数値が、標準偏差の何倍くらい、平均から乖離しているかという、乖離度が計算できる。



このようにして気候指数を作成することにはさまざまなメリットがある。まず、地域や時期による違いの要素を取り除いて純粋に気象の極端さを測ることができる。例えば、11月のある日の最高気温が30℃だったとしても、その場所が北海道か沖縄かでは、極端さの意味合いが異なる。また、東京の日最高気温が30℃だったとしても、それが7月か、11月かでは極端さが違ってくるだろう。気候指数を、乖離度をもとに設定することで、こうした地域や時期による違いの要素を除去できる。

次に、気候指数は気温の"℃"や、降水の"mm(ミリメートル)"などの単位を持たない「無名数」となっている。このため、高温と降水といった異種の気候指数同士の比較が可能となる。また、無名数であるため、複数の気候指数の平均をとることができる。各地域区分や日本全体の気候指数、(後に述べる)合成指数の作成は、平均をとることができるというメリットを生かしたものとなっている。

気候指数の水準の解釈については、乖離度が標準正規分布11に従うものと想定すると、-1から1の間に入る確率は、約68.3%となる。逆に、乖離度が1を超える確率は、約15.9%となる。乖離度が2を超えるのは珍しいことで、その確率は、約2.3%。乖離度が3を超えるのは大変珍しいことで、約0.1%の確率となる。この乖離度を、第5節の通り、7つの項目それぞれについて計算していく。
 
11 平均0、標準偏差1の正規分布。

4|元データとして気象庁の気象データと潮位データを使用する
指数作成の元データは、高温、低温、降水、乾燥、風、湿度については過去の気象データ、海面水位については歴史的潮位資料と近年の潮位資料の潮位データとする。いずれも気象庁のホームページからダウンロードして取得したデータとする。

気象データは、日単位のものとし、各観測地点の「日最高気温 (℃)」、「日最低気温(℃)」、「降水量の日合計 (mm)」、「日平均風速 (m/s)」、「日平均相対湿度 (%)」のデータである。乾燥指数のために、降水に関しては、降水現象の有無に関する「現象なし情報」も用いる。

一方、潮位データは、月単位のものとし、各観測地点の「月平均潮位 (cm)」を用いる。
5|7つの項目について、指数を作成する
以下の(1)~(7)では、ポイントを絞って、項目別に作成方法を概観していく。いずれも、参照期間を基準として、それと比較した"極端さ"の度合いを示すものとして乖離度を用いる、という方針が貫かれている。

(1) 高温 : 上側10%に入る日の割合から算出
高温は、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。例えば、ある年の5月27日については、1971年から2000年までの5月27日とその前後5日間(5月22~26日および5月28~31日と6月1日)の、合計330日分のデータのうち、33番目に高いデータが閾値(しきいち)となる。この閾値以上の日が何日あったか、をみることとなる。

気温は、1日のうちにも変動するため、日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、高温の指数とする。

(2) 低温 : 下側10%に入る日の割合から算出
低温は、高温と同様に、参照期間中の気温分布に照らした場合に、月のうち、下側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。日最高気温と日最低気温のそれぞれについて、その割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。そして、その和半をとって、低温の指数とする。

(3) 降水 : 5日間の降水量の上側10%に入る日の割合から算出
降水は、月のうち、連続する5日間の降水量をみる。高温と同様に、参照期間中の降水量の上側10%の中に入る日が、その月にどれだけあるかという割合でみていく。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、降水の指数とする。

(4) 乾燥 : 乾燥日が連続する日数から算出
乾燥の指数は、連続乾燥日から算出する。すなわち、乾燥日が何日続くかという、最大連続日数についてデータをとる。その際、乾燥日をどのように判定するかが検討ポイントとなる。降水量が0ミリメートルでも、わずかながら降水が見られる場合と、まったく降水が見られない場合があるためだ。

これについては、気象データにおいて観測単位(降水量0.5ミリメートル)未満で、降水の現象の有無の観測をした結果として表示されている「現象なし情報」を用いて判定する12

参照期間中の同月の乾燥日の最大連続日数をもとに、その月の参照期間からの乖離度が計算される。これを、乾燥の指数とする。
 
12 現象なし情報は、降水の現象があった日は0、なかった日は1の値で表示されている。

(5) 風 : 上側10%に入る日の割合から算出
風は、参照期間中の日平均風速の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、風の指数とする。

(6) 湿度 : 上側10%に入る日の割合から算出
湿度は、参照期間中の日平均相対湿度の分布に照らした場合に、月のうち、上側10%の中に入る日が、何日を占めるかという割合をとる。この割合から、参照期間の平均を差し引き、その結果を参照期間の標準偏差で割り算して、それぞれの乖離度が計算される。これを、湿度の指数とする。

(7) 海面水位 : 参照期間中の同じ月のデータと比較して算出
海面水位は、月平均潮位から算出する。ただし、月によって海面水位の高さは変わる。そこで、参照期間中の同月の30個のデータをもとに、参照期間の平均と標準偏差を計算する。それらをもとに、その月の平均潮位の参照期間からの乖離度が計算される。これを、海面水位の指数とする。

6|合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4つの指数の平均とする
最後に、以上で算出された7項目の指数をもとに、合成指数を算出する。

7項目の指数のうち、高温と低温はともに気温についての項目であり、相互に関連があるものと考えられる。また、降水と乾燥は反対の事象を表す項目と言えるため、負の相関があるものとみられる。(次章の最後に、(参考)として、気候指数間の相関係数の計算結果を表示しているので、ご参照いただきたい。)

さらに、風については、観測方法がよく変更されており、データが空欄となっていた日数も多いなど、データの一貫性に難があるという課題が残っている。13

このため、前回と同様に今回も、低温、乾燥、風は合成指数の計算には用いない。合成指数は、高温、降水、湿度、海面水位の4項目の平均として算出する。14
 
13 図表18に示すとおり、気象データのうち日平均風速については、1971~2024年の間に、すべての観測地点で少なくとも1回、多い地点では4回、観測方法が変更されている。また、空欄となっている日数は、他の気象データに比べて多い。
14 なお、観測地点ごとに合成指数を算出する場合には、海に面していない観測地点(気象データのみを観測している地点)では、高温、降水、湿度の3項目の平均として、合成指数を計算する。
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