3|電子決済手段
電子決済手段とは、物品等購入の代価の支払いにつき不特定の者に対して使用することができ、かつ不特定の者を相手方として購入及び売却ができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建て資産に限る)であって、電子情報処理組織を用いて移転するものができるものと定義されている。(資金決済法2条5項1号)
8。また、特定信託受益権を利用したものも定められている(同項3号)。特定信託受益権とは、金銭信託の受益権を電子的に移転できる財産価値として表示するものであって、受け入れた金銭の全額を預貯金として管理するものである。
条文は一見して理解しづらい表現であるが、これらはブロックチェーンを利用した暗号資産(以前は仮想通貨と言った)のうち、通貨価値と連動するもの、いわゆるデジタルマネー型のステーブルコイン
9を指す。具体例としてはテザーといった米ドルに連動するステーブルコインがある。
なお、2022年の資金決済制度等に関するワーキンググループ報告書(以下、「2022年報告書」p20)では、同じビジネスには同じ規制を適用するという考えから、本条は暗号資産の性格を持たない既存のデジタルマネーのうち「発行者」と「仲介者」が異なる場合を含むものとされている
10。
電子決済手段等取引業には、業として行う(1)電子決済手段の交換等と、(2)電子決済手段の管理がある(資金決済法2条10項柱書)。(1)電子決済手段の交換等には、「電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換」(同項1号)および「前号に掲げる行為の媒介、取次ぎまたは代理(同項2号)が含まれる。また(2)電子決済手段の管理は「他人のために電子決済手段の管理をすること」(同項3号)とされている。電子決済手段等取引業者は資金決済法62条の3の登録を受けることとされている(資金決済法2条12項)。 電子決済手段等取引業者は電子決済手段を仲介・管理する者であって、発行者ではない。
電子決済手段の発行及び償還する行為は、原則として為替取引に該当する。そのため、業として電子決済手段の発行及び償還を行う者には、銀行等
11の免許又は資金移動業の登録が求められる(資金決済法62条の8第1項参照)。資金移動業者が発行を行う場合、資金移動業のところで述べた送金上限規制等が適用される
12。
そして、電子決済手段の仲介・管理業者である電子決済手段等取引業者にも資金決済法上の一定の行為規制が課せられている(資金決済法62条の10~62条の17)。また、利用者の電子決済手段は自己の保有する電子決済手段と分別して管理する(資金決済法62条の14)こととされている。そして、ここでいう管理は、利用者を元本の受益者とする信託会社等への信託としておこなわなければならない(電子決済手段等取引業者に関する内閣府令38条1項)とされている。また、信託を利用する代わりに、利用者の電子決済手段を自己のものと区分して、ネットから切り離されたいわゆるコールドウォレットという保管場所
13において、管理する方法をとることもできる(同府令38条7項)。
8 1号に定めるものと相互に交換できる電子情報処理組織を用いて移転できるものも電子決済手段とされている(同項2号)。
9 簡単に言えば、いわゆる暗号資産のうち、特定の法定通貨と価値が同一になるような仕組みとして、物品等購入代金支払等に利用しやすくしたものを指す。
10 筆者の知る限りでは、このようなデジタルマネーは現時点では国内には存在しない。
11 ただし、金融庁は銀行による電子決済手段の発行(信託銀行による3号に該当する電子決済手段を除く)に慎重な姿勢を示している(2025報告(p19))参照。
12 「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)」(16 資金移動業者関係)https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kaisya/14.pdf p73参照。
13 ネットにつながっている保管場所をホットウォレットという。サイバー攻撃の的となりやすい。