将来の気候変動経路に応じた死亡率の予測に入る前に、本章と次章では、これまでの取組みについて簡単に見ておくこととする。本章では、2022年度に手掛けた気候指数の作成について振り返る。
6
6 第1章の内容は、2ページの注記1、2に示したレポートの概要となっている。
1|気候指数には慢性リスク要因の影響の定量化が求められる
近年、世界的に、社会経済のさまざまな場面で気候変動問題に対する注目度が高まっている。台風や豪雨などの自然災害の頻発化・激甚化をはじめ、干ばつや海面水位上昇などに伴う食糧供給や生活環境の悪化が懸念されている。その対策として、カーボンリサイクル、ネットゼロ、CCS(二酸化炭素回収・貯留)
7、再生可能エネルギー
8の導入促進といった温室効果ガス排出削減の取組みや、それをファイナンスの面から支える、グリーンボンド(環境債)・サステナビリティボンドの発行等の動きが、各国で進められている。
そこで問題となるのが、そもそも気候の極端さは、いまどの程度高まっているのか、そして将来どれくらいにまで高まっていくのか、という点だ。気候変動リスクには、豪雨による河川の氾濫や土砂災害のように、短時間のうちに急激に環境が損なわれる「急性リスク」だけではなく、海面水位上昇による沿岸居住地域の喪失のように、長期間に渡って徐々に環境を破壊していく「慢性リスク」もある。気候指数には、こうした慢性リスク要因の影響を定量的に示していくことが求められる。
7 CCSは、Carbon dioxide Capture and Storageの略。日本では、北海道の苫小牧沿岸域にて、二酸化炭素の分離・回収、圧入、貯留等に関する大規模実証試験が実施される等、早期の社会実装に向けた取組みが進められている。
8 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス等自然界にあるエネルギー。遍在し枯渇せず利用時に二酸化炭素を排出しない。
2|地域区分ごとに複数の観測地点を設定
このような慢性リスクを定量化すべく、これまでに、気象庁の気候区分をもとに、日本全体を12の地域区分に分けて、気候指数を作成してきた。この区分は、一般的な地方区分を踏まえつつ、都道府県の行政単位ごとに設定することが、主な狙いとなっている。
なお、奄美については面積や人口が他の地域と比べて小さい。また、他の地域が都道府県単位であるのに対して、奄美は鹿児島県の一部であり市町村単位での設定となっている。そこで、気候指数の作成においては、九州南部と合わせた「九州南部・奄美」の地域区分を設定することとしている。この結果、日本全国を11の地域区分に分けることとなる。
3|気象データの観測地点は気象台等とする
各地域区分に複数の観測地点を設定して、そのデータをもとに気候指数を作成する。そして、各地点の気候指数を平均化したものを、その地域区分の気候指数とする
9。
各地域区分で設定する気象データの観測地点は、原則として気象台等
10とする。気象台等では、過去からの日々の観測要素(気温、降水量、風、湿度、天気など)が取得できるためである
11。無人観測施設であるアメダス
12による観測地点でも、降水量、風、気温などのデータが取得できるが、湿度や一部の項目が取得できないなどの制約があることから、気候指数作成用の気象データとしては用いない。また、すでに観測を停止している地点のデータも用いないこととする。
なお、海面水位指数の作成には潮位データを用いるが、後述の通り、今回の死亡率シナリオの作成では、同指数は使用しない。そこで、潮位データの観測地点の選定については注記欄に記す。
13
気象データは、日単位のものとし、各観測地点の「日最高気温 (℃)」、「日最低気温(℃)」、「降水量の日合計 (mm)」、「日平均風速 (m/s)」、「日平均相対湿度 (%)」のデータとする。乾燥指数のために、降水に関しては、降水現象の有無に関する「現象なし情報」も用いる。潮位データは、月単位のものとし、各観測地点の「月平均潮位 (cm)」を用いる。
9 各地点の気候指数は、気象や潮位のデータの参照期間(1971~2000年)平均からの乖離度(平均と標準偏差を用いて算定)として計算される。そのため、各地点の平均をとることができる。
10 気象台の他に、有人の気象観測施設も含まれる。
11 一部の項目のデータが取得できない気象台等もある。その場合、その観測地点のデータは気候指数作成には用いない。
12 国内約1300か所の気象観測所で構成される気象庁の無人観測施設。アメダス(AMeDAS)は、Automated Meteorological Data Acquisition System(地域気象観測システム)の通称。
13 潮位データについては、1997年3月以前の潮位の観測値が「歴史的潮位資料」、1997年4月以降の潮位の観測値が「近年の潮位資料」として、気象庁より公表されている。ただし、歴史的潮位資料は、すべての潮汐観測地点で公表されているわけではなく、長期に渡って観測を続けている地点に限られる。一方で、過去のデータはあるものの、すでに観測を停止しているために、直近のデータがない地点も多く見られる。そこで、各地域区分で設定する潮位データの観測地点は、歴史的潮位資料と近年の潮位資料が公表されていて、かつ現在も観測継続中の地点としている。
4|観測地点は、全部で174地点 (気象データ154地点、潮位データ57地点)
以上の検討の結果、観測地点は下表のとおりとなった。気象データとして154地点、潮位データとして57地点のデータを気象庁のホームページより取得し、これらをもとに気候指数を作成している。
このうち、気象データと潮位データを両方とも観測しているものが37地点
14。気象データのみを観測しているものが117地点。潮位データのみを観測しているものが20地点となっている。全部で、174の観測地点のデータをもとに、気候指数を作成する。
15
14 気象データの観測地点である石垣島と、潮位データの観測地点である石垣は、同一としてカウントした。与那国島と与那国も同様。
15 観測地点ごとの「気象データが空欄となっていた日数と観測方法変更年」と「潮位データが空欄となっていた月数と観測開始年月」については、付録図表をご覧いただきたい。